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2022.10.27

「風力先進県」で地元がノー 国内最大級の風力発電計画に“逆風”

 風力発電の導入量で全国トップの青森県。そのお膝元の八甲田山系で計画されている国内最大級の風力発電「(仮称)みちのく風力発電事業」を巡り、地元で異論が噴出している。事業主のユーラスエナジーホールディングス(東京)は計画の一部見直しを余儀なくされており、思わぬ“逆風”に見舞われた形だ。「風力先進県」で何が起きているのか。【江沢雄志】

 日本風力発電協会によると、青森県の風力発電導入量は21年末時点で65・5万キロワット。都道府県別で最も多く、県内には300基以上の風車が建ち並ぶ。一定の強さの風が安定して吹く「地の利」があることが大きい。

 ユーラス社はこうした風況の良さに加え、風車を建てる際の工事に必要な資材搬入路の整備のしやすさなどから八甲田周辺の土地を選定。2021年9月に「みちのく風力」の事業計画を公表した。

 計画によると、青森市や十和田市、平内町など県内6市町にまたがる山間部約1万7300ヘクタールに、高さ約85~120メートルの風車120~150基を建てる。出力は最大約60万キロワットで、一つの風力発電事業としては国内最大。30年4月の運転開始を見込んでいる。

広がる慎重論

 一方、青森県も産業の活性化や雇用拡大を狙い、早くから風力の導入を推進してきた。03年に国の構造改革特区の認定を得て国有林での風力発電事業を可能にした他、06年に策定したアクションプランでは「風力発電の導入推進の先導役を担う」と宣言。事業者の誘致や先端技術の開発支援に注力してきた。

 ところが今回、「みちのく風力」の計画を巡っては、関係自治体から慎重論が相次ぐ事態となっているのだ。

 青森県の三村申吾知事は、8月の定例記者会見で「再生可能エネルギーだったら何をやってもいいというものではない」と不快感を表明。資材搬入ルートの開発などに伴って大規模な森林伐採がなされれば、地元の水資源や農林水産業そのものに影響しかねないと懸念を示した。

 陸奥湾に面し、町南部が計画地に含まれる平内町の船橋茂久町長も「山と海はつながっている」と町で盛んなホタテ養殖への打撃を警戒し、10月に入って計画に反対する立場を表明した。「国が地方に課題を押しつけている」とも指摘し、事業者と地元との合意形成に国がもっと関与すべきだと苦言を呈す。

 「(そもそも)再エネは自然を利用するもの。『景観に配慮』『土砂災害に懸念』と言うだけでは導入は進まない。誰しも100点という答えはないのがエネルギーの世界だ」(青森市の小野寺晃彦市長)と理解を示す声もあるものの、計画を全面的に支持する地元首長の発言は見られない。

背景に申請増加

 首長らが「待った」をかけ始めた事態に、ある青森県関係者は「これほど反対意見が相次ぐのは珍しい」と驚きを隠さない。風力発電の黎明(れいめい)期には事業者が役所へ事前に計画の説明に訪れていたが、近年は申請が増加。県が計画の詳細を知るのは、環境影響評価法で着工までに公表が義務づけられている4段階の書類のうち最初の「配慮書」が公表されてからだという。

 ユーラス社の場合、「みちのく風力」の配慮書を21年9月に公表したが、そこに記された規模は国内最大である上、事業区域に「十和田八幡平国立公園」が含まれていた。「これまで風車は県民の目に留まらない区域に建てられてきたが、風車の大型化もあって、徐々に適地が少なくなってきている」。県関係者はこう指摘し、「ついに国立公園まで含まれたことで、さすがに県民から不安の声が上がるようになった。知事は『再エネが全て正義だというわけではない』と事業者にくぎを刺したかったのでは」とおもんぱかった。

 実際、みちのく風力の建設予定地で八甲田山系のふもとに位置する田代地区では、配慮書が公表された直後の21年10月、住民らが市民団体「Protect Hakkoda」を結成。景観や野生動植物の生態系に悪影響が及ぶ恐れがあるとして、計画見直しを求める署名7627筆を5月、三村知事と小野寺市長宛てに提出した。

 かつてない規模の開発は“先例”として全国的な注目も集める。神奈川県弁護士会と第二東京弁護士会で環境影響評価の実務を研究する有志は9月、青森県との意見交換に合わせて現地を訪れた。メンバーの幸裕子弁護士は視察後、取材に「日本最大の開発が八甲田という豊かな自然環境の中で行われてしまえば他県もひとごとではなくなる」と語った。

 再エネの導入を急ぐあまり、地球環境保全に逆行しては元も子もないとの見方もある。日本自然保護協会の若松伸彦博士(環境学)は、再エネの導入自体は推進するべきだとした上で「自然林は一度なくなると元通りになるのに数百年かかる可能性もある。開発が環境への配慮を欠けば逆効果となってしまう」と警鐘を鳴らす。

計画の行方は

 ユーラス社は、環境影響評価法の手続きで2段階目となる「方法書」の公表時期について、当初「年内」と見込んでいたが、現時点では未定としている。同社は地元の理解を得ようと今年9、10月に青森市内で住民向け説明会を開いた。11月にも予定している。

 江崎耕太国内事業第一部長は取材に「事業区域に含まれていた国立公園を除外する方向で検討している」と明かす。県が昨年12月、同社の配慮書に対し「可能な限り(保安林や国立公園、鳥獣保護区などの)森林や植生、保全地域などを避ける」よう求める知事意見を出していたことを踏まえた対応だ。最大150基としていた風車の数も100基に減らす方向だという。

 「懸念を持たれている住民の方々にも理解していただけるよう丁寧に意見交換していきたい」。こう強調するユーラス社だが、計画の行方は見通せない。

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