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2022.11.23

アドバルーンは現代版「稲むらの火」? 院生考案、津波避難の新手法

 津波警報や津波注意報が出た際にアドバルーンを使って避難先を周知する構想を実現させようと、仙台市の大学院生が奔走している。「ひなんビル」などと記した垂れ幕を建物の上空からアドバルーンで掲げることで、土地勘のない観光客らも含めた大勢の人たちに逃げ込める場所を即座に伝えたいという。12月から来年2月にかけ、仮想現実(VR)と仙台市のビルで実証実験を行う。

 この取り組みは「津波バルーンプロジェクト」。東北大学大学院で津波工学を専攻する成田峻之輔さん(23)が考案した。きっかけは今年のゴールデンウイークに東京へ帰省し、友人と神奈川県鎌倉市に遊びに行ったときのことだ。津波の浸水エリアが示されたハザードマップを手に街中を歩いたが、土地勘がないこともあり、市町村があらかじめ指定し、緊急時に逃げ込む「津波避難ビル」をすぐには見つけられなかった。

 市が策定した津波避難計画は、大地震の発生から最短8分で津波が到達するとしている。「ハザードマップを普段から持ち歩く人も少ないだろうし、地図や標識だけでは無事に逃げられない人もいる。一目で逃げられるような、直感的に分かりやすい示し方はないのか」。思いついたのがアドバルーンだった。

 具体的には、気象庁の大津波警報、津波警報、津波注意報の発表に伴い自動的にアドバルーンを上げられる装置を準備。津波避難ビルとなっている建物の屋上に装置を取り付け、屋上から20~40メートルの上空で垂れ幕を掲げる。

 バルーンを上げるヘリウムガスの費用をまかなうため、普段はアドバルーンを広告目的で使うことを考えている。「防災のついでに広告を出すことで、持続性のある取り組みになる」と成田さんは期待する。

 成田さんは12月、鎌倉市をイメージしたVRを使い、アドバルーンの有無によって避難場所にたどり着く時間や避難場所までの移動距離に差が生じるかどうかを検証する。さらに2023年1~2月には、仙台市にある複合施設「アクアイグニス仙台」で実際にアドバルーンを上げ、広告による収益とアドバルーンにかかる費用の兼ね合いなどを確認する予定だ。

 成田さんを指導する東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(40)が、宮城県石巻市で市外の人を対象に、避難場所を知らせる標識の有無が避難時間に影響するかどうかなどを実験したところ、明確な差異はなかったという。佐藤准教授は「避難標識は意識しないと目に入らないし、そもそも標識を知らない人がいるかもしれない。それと比べてアドバルーンは気付きやすい」と指摘する。

 1854年に安政南海地震の津波に襲われた和歌山県広川町には、暗闇で大切な稲の束に火を放って高台に住民を誘導、避難させた「稲むらの火」という言い伝えがある。これにちなみ、地震が発生した11月5日は東日本大震災の後で「津波防災の日」と制定され、国連でも日本などの提案により「世界津波の日」と定められている。

 成田さんは「アドバルーンを現代版『稲むらの火』として広く活用してもらいたい」と語る。最終的にはビルを所有する企業などにアドバルーンを導入してもらえればと考えている。【安藤いく子】

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