ソーシャルアクションラボ

2022.12.06

9月の土砂崩れで県道が不通のまま 80代夫婦、冬に備えて避難

 埼玉県秩父市中津川で9月に起きた土砂崩れで、中津川集落の80代夫婦が冬季に集落外へ一時避難する。土砂崩れ前に利用してきた県道は不通のままで、唯一外部とつながる林道は積雪や凍結の可能性があるためだ。夫は「この年でこんな災難が降りかかるとは思わなかったが、この厳しい冬を乗り越えなければ」と話す。【山田研】

 11月下旬、自宅前の路上に散った落ち葉を、妻(85)が集めていた。前日、近所の人に柿の実をもいでもらったので葉が落ちたという。干し柿にして一時避難先に持って行くつもりだ。夫(84)は酸素ボンベをつけて居間のこたつに座っていた。

 夫婦は12月中旬、市中心部にある長男の家に一時避難する。定期的に食糧などを届ける長男は、一時避難を「なるべく早く」と促したという。経由する県秩父農林振興センター管理の林道「金山志賀坂線」は、途中の八丁峠のトンネル付近の標高が約1250メートル。中津川集落よりも450メートルほど高く、集落に雪が降らない時でも積雪する可能性がある。

 林道は植林や木材搬出の目的で開通。夫が市中心部にマイカー通勤していたころにも、災害で県道が通行止めになり林道を利用したことがあった。だが、3年前の台風で林道は被害を受けた。今回の土砂崩れで県道が通行止めになった後、台風の被災場所の一部で緊急工事をしたものの、今も舗装がない区間や、谷間に落ちかけたままのガードレールがある。

 県は12月の補正予算案に6000万円の除雪費を計上した。それでも、林道が積雪や凍結で通行止めになる恐れはある。「あの道が(通年)通れるようにできていれば。いつ雪が、と思うと心細い」と妻。夫は「(整備に)カネをかけなくなった」と指摘した。

 一時避難すれば、冬季に林道を通る必要はなくなるが、夫婦は住み慣れた地を離れての生活に不安を抱える。「環境が変わるからね」と夫。妻は「精神的にかなりの打撃」という。市大滝総合支所によると、中津川、中双里(なかそうり)の両集落で土砂崩れ前に居住していた23人のうち16人が一時避難を既にしたか、近く予定する。市営住宅に移る住民が多く、夫妻とは離ればなれになる。近所の女性同士での「お茶飲み」を楽しみにしてきた妻。「毎日顔を合わせる人と一緒にいる方がさみしくない」と思いながら、ボンベを手放せない夫の健康を気遣い長男宅を選んだという。

 夫婦は住民の手を借りながら、段々畑で大根やインゲン豆、葉物野菜などを作ってきたが、長男宅周辺に畑はない。長男夫婦が仕事で留守の日中、夫婦は室内でテレビを見て過ごすと予想する。

 「ここで神様をお祭りできない初めて」の正月をはさみ、中津川に戻る予定は春先だ。妻は避難生活が長く続く東日本大震災を挙げて「被災地の方の思いを考えれば、3、4カ月でまた家に帰れるのだからがんばらなくちゃ」と自分に言い聞かせるように話す。

県、修復予算の限度強調「生活道路ではない」

 県秩父農林振興センターによると、林道「金山志賀坂線」ののり面崩落の復旧やトンネルの補修などを進めてきた。県は予算を確保できれば工事するとしているが、担当者は「生活道路ではない路線。費用対効果で(優先順を決めて)やっていくしかない」と説明。「予算が潤沢ではない。全県的に工事が必要な場所が多く、なかなか手が回らない」とも述べ、県の林道関連予算そのものに限りがあることを強調した。

 2001~21年度の県の林道工事の決算総額は、5億7400万円。別の担当者は「舗装が傷んでいることは重々知っている」というが、路面の「舗装打ち替え」は14年度が最後だった。

関連記事