ソーシャルアクションラボ

2022.12.08

1人の使いづらさから商品開発 インクルーシブデザインで再設計へ

 「包括的な」「全てを含んだ」という意味がある英語の「インクルーシブ」。近年、障害の有無に関わらず共に学ぶ「インクルーシブ教育」や、災害時に誰も取り残さないための「インクルーシブ防災」などが重視されている。大阪市北区の一般社団法人「インクルーシブデザイン協会」は、障害のある人の視点を生かした商品づくりを提案している。代表理事の国宝孝佳さん(38)に、活動に込めた思いを聞いた。【まとめ・川畑さおり】

 インクルーシブデザインとは、商品やサービスの企画段階から障害者やお年寄りなど社会的弱者を巻き込み、意見を反映させて新たな価値を創造するデザインの手法です。協会では全国でワークショップを開催してニーズを調査し、その結果を基に会員企業と一緒に商品の企画や制作などを行っています。

ユニバーサルデザインとの違い

 インクルーシブデザインは2、3人、あるいは1人の意見を聞いて作ることもできます。そこがユニバーサルデザイン(UD)との違いです。UDは、誰でも公平に使える▽使い方が簡単でわかりやすい▽身体的な負担が少ない――などの7原則から成り立っています。障害の種類や程度は人それぞれ違いますが、1人の意見を取り入れてデザインした結果、それが誰にとっても使いやすいUDになることもあります。

 私は大学卒業後に理学療法士として大阪市内の総合病院でリハビリ専門スタッフとして働いていました。患者さんの多くが病気や事故で障害を抱え、今後の人生について悩んでいました。仕事がない、自分は社会のお荷物だ、笑うことすら許されないと考え、生きる自信を失っている中途障害者の方々と日々接する中で「何か生きがいにつながるようなことをできないか」と考えるようになりました。

 歩いていると気にならないわずかな傾斜でも、車椅子ユーザーにとっては困難を伴います。手指が不自由な人はボタンの硬さや、ふたの開けにくさを感じています。こうした日常生活での不自由さや不便さなど、障害のある人の視点を生かしたものづくりをしたいと考え、10年近く働いた病院を退職して2016年に起業しました。インクルーシブデザインについて知ったのは起業後で、この手法を広めたいと20年に協会を設立しました。

左半身不随の男性と片手で着るシャツ考案

 インクルーシブデザインの商品モデルの一つとして、19年に初めて作ったのが片手で着られるシャツです。病院勤務時代に担当していた患者で、脳卒中で左半身不随になった男性と一緒に考案しました。前身ごろの右胸部分にファスナーを付け、簡単に着脱できる仕様です。ファスナーはデザインとしてあえて見せており、ボタンの付け外しができる人は通常のシャツのように脱ぎ着できます。

 現在、商品化に向けて片手で使える肩掛けかばんを制作中です。試作の最終段階に入っており、来年にはインターネット上で販売する予定です。このほか、企業と協力して肌着や鉛筆も制作中です。鉛筆は、多汗症の人の声から企画が生まれました。手のひらに大量の汗をかき、握るとずるずる滑ってしまうそうなんです。そこで、滑らない仕様の鉛筆を作ろうと試作を重ねています。

 企業の方と話をするとどうしても、障害者と一緒に作って本当にいいものができるのか、採算は取れるのか、需要はあるのか、という話になりがちです。一般のマーケットでも売れるものを考案しなければなりません。例えば、制作中の鉛筆は「世界一すべらない鉛筆」として受験生向けの販売を提案しています。験も担いでおり、おじいちゃんおばあちゃんが孫のために買うかもしれない。インクルーシブデザインの商品を生み出すには、病気や障害で日常生活に不便を感じている人の課題解決と、一般市場でも売れるという両方の視点が必要です。

分け隔てない社会を

 協会では「世の中の全ての日用品をリデザイン(再設計)する」というミッションを掲げています。障害のある方みなさんが口をそろえて言うのが「別のものを使っているのが嫌だ」ということ。食器や着る服など、日常のあらゆる場面で「障害者」「健常者」と線引きされていると感じるそうです。一方で、障害者向けの商品として販売すると健常者は手に取りません。誰が使ってもいいし、誰もが同じものを使えるようになったらいいと思います。そのためには、インクルーシブデザインの普及が不可欠です。全ての人が分け隔て無く生活できる社会の実現を目指し、これからも活動していきたいと思います。

一般社団法人インクルーシブデザイン協会

 2020年設立。車椅子利用者やデザイナー、国家資格の婦人子供服製造技能士を持つ縫製師などが理事として関わる。今年5月には東京都墨田区で多様性を考えるイベントを主催。新潟や大阪、福岡、沖縄など全国各地から車椅子利用者を含む約150人が参加した。協会では賛助会員を随時募集している。問い合わせは事務局の電話(06・7777・1571)、もしくはメール(info@inclusive-design.jp)。

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