ソーシャルアクションラボ

2022.12.11

小学生から学ラン、セーラー 制服ジェンダーレス化遅れる香川の事情

 どこか“昭和”の雰囲気が漂う「学ラン」やセーラー服。公立の全小中学校で制服や基準となる「標準服」を採用している「制服県」の香川で、多くの小中学生が今でも着用しているデザインだ。全国的には「ジェンダーレス」を目指してズボンやスカートなど男女を区別する制服を見直す動きが広がりつつある中、なぜ遅れているのか。取材すると、複雑な事情が見えてきた。

「制服、命に関わる問題」

 風で揺れる虹色の旗とともに、学ランとセーラー服が青空に向かって掲げられていた。11月19日に香川県宇多津町であった、LGBTなどの性的少数者への理解を広げる「レインボーパレード」。高松市の当事者団体「あしたプロジェクト」の福井瑞穂副代表(38)がマイクを握り、「男子は学ラン、女子はセーラーの制服。出生時の性と異なる制服がなかなか選べず、小さな声が大人たちに届いていない」と訴えた。

 同団体などが8月に実施したアンケートで、岡山県の14歳から「制服が不登校の原因の一つ。見るだけで寒気がするようになった」という声が届いた。福井副代表と谷昂頼(たかより)代表(36)はいずれも出生時の性と性自認が異なるトランスジェンダーの男性で、同じような感覚を抱いた。谷代表は学生時代について「(小中高の)12年間、スカートの選択肢しかなかったことで『女子生徒』の枠にはめられた。アイデンティティーを全否定され、つらかった」と振り返る。

 あしたプロジェクトは他の当事者団体と「香川・岡山で制服自由選択制を求める会」を結成。香川・岡山県内の公立小中高校で、制服を出生時の性別に関係なく選択できるよう求める署名をネット上で募ると、約1万1000筆が集まった。

 同会のメンバーの元には、トランスジェンダーの男子生徒が学ランを着用したところ、学校の式典参加を拒否されたり、「保健室登校」を強いられたりしたという相談も寄せられているという。同会は「LGBTなどの10代は、自殺願望を持ったり自傷行為をしたりする割合が高いというデータもある。制服問題は命に関わる切実な問題だ」として、今後、香川県教委などに署名を提出して対応を求める方針だ。

 全国では性別で区別されない「ジェンダーレス制服」が注目され、多くの中学・高校が切り替えを進めている。制服卸売業の香川菅公学生服(高松市)の松野安伸社長(69)によると、「制服のデザイン上、性差が少ないのはスカート・スラックスのどちらの組み合わせでも相性が良いブレザータイプ」。サイズも男女別ではなく、体形に合わせた「Ⅰ、Ⅱ型」「A、B型」などの呼称や、男女兼用に変わりつつあるという。

 「制服県・香川」では全国的に私服の割合が高い小学校でも、公立152校(分校や休校を除く)の全校で、制服または「標準服」を採用している。はっきりとした理由は不明だが、大手学生服メーカー3社が集う岡山県と近いことや、「私服を買いそろえなくてよい」などの理由で支持する保護者も多いことなどが関係しているようだ。

 高松市立円座小学校によると、かつて制服になじみの無い県外出身の保護者らから声が上がり、県内の小学校で「唯一」の私服校となった時期が15年間ほどあった。だが、反対に丈が短く派手な服などを問題視する声が保護者や教員から出たことで、2014年度から標準服に戻ったという。

見直しの動きも限定的

 香川でも一部では「ジェンダーレス」に見直す動きが出始めた。三豊市内の公立中学7校は23年度から標準服を変更することを決め、濃紺のブレザーに、チェックのスカート・スラックスを選べるようになる。新型コロナウイルス禍で冬場も常時換気をするようになった。県内の公立中学校のうち約9割を占める女子のセーラー服と比べて、前開きのジャケットの方が中にセーターなどを着込みやすいなど、防寒上もメリットがあるという。

 三豊市は20年、同性パートナーなどを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を四国の自治体で初めて導入。7校による校長会が21年秋に変更を提案した。会長を務めている三野津中学校の宇野誓起(せいき)校長(60)は「性の多様性に配慮する市の姿勢とも合致しており、合意形成は難しくなかった。(性別違和を抱く)当事者が必ずいるという前提で考えれば、対応は必須だった」と振り返る。

 県内では他に、LGBTを含めた「人権・同和教育」に力を入れている小豆島町立小豆島中も、同じ23年度に上下同色の「スーツタイプ」を導入するが、こうした動きは一部にとどまる。県教委は県内の小中学校での現状について「教員が児童、生徒の生きづらさを個別に聞いて、自認する性の制服などを認める対応を取っている」と説明。「21年6月に校則の見直しを学校に促す国の通知が出たこともあり、学校によっては女子生徒にスラックス着用を認めるなど、ルールは緩やかになっている」と話す。

 一方、学校関係者の40代女性は「子どもが先生に相談して許可を得ないと体操服などを着させないのは、事実上『カミングアウト』の強制になりかねない」と指摘。制服業界からは「ジェンダーレス制服がない学校のために女子用スラックスを用意しても、セーラー服と合わせると『水兵さん』の格好になるためか、人気が出ない」との声も漏れる。

県教委「家庭の経済的負担増」

 県教委はスカートとスラックスの選択がしやすいような県一律での対応については「制服変更で家庭の経済的負担が増える懸念もあり、まずは保護者や地域でよく話し合ってもらうことが大切。上意下達で決めてしまえる性質の問題ではない」と難色を示す。

 県内のジェンダーレス制服導入校では学校が人権・同和教育に力を入れていたり、生徒、保護者からの意見を積極的に吸い上げたりした事例が目立つ。ある学校の校長は「制服や校則変更は校長が権限を持っている。学校や地域間で取り組みには温度差がある」と明かす。

 昔ながらのデザインが変わらない背景は、制服業界ならではの商習慣も関係する。高松市内の小学校教諭は「学校側が地域の『呉服店』を気にして制服を変えられないのでは」と話す。一体どういうことなのか。

 「呉服店」は多くの県内小中学校の近くにあり、制服を取り扱う小売店のことを指す。県内の制服関連業者によると、地域の小売店は特定のメーカーが製造した制服を仕入れ、長年同じ学校のものを販売している場合が多い。

 一方、制服変更のコンペは複数のメーカーが参加し、学校関係者の投票でデザインを決定するのが一般的な流れだ。業者は「特定の小売店、メーカーと結びつきが強い学校もある。デザイン変更は参入障壁が下がるため、小売店の反発を招きやすい」と指摘。また、変更直後は制服のお下がりや中古品がないことから「『値段が高くなる』と保護者から反対が出ることもある。結果、学校としては『変えない方が楽』なのでは」と推測する。

 別の制服販売店の経営者は「在庫を抱えているため、デザイン変更は2年ぐらい前に言ってもらいたい」と指摘。その上で「トランスジェンダーに限らず、なるべく自然にスカート・スラックスが選べる服装が理想。子どもや先生、保護者、制服業者などさまざまな立場で話し合うべきだ」と話している。【西本紗保美】

香川県内の公立小中学校が採用する制服・標準服

■小学校152校

<男子>

折り襟(74・3%)

イートン(14・5%)

ブレザー(6・6%)

詰め襟(3・9%)

その他(0・7%)

<女子>

セーラー(60・5%)

イートン(30・9%)

その他(2・1%)

■中学校66校

詰め襟(93・9%)

ブレザー(4・5%)

スーツ(1・5%)

セーラー(89・4%)

ブレザー(7・6%)

スーツ(3・0%)

※香川菅公のデータなどを基に毎日新聞が集計

※2022年度時点。休校・分校を除き、小数点第2位以下は四捨五入

※イートンは襟のないジャケットタイプ

関連記事