2023.01.25
発達障害と付き合うには 当事者らが服薬や通院パンフレット作製

発達障害のある人は、障害の特性とうまく付き合うための通院や服薬を巡って悩むことが多い。「薬って本当に必要?」「副作用が怖い」「お医者さんに生活をする上での困り事が伝わらない」。そんな不安や疑問を持つ人に寄り添いたいと、自身も発達障害がある神経科学者らが、対処法をまとめたパンフレットを作った。
パンフレットは「発達障害の当事者とまわりの人のための薬はじめてガイド」。薬の種類や作用の仕組みのほか、薬との付き合い方、医師とのコミュニケーションのコツなどをまとめている。自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)の当事者で、神経科学者の仲田真理子さん=筑波大助教=が発案し、パートナーで同じく神経科学者の瀬戸川剛さん=富山大助教=も製作に加わった。
仲田さんは、医療界でも発達障害への理解が進んでいなかったころ、当時かかっていた医師に「忘れものが多い」と伝えても「皆そうだから」と片付けられた。日常生活にも影響が出ていることを、自分の言葉で表現できずに苦労したという。「生まれたときから『困り事』が当たり前の状態で、何を訴えたらいいのかもわからなかった」と振り返る。
考えを文字で書いて整理したり、文章を教員に添削してもらったりすることで、表現力を徐々に伸ばしていった。それでも、20歳で初めて精神科を受診してから、医師に困り事が伝わってADHDと診断を受け薬を処方されるまで、7年あまりかかった。
それまではじっとしていることが苦手で、日常生活で心身ともに疲れ切ってしまうことが多かった。新しい薬を飲むと集中力が続きやすくなった。研究生活では、大学の学習支援室のスタッフに不得手だったスケジュール作りを手伝ってもらい、博士論文を書き上げることができた。
数年前、当時の職場の同僚から、発達障害の通院や服薬について相談を受けた際、当事者向けのパンフレットがほとんどないと気づいた。「同じ苦労をしてほしくない」と、自分の経験を生かしてガイドを書くことを決めた。仲田さんの主治医で発達障害が専門の許斐(このみ)博史さんが製作を後押ししてくれ、監修を引き受けた。
ガイドは「医師に困り事がうまく伝わらない」という悩みには、困り事が起きる頻度と状況▽生活や体調、気持ちへのダメージ▽困り事に対して試した対策と効果――を具体的に話すよう助言している。
薬の働きなど専門的な内容も含めて、中学生が理解できるような平易な記述を心掛けた。例えば、ADHDの薬の場合、脳内の神経物質に作用して情報伝達を助ける働きがあり、集中力を保ちやすくなる効果がある点を記した。ただし、薬によって発達障害がない人に生まれ変われるわけではない。より快適な生活を送るためにあり、ガイドでは「自分自身がどういう人生を送りたいか」が治療を決める上で重要であることを強調している。
民間団体の助成金を活用して2021年11月に発行して以降、当事者や医療機関、学校、福祉事業所、企業の人事部から問い合わせがあり、用意していた6000部がなくなった。クラウドファンディングで得た資金で新たに2万部を印刷し、2月にも発送を再開する。想像以上の反響に瀬戸川さんは「発達障害の人に共通の悩みがあると理解できた」と話す。
「注意力がない」「人の気持ちがわからない」など、否定的に語られがちだった発達障害。ガイドでは、障害の特性について「何に注意が向くかは自分の意志で選べないことが多い」「こだわりは、予測のつかない不安な世界で自分を守り、生き延びるための手段」と説明する。仲田さんは「当事者と周囲が一緒になって、困り事に向き合っていけるようになれば」と望んでいる。
ガイドはホームページから無料でダウンロードでき、活字が苦手な当事者に向け、文章を読み上げた動画もある。パンフレット発送は無料で応じている。申し込みはホームページ(https://www.kuracilo.com/)。【寺町六花】
発達障害
生まれつきの脳の働き方の違いにより、幼い頃から行動や情緒に特徴が表れる。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがある。文部科学省が2022年12月に公表した調査では、通常学級に通う公立小中学校の児童生徒の8・8%に発達障害の可能性があることが分かるなど、認知が広がりつつある。薬物療法の他、カウンセリングなどによるケアもある。
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