ソーシャルアクションラボ

2023.02.12

「やりたいこと諦めなくてもいい」 注文に時間がかかるカフェ、映画に

滑らかな発話が難しい吃音(きつおん)を持つ若者らがスタッフを務め、家や店舗などで1日限定でオープンする「注文に時間がかかるカフェ(注カフェ)」。川崎市内で2022年7月に開かれたカフェで店員を務めた4人を追ったドキュメンタリー映画が製作された。4人は「吃音を持つ子どもたちに映画をみてもらい、やりたいことを諦めなくてもいいと伝えたい」と願う。

注カフェは自身も吃音を持つ相模原市出身の奥村安莉沙さん(30)が発案し、21年8月から全国9カ所で開かれてきた。今回製作された映画は、奥村さんが監督を務め、店員の10~20代の男女4人に密着し、注カフェにかける思いやメニューの開発などの舞台裏を追った作品だ。

4人のうちの一人で主題歌も歌う過心杏(すぐる・このん)さん(18)=仙台市=は、幼い頃からミュージカルが好きで、舞台に立つことが夢だった。しかし学校では吃音が原因で周りからからかわれたりし、次第に人前に出るのを避けるようになったという。

転機は1年半ほど前。「吃音と向き合っていきたい」と考えていた時に、インターネットで注カフェの存在を知った。21年8月に初めて注カフェに参加し、接客業の楽しさを感じた。これをきっかけに結婚式場でアルバイトを始めた。

さらに、22年7月に注カフェに2回目に参加した際、映画の主題歌を歌ってほしいと奥村さんから依頼された。不安もあったが、「諦めていた夢をもう一度つかめるかもしれない」と挑戦を決めた。作詞も担当し、曲名は、歌が好きという気持ちと声帯をとってしまいたいとすら思った症状への悩みの間での葛藤を表現した「1番好きで大嫌いな音」に決めた。

主題歌を担当したことで、「人前で歌ったり演奏したりすることの楽しさを実感した」と話す。音楽の力で心身の機能維持や改善を図る「音楽療法士」になるという目標もできた。

過さんは今月5日に川崎市内であった上映会のトークショーに出演し、「昔の自分を思い出すと泣いている自分しかいない。でも今は、未来の自分が『今』を思い出した時に『やりたいことをできていたな』と思えるようにしたい」と語った。

奥村さんらは映画の上映先を募集している。映画の上映会では、過さんも主題歌を披露したいと考えている。依頼や問い合わせは映画「注文に時間がかかるカフェ―僕たちの挑戦―」の公式サイトから。【宮島麻実】

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