2023.02.18
長男の就職先「私が作る」 水耕栽培農場設立 障害者雇用も拡大

三重県鳥羽市の旅館の女将(おかみ)が、知的障害のある息子の雇用の場として設立した水耕栽培の農場が注目を浴びている。「おかげ野菜」と名付けた葉物野菜やエディブルフラワー(食用花)などは、伊勢志摩地域の大型店や特産品店、インターネットなどで販売され、売り上げが伸びている。雇用契約を交わした利用者は3人から7人に拡大した。女将は「伊勢志摩の気候風土に根差した商品の開発を急ぎ、利用者をもっと受け入れたい」と話している。【林一茂】
水耕栽培農場の「ファーム海女乃島」は2015年、同市安楽島町の旅館「海女乃島」の女将、西川信子さんが開設した。北勢地方の専門学校で水耕栽培を学んだ長男(30)が、鳥羽市内に就職先がなかったことがきっかけ。息子の将来に不安を覚えた西川さんは、「それならば働く場所を私が作る」と決断。旅館近くの6アールの敷地にビニールハウス2棟を建てた。3年後に同市白木町の6・8アールにも2棟を建設した。
農場は開設した年に、雇用契約を結んだ障害者が就労や生産活動の機会の提供などの支援を受けられる、就労継続支援A型事業所の県指定を受けた。西川さんら4人がスタッフとなり、当初は長男を含む3人が利用していたが、事業の拡大と共に鳥羽、伊勢、志摩市から通う7人に増えた。利用者は「マイペースで楽しく仕事ができる」と、水耕栽培に打ち込んでいる。
「ファームでのこだわりは農薬を使わないこと」と西川さん。有機種子から育てた野菜を「おかげ野菜」と商標登録したのは、「伊勢志摩の太陽、水、みんなのおかげで育てたから」と話す。グリーンレタスや小松菜、パセリなどが順調に育ち、ビオラ、カレンジュラ(キンセンカ)などの食用花の栽培も始めた。一時は40種ほどを栽培したが、現在では売れ筋を中心に20種近くに落ち着いた。
20年から藍の栽培にも取り組んでいる。江戸期に産地では食用として藍を栽培していたことに着目し、酢と塩の商品開発に着手。「藍酢(あいす)」シリーズはユズやローズヒップ、レッドバジルなど7種類。「藍糀塩(あいこうじしお)」シリーズはアマランサスなど5種類で、いずれも売れ行きは好調という。
新型コロナウイルス禍で一時は売り上げが落ち込んだが、持ち直した。西川さんは「藍に関連し、生産から加工、流通・販売に至る6次化商品の開発を進めたい。たくさんの障害者の利用が進めばうれしい」と話している。商品の問い合わせはファーム海女乃島(0599・26・5063)。
関連記事