2023.02.19
アラスカ写して30年 写真家が伝えたい「地球の未来と危機」

米国アラスカ州で美しい風景やオーロラ、ヒグマやオオカミ、シャチやクジラなどの生き物を撮影して約30年、1年の半分を現地で過ごす愛媛県松山市の写真家、松本紀生(のりお)さん(50)が3月に新たな写真絵本を出版し、記念のフォトライブを同市内で実施する。豊かな自然の素晴らしさ・大切さを子供にも大人にも見てもらい、地球温暖化で損なわれつつある現状も伝えて、共に考えようと呼び掛ける。
同市出身の松本さんがアラスカに出会ったのは立命館大3年で21歳だった1993年。将来を模索していた中、京都市内の書店で偶然手にしたのが写真家・星野道夫さん(1996年に43歳で死去)のエッセーだった。アラスカの美しさ、寄り添うように撮り続ける生き方に魅了された。同じ道を志して大学を中退し、翌年秋から星野さんも学んだアラスカ大に編入学。2000年に卒業後も毎年2回に分けて現地に滞在し、撮影を重ねている。
北極圏や無人島など人が暮らしていない場所まで飛行機やボートをチャーターして行く。春夏秋はテント、冬は氷河上に自作するかまくらで数週間から2カ月程度の単身キャンプ生活。春夏秋が凝縮する6~9月は動植物、1~3月は北米最高峰のデナリにかかるオーロラを撮影してきた。
温暖化の危機を痛感
松本さんの遠吠えに反応して近づいてくるオオカミや、3メートルほどの近さで歩くヒグマ。オーロラは日ごとに色も形も明るさも異なり、一期一会で飽きることがないという。写真や文章は多くの雑誌や新聞に掲載され、毎日小学生新聞と毎日ウィークリーでの連載や、毎日新聞夕刊の写真特集でもたびたび発表。これまで写真集など5冊の著書があり、テレビやラジオ番組への出演でも知られる存在だ。
現地で過ごす中で地球温暖化の影響も見聞きしてきた。星野さんがアラスカで最初に訪れた海辺の村シシュマレフも海岸浸食によって住民生活が危機に直面。永久凍土が解け、地盤が緩んで家屋が傾き、海の氷結期間も短くなって高波に洗われるようになっている。松本さんも撮影に訪れ、08年に「サンデー毎日」で掲載。「温暖化は最初に動物、そして自然に近いところで暮らす先住民族に影響する。自分が撮影してきた美しい自然や人の暮らしが損なわれていくのを見過ごすことはできない」と温暖化に関する取材を本格的に始め、最近は防止イベントにも招かれている。
新著とフォトライブ
3月15日ごろ発売予定の新著は「つながるいのち うみ・もり・ひとの物語」(B5判56ページで税別1900円)。教育出版から発行の「オーロラの向こうに」「アラスカ無人島だより」に続く3冊目の写真絵本だ。「撮影を通じて、生き物と環境はつながり、支え合っていることを実感してきた。そうした自然の世界を写真と文章で伝え、自分たちも少し立ち止まって、これからどう生きていけばいいのかと問いかける内容」と松本さんは話す。
そうした媒体での発表と並んで力を入れるのがフォトライブだ。日本にいる期間は各地の学校や企業、団体などに招かれ、写真や動画をスライド上映して解説する。もともと歌手さだまさしさんのファンで、自分もライブをしてみたいと思っていた。実現のきっかけは、またも星野さん。その文章が国語の教科書に載ることになり、松山市の小学校で教えている友人から松本さんも「教員仲間にアラスカの話をして」と依頼を受けた。子供向けにも実施するようになり、口コミで広がっている。
今冬は燃料をはじめとする物価高騰で渡航・取材費が従来の倍近くなったためアラスカ行きを断念。自宅のある松山市で過ごす時間を生かし、「つながるいのち」出版記念のフォトライブも企画した。まず3月25日午後7~8時に同市堀之内の城山公園やすらぎ広場で「キッズも星空ナイト」と題し、440インチの大型スクリーンに投影する。子供が楽しめるよう動画を多めにし、松本さんがキャンプしながら撮影する様子やクジラの音声なども紹介。電源となる電気自動車は愛媛日産自動車、高性能プロジェクターは松山聖陵高校が、いずれも以前にフォトライブを実施した縁で無償提供する。申し込み不要・入場無料で小雨決行(中止の場合はウェブで周知)。さらに同29日午後6時半~8時半、同公園内の松山市民会館中ホールで「大人の宵の美ナイト」を実施。料金2000円・全席指定で、子供も参加可能だが写真をじっくり見てもらい、温暖化の話もする。いずれも「オーロラの夕べ実行委員会」主催で松山市教委後援。著作販売やサイン会もある。詳細は松本さんのホームページ(https://www.matsumotonorio.com/)、問い合わせは教育出版四国支社(089・943・7193)。【太田裕之】
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