ソーシャルアクションラボ

2018.06.08

カナダ発のいじめ反対運動  ピンクシャツの意味

ピンクのシャツを着ることによって、いじめに反対する姿勢を示すキャンペーン「ピンクシャツデー」。2007年にカナダで始まり、世界各国に広がる動きで、日本では来年4月、中学2年の道徳教科書に登場する。カナダや日本の賛同団体では今年、ピンクシャツデーを2月28日に設定するところが目立った。どんな運動なのか。【中村美奈子、写真も】

カナダ発祥のいじめ反対運動 日本では来春中学の道徳教科書に登場ピンクのシャツを着るだけでOK 1人でもできる多様性を認める呼びかけ 本来は毎日がピンクシャツデー 

いじめに反対するカナダ発祥のキャンペーン「ピンクシャツデー」を日本に紹介した、ピンクシャツデー実行委員会代表の高梨京子さん

◇生徒たちが着て反対の意思表示 学校からいじめが消えた

 「ピンクシャツデー」をウェブサイトで日本に紹介した、ピンクシャツデー実行委員会代表の高梨京子さん(45)によると、07年、カナダの中高一貫校でのいじめがきっかけでこの運動が始まった。ピンクのポロシャツを着て登校した男子中学生が、学校で「ホモセクシュアルだ」といじめられて暴行を受け、耐え切れずに帰宅した。それを聞いた上級生の男子高校生トラビス・プライスさんとデイビッド・シェパードさんの2人が、放課後にピンクのシャツをディスカウントストアで75枚買い込み、「明日学校でピンクのシャツを配るから一緒に着よう」と、いじめに反対する行動を同級生にメールなどで呼びかけた。すぐに広まり、翌朝は手持ちのピンクのシャツを着たり、ピンクの小物を身につけたりして登校する生徒であふれ、学校からいじめがなくなったという。

 地元新聞に報道され、賛同者はカナダ全土に広がった。国外では、米、中、韓、ニュージーランド、パナマなど数十カ国にのぼる。高梨さんは07年秋にインターネットで地元紙の記事を読んでこの運動を知り、日本語で紹介するウェブサイトを知人と一緒に作ろうと、カナダの賛同団体と連絡を取るようになった。11年2月にITの技術者や学生らと実行委員会を作り、同年夏にサイトが出来上がった。

◇ピンクも濃淡さまざまでいい

 高梨さんによると、運動の創始者で活動を続けるプライスさんは公式団体を作っていない。賛同者が1人でも始められる活動にするためだ。

 カナダでは2月に「ピンクシャツデー」と銘打った啓発活動の日が設けられている。参加者が思い思いにピンクのシャツや小物で装い、街角でピンクのグッズを販売して寄付を募る。学校に限らず職場のいじめなど、全世代のいじめやいやがらせが対象だ。トルドー首相は16年、ワイシャツの上にピンクのTシャツを着て動画でメッセージを発信した。

 「ピンクシャツデー」は2月に限らず、5月や10月に行う国もある。「本来は毎日がピンクシャツデーだと、プライスさんは言っている。多様性を認め合おうという呼びかけなので、ピンクも濃淡さまざまでいい」と高梨さんは話す。

ピンクシャツデーについて書かれたカードと缶バッジ

◇来春中学の道徳教科書で紹介 YMCAは全国で活動

 日本では、来年4月から使われる中学2年の道徳教科書に、運動のきっかけとなったカナダの学校での出来事が紹介される。光村図書出版が発行する「中学道徳2年 きみがいちばんひかるとき」で、教材のタイトルは「明日、みんなで着よう」。いじめの加害者に直接立ち向かうのはこわくても、ピンクシャツを着ることによって反対の意思表示をして、状況を変えるやり方もあるという生の事例だ。どう行動するか、考えるきっかけになる教材だと同社は位置づける。カナダでのピンクシャツデーの様子や、講演などを通して運動を広める現在のプライスさんの写真を掲載し、日本での取り組みと合わせて5ページを割く。

来春から使われる光村図書出版発行の道徳教科書「中学道徳2年 きみがいちばんひかるとき」の「明日、みんなで着よう」のページ。ピンクシャツデーを教材に取り上げ、カナダでの様子を写真付きで紹介している

 教科書の目次通りに進むと、中学2年の11月ごろに授業で扱われる。今年秋に全国のどこの中学校で使われるかわかる見込みだ。

 カナダ同様、日本にも公式団体はなく、どんな活動をするかはアイデア次第だ。

 YMCAは全国規模で運動を展開している。ピンクシャツデーを2月に設定して、今年は参加を促す動画を配信し、講演会を開催した。横浜市戸塚区の湘南とつかYMCAでは、運営するスポーツクラブや学童クラブ、併設する保育園で、ピンクシャツデーのきっかけとなったカナダの話を紙芝居にして説明した。いじめられている人、見ているだけの人、いじめている人の気持ちを考えさせ、自分にできる行動を促すのが狙いだ。子どもたちは手持ちのピンクのシャツやトレーナーを着たり、ハンカチなどピンクの小物を身につけたりして来館した。

 仙台市では、企業が実行委員会を組織しピンクのブルゾンやのぼり、缶バッジを作って、小学校での講演会を企画した。仙台市若林区の市立南材木町小学校では2月28日の放課後、5、6年生の希望者約100人に、元バレーボール選手の大山加奈さんがバレーボールの実技を教えた後、いじめのない人間関係づくりについて語った。

<お聞きします>ピンクシャツデーを広める活動に取り組むとしたら、どんなことをやってみたいですか。投稿をお待ちします。