ソーシャルアクションラボ

2018.06.08

「生徒がいじめ対策の糸口探る」学校でのいじめ問題への取り組み②

いじめ問題に対処できるのは、学校の教員や保護者だけではない。生徒同士で「いじめの芽」を見つけて対応できれば、未然に防ぐことが可能になる。より効果的だ。取り組みを進める群馬県高崎市の事例などを紹介する。【岡礼子】

悩みを拾いあげよう 生徒会が毎月調査原因究明のためにも大切 学校のいじめアンケートは永年保存相手の気持ちを考える 「ピア・サポート」を広めよう

【高崎市】生徒が取り組むいじめ防止 キーワードは「みんなで話し合う」

 群馬県高崎市では「生徒主体」の方針を掲げ、市内の小中学校から代表が集まって「いじめ防止子ども会議」「中学生リーダー研修」などを開いている。話し合いの内容や研修内容は各校に持ち帰り、独自の取り組みにつなげている。市立入野中では、ISI(入野・ストップ・いじめ)プロジェクトと題して、生徒会が毎月、全校生徒にアンケートを実施している。

 入野中は、JR高崎駅から車で20分ほどの山あいにある。全校生徒約130人の小規模校だ。校長、教頭も一人一人の生徒の顔と名前が分かる。地域柄、幼稚園から中学までずっと一緒という生徒もいる。これまで、生徒の命にかかわるような深刻ないじめ問題が起きたことはないという。

 昨年12月、生徒会は「人にされたり言われたりして不快に思ったこと」について全校生徒を対象にアンケートを実施した。部活動でのトラブル▽自分が気にしていることをからかわれる▽好きで取り組んでいることをばかにされる――などが寄せられた。生徒会長の三木瑠(るい)さん(3年)は「部活で先輩から、片付けなどをやらされる(ことが嫌)」という回答に驚いた。「当たり前のように感じていた。上下関係は大事だけど、行き過ぎはいけない」と考え、後輩に指示する時は、自らも作業を分担することを心がけるようになったという。

 アンケート結果は、生徒はもとより家庭でも意識してもらう目的で、朝礼で発表し、生徒会新聞にも書く。具体的に不安や不満の内容が分かるように、生徒会の役員が役を演じるロールプレーイングにして、全校生徒を前に披露することもある。できるだけ大勢の生徒が、同じ目標に向かうことが大事だと感じているからだ。

実施したアンケートを見ながら話す高崎市立入野中の生徒会役員ら

 現生徒会役員の5人は、身近でいじめに気づいたことはないと口をそろえる。だが、各地でいじめは起きており、入野中でも気づかれないだけで「校内にはいじめられていると思っている生徒がいるかもしれない」とも明かす。

 いじめをなくすためにどのような解決策が考えられるか。共通して挙がったのは「みんなで話し合う」「いじめる側に事情を聴く」だった。森野蒼也さん(3年)は「いじめる側、いじめられる側の両方に相談できる相手がいれば、みんなで話し合える」。大澤和馬さん(3年)は「いじめている人に何か事情があると思う。それを聴いて、みんなで解消していけば、いじめはなくなるのではないか」と提案した。

 田村洋幸校長は「いじめ問題に対する生徒の意識は高い。万が一トラブルがあっても、子供たちの心構えが違う。『見て見ぬふり』をしないことから対応が始まるはず」と信頼を寄せる。

 

◇いじめの「解消」、見極めは慎重に……学校も毎月いじめアンケート

 高崎市は、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」に先駆けて、12年から防止策に取り組んできた。市内の各小中学校で、いじめを防ぐための基本方針を策定したり、行事や教科指導を通じた年間の指導計画を作成したりしてきた。いじめ防止担当教諭も置いた。担当教諭は年に数回の研修を受け、SNSの使い方の冊子を作成したり、他校のいじめ対策の方針を研究して自校の方針を見直したりしている。

 生徒会活動とは別に、生徒に対するいじめについてのアンケートも毎月実施する。記名式だが、自由記述欄を設け、全員が必ず何か書くように促す。「嫌なことがあった」などと書いていても目立たないようにとの配慮からだ。

 アンケートは担任が集計し、気になる生徒については学年主任、生徒指導主事が情報を共有する。ファイルを作って学校のパソコンに永年保存することになっている。生徒の異変に気づくだけでなく、万一事件が起きてしまった時に、さかのぼって原因を究明するためでもある。

 もし、トラブルが判明したらどうするか。実例はまだないが、学年主任が軽微だと判断すれば、本人と話す。いじめが原因の不登校、金銭的なトラブルが起きているなど重大な事態が起きているケースなら、校内で情報を共有し「周囲の生徒から情報を収集する」「誰が本人から話を聞くか」――といった対応を決める。

 いじめが解消したかどうかの判断は、最短でも3カ月間、経過を見た上でなければ出せないことも市内共通のルールになっている。入野中では、教員の目から見て、生徒の間で関係が修復できた時点を第1段階、家庭と意見交換する中で、保護者が安心して子供を登校させられる状態になった時点を第2段階として「解消」を判断することにしている。

 田村校長は「トラブルはいつでも起こり得る。今この瞬間に、緊急の電話がかかってきても不思議ではないというくらいの心構えでいる。生徒の命を絶対に失ってはならない。そのために、生徒にはどんなことでも話してほしいし、学校はどんなことでもする」。

【大阪市】「ピア・サポート」できる教員を養成

 友人の話をきちんと聞いたり、相手の気持ちを考えながら言葉を掛けたりすることを練習する「ピア・サポート」。大阪市は、授業や学級活動の中で、このピア・サポートを指導できる教員を増やそうと研修を開いている。希望する教員を対象に、夏と冬にそれぞれ4日間、ワークショップや実践報告をする場を設けている。

 小中学校では、子供たちは毎日決まったクラスで過ごすほか、授業の中で4~6人のグループや2人組で活動することも多い。いじめなどのトラブルが起きると、うまくグループが作れずに、より苦しむことになる。市教育センターによると、「ピア・サポート」の実践は市内各校で広がっており、気軽なゲームなどで仲間作りの練習をしたり、学習課題に協力して取り組んだりする中で、児童生徒が互いの違いを認め合い、仲間同士で支え合う経験を積むようにしている。センターの担当者は「違いを認めることで自分を大切にするようになる。いじめ防止にもつながる」と話す。

【埼玉県越谷市】生徒会が「市内全中学共通のスマホルールを作成」

 「無責任な書き込みで人を傷つけたり、嫌な思いをさせたりしないようにします」「返信が遅くても怒らないようにします」――。埼玉県越谷市は16年、市立全中学の生徒会が話し合い、スマートフォン、携帯電話を使う時の「7つの共有ルール」を決めた。ポスターを作ったり、小学校に説明に行ったりして、全児童生徒への浸透を図ろうとしている。

 市立平方中の生徒会は、より多くに共通ルールを知ってもらおうと動画を作成し、インターネット上のユーチューブで公開している。生徒らは「トラブルを無くすことは簡単ではないが、動画を見て、使い方を考える人が増えるといい」と期待している。

◇他の対策は……

【千葉県柏市】いじめを止める行動を起こせるかどうかはクラスの雰囲気が大きく左右する――千葉大などと教材を共同開発し、「傍観者」の立場からいじめを考える授業 https://mainichi.jp/articles/20170523/ddl/k12/100/081000c

【千葉・秀明大】教科になった道徳の授業でいじめをふせげるか https://mainichi.jp/articles/20180407/ddm/012/100/032000c

【大津市、仙台市】教員の多忙が原因か 「いじめ対策担当教員」の効果は? https://mainichi.jp/articles/20161008/ddm/012/100/036000c / https://mainichi.jp/arti