ソーシャルアクションラボ

2018.06.08

大人の毅然とした対応がいじめを止める さいたま市元教育長インタビュー

  • 警察との連携は?いじめ加害者の出席停止は?
  • 教師はまず「守護者」であれ
  • 加害者の気持ちに寄り添う必要も

 いじめた児童生徒にも教育的な指導が必要なのは言うまでもないが、犯罪行動には毅然(きぜん)とした対応が必要との声は根強い。警察と学校の連携など犯罪性のあるいじめにどう対応すべきか、さいたま市元教育長の桐淵博氏(65)に聞いた。【鷲頭彰子】

きりぶち・ひろし 東京学芸大卒。中学校長やさいたま市教委指導1課長、同学校教育部長を歴任、09年から4年間同教育委員会教育長。退任後、埼玉大教授を経て現在AED財団理事。

◇警察との連携 昭和の時代から

--10年ほど前にさいたま市教委を担当していた際、学校での暴力行為で中学生が逮捕された事件があり、大変驚きました。市教委として、学校が警察と連携する方針だったのでしょうか?

桐淵氏 校内暴力が各地で横行し、「荒れた学校」などとニュースで騒がれて昭和の時代から学校が警察と連携する方針は引き継いでいました。犯罪を抑止しないといけないものはしっかりやる、ということです。

 私は、いじめは「行為」だと思っています。人間には好き嫌い、気に入らない、ムシャクシャする、いらいらするなどの感情があるのは当たり前だと思います。ただ、気に入らないからといって、無視や暴力、脅しなど嫌がらせで人を傷つける「行為」を起こすことは許されません。それがいじめです。その「行為」をまず、なんとしてでも止める、というのが教師の仕事です。教育長時代は「抱きついてでも止めてください」と言っていました。その中に出席停止という手段もあると思います。

◇児童生徒の出席停止は保護者に対し命じる

--出席停止は現実的に可能ですか?

桐淵氏 義務教育ですから、やはり出席停止は難しいです。出席停止は保護者に対し、児童生徒の出席停止を命じるものです。出席停止にした場合、家庭で学習を含め健全に生活できる環境が保証されているかなど現実には厳しい面があります。また、悪質でしかも継続的に人を傷つけるなど明確な事件にならないと、親の納得を得られません。

 ただ、ひどいいじめ行為を止めるために、いじめた子といじめられた子を隔離することは必要です。別室学習と言っていますが、いじめが過熱している場合は、いじめている児童生徒を教室に入れないというのも必要になってくるでしょう。お互いが落ち着くまで相談室で勉強させるなどします。また、年度途中では難しく、ほとんどありませんが、クラスを変える、転校するということも考えられます。

◇教師の三つの役割

 教師には、まず今行われている「行為」を止め、被害者を守る「守護者」としての役割があります。

 それに、好き嫌いの気持ちを「行為」に結びつけないよう、倫理や規範意識を教える「教育者」としての役割。

 そして、加害者の抱える内面、ストレスだったり、愛情飢餓だったり、不満だったりを抱える子供を理解し、寄り添う、自信を付けさせるなどして人間としての成長を支援することも重要な役目です。これにより、いじめなど他者に向かっていた攻撃的なものを止めることができるかもしれません。これが一番難しいですし、時間もかかります。

◇加害者はストレスを抱えている

--いじめている児童生徒への対応は?

桐淵氏 いじめている児童生徒はほとんど、受験や学校、家庭など何らかで強いストレスを抱えている子です。学校の人間関係でストレスを抱えている場合は、学校が対処しなければなりません。席替えや班替えなど環境を変えてあげるなどがあります。

 家庭でストレスを抱えている場合というのは、親の過度の期待、兄弟間の抑圧などがあります。親御さんと話し合ったりしますが、ネグレクトなどの場合は、その子と波長が合う教師が寄り添い、「自分には味方がいる」というメッセージを送り続けることが大切です。

◇加害者に寄り添い、支援する

--問題を抱える子に寄り添い、人間的な成長を支援するとは?

桐淵氏 同級生を子分的に使うなど、影のリーダーだった子に、学級委員長をやらせるなど表でリーダーシップを発揮させることで、自信を付けさせ、学級の雰囲気ががらりと変わったというような事例もあります。学級通信で最初にその子を取り上げるなど、担任教師とその子の信頼関係構築に役立つスキルは昔からたくさんあります。

◇「この程度」の思い込みが危険

--学校側がいじめに気づかなかったという事案がありますが、どう思いますか?

桐淵氏 教員なら、表情、しぐさ、態度でおかしいなと感じると思うのです。言葉ではうそはつけるが、表情まではうそはつけませんから。教員の感度がそこまで低いはずはないと思うのですが。

 ただ、「(この年代なら)このようなトラブルはあるよな」という思い込みが、動きを鈍くさせて、気づいたら悪化していたというケースはあるかもしれません。「この程度」と思っていても、子供によってはひどく傷ついている場合もあります。子供の耐える力を適正に評価できなかった、ということはあるかもしれません。

◇「いじめは許されない」 大人がはっきりと

いじめが起こった場合は、学校内、保護者、地域、大人みんなで対応していかないといけません。大人が、はっきりと「いじめは許されない行為だ」と「本気だ」と示せば行為自体は収まります。ただ、その後、地下に潜らせない、いじめられた子を孤立させない等、アフターケアが必要になります。そのアフターケアが難しいのですが。いじめられた生徒の親御さんと連絡を密にし、その後の様子を見たり、クラスの中で影響力の強い子にサポートを頼んだりします。

 もちろんいじめた側の親御さんとも連携します。生徒を厳しく指導した後も、家庭に電話をし、「あんなにしかっちゃったけど、ご家庭ではどうですか?。学校ではちゃんとやっていますよ」というふうにアフターケアをする。必要な情報はちゃんと共有することで、保護者も学校の指導を信用し、共に解決できるのです。

◇追記(記者より)

JforJoker様

 コメントありがとうございました。「いじめの加害者を逮捕するという対処法も」と書かれておられましたが、こちらの言葉足らずで申し訳ありません。インタビューの冒頭で、中学生が逮捕された事件に触れましたが、暴力事件で逮捕されたのであり、いじめ事案ではありません。桐淵氏は「警察と連携するなど毅然とした対応が必要」とは話されましたが、それがイコール「逮捕」とは言われていませんし、私も受け取っておりません。私の文章力のなさで、誤解を与えてしまったようで、申し訳ありません。警察と連携したことを示すだけでも子供たちは「大変なことをしてしまった」と認識するのではないでしょうか?

【加害者の懲罰を考えるアーカイブ】

 加害者の出席停止などが盛り込まれたいじめ防止対策推進法は13年に施行された。同法が施行される際には加害者の懲罰の是非についてさまざまな記事が登場した。

記者の目:いじめ対策法整備・大津の教訓=千葉紀和(大津支局)

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/015000d

  いじめ防止推進法が施行された日の朝刊には、NPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の記事が掲載された

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/016000d

  いじめで我が子を喪った同法人の理事はこの記事で「やられたらやり返す」で良いのかと問い、

いじめ、罰よりケアを 亡き娘の優しさ、大人にこそ

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/010/001000d

では「罰よりケアを」と訴える。

 その理事が執筆した記事。

スクールクライシス学校危機・心と命を救おう 誰かを傷つけてしまったら

https://mainichi.jp/articles/20160130/ddl/k27/100/454000c

加害者らに呼びかける「これは罰ではありません。あなたが今後、同じ過ちを繰り返さず、よりよく『生きていく』ための作業です」との言葉が心にしみる。

 加害者の懲罰を求める被害者の訴えを報じた記事は

いじめ:発覚、現場の対応 やられたうちの子がなぜ我慢 加害者の転校は困難 /埼玉

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/017000d

佐賀・鳥栖のいじめ:加害生徒、別室指導 悪質行為の数人

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/018000d

いじめ:加害者に出席停止を積極運用--東京・品川区方針

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/019000d

がある。いじめ発覚後も解決せずに、被害者が追い詰められている様子がうかがえる。

記者のひとりごと:追い込まれる教育現場 /東京

https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/020000d

は、現場での一人の教員の飾らない本音が聞けて、興味深か