ソーシャルアクションラボ

2018.08.23

担任教諭が加害者に?  発達障害といじめの関係を探る①

 弱い相手や異質な相手を攻撃する。典型的ないじめの構造だ。時にはその矛先が発達障害のある児童生徒に向けられる。海外の研究では発達障害がある子どもたちはいじめの標的になる可能性が高いことが報告されている。生徒からのいじめとともに、学校での生徒の「あるべき姿」に執着する教師の思い込みや無理解も、子どもを追い込む要因になっている。ある女子生徒の例を紹介する。【金秀蓮】

◇支えてくれる生徒がいるかいないか

 「娘は転校先の中学校でいじめを受け、高校でもいじめの被害にあっていました。その学校の雰囲気や先生の理解の度合いによって対応は異なり、時には先生が娘をさらに苦しめることがあったのです」
 母親はそう振り返る。
 女子生徒は中学2年からいじめの被害にあっていた。会話の中で相手の意図をくんだり、他者と密接なコミュニケーションをとったりするのが苦手な傾向がある。不安があると頭をかいたり、立っているときに体を左右に揺らしたりしてしまうのも特徴だ。
 だが、2年生で転校した中学校は、障害の有無にかかわらずすべての生徒が同じ教室で過ごすインクルーシブ教育を推し進めていた。同級生の中には女子生徒を率先して支えてくれる男子生徒がいた。

 3学期のある日、周りの女子が女子生徒に質問した。「あの子(支えてくれる男子生徒)のこと好きなんでしょ?」。恋愛感情があるわけではない。文面通りに質問を受け止め、素直に「好きだよ」と答えた。言葉の裏にある意図を推察しにくいのも女子生徒の特性の一つ。だが、クラスメートは女子生徒をひやかし、矛先は男子生徒にも向かった。周りの反応に窮した男子生徒は「あんなやつ好きじゃない」と言い、女子生徒との関わりを断った。その後、女子生徒はクラス全員から無視されるようになった。
 いじめを把握した学校は、3年生でクラス替えをした。新しいクラスでも別の男子生徒が女子生徒を支えてくれた。
 女子生徒同士の会話は複雑でついていけず、話がシンプルな男子生徒と会話することが増えた。ねたましく思った女子から悪口を言われることはあったが、男子生徒たちが守ってくれた。 

◇高校に入るといじめの標的に 「毎日毎日死ねと言われ」

     
 女子生徒は乳幼児期を障害児の療育に熱心な町で育った。1歳半の乳幼児健診で発達の遅れを指摘され、母子で療育施設に通った。その後、自閉スペクトラム症と軽度の知的障害があると診断された。
 小学校は通常学級に在籍した。特別支援コーディネーターや支援員の力も借りながら学校生活を送っていた。子どもの送り迎えの時には悩みを抱えている母親にコーディネーターが「どうしましたか?」と優しく声を掛けてくれた。「娘が困っていること、苦手なことを克服できるように、時間割表を写真で撮ってラミネートするなどさまざまな支援をしてくれた」という。中学入学後は特別支援学級を望んだが、転校先には通常学級しかなかった。
 高校に入ると、特定の生徒の標的となった。
 「高校1年の時は毎日毎日死ねと言われてつらかった」
 女子生徒は当時をそう振り返る。1年生の時は後ろの席の生徒から椅子を蹴られ、プリントを回すと「とろい」と暴言を吐かれた。3学期からは机に突っ伏し動けなくなった。被害を訴え、母親が学校に相談したが、いじめた生徒は事実を認めなかった。
 悩みを抱えながらも2年生に進級した。当初、担任の女性教諭の保護者への対応はきちんとしていた。母親は女子生徒の診断名や軽度の知的障害があることなどを伝えた。席はなるべく前列にしてほしいこと、ノートを取るときには合図をしてほしいことなど、女子生徒が学校生活を円滑に過ごすことができるように支援してほしいことを話した。担任の教諭からは「わかりました。受け止めて対応します」と言われた。「きちんとした先生だなというのが第一印象でした。この先生なら任せられると安心したんです」。だが「当て」は外れた。

◇「素人だから」 発達障害を理解しようとしない教師


 朝礼時に体を揺らしてしまう女子生徒に担任教諭は「なんで動くの? ぴしっとしなさい」と怒鳴った。じっとしていたくても、じっとしていられない。大きな声で怒鳴られる恐怖が日に日に増した女子生徒は、怖くて教室に入れなくなった。周囲を気にせず容赦なく怒る担任の言動は、この女子生徒を「よく怒られる子」にしてしまった。怒られているところしか見られていない自分が嫌で女子生徒はクラスメートに話しかける勇気も持てなくなった。孤立は深まり、新しいクラスが始まって2カ月余りで学校へ行けなくなった。
 事情を知った管理職は首をかしげ女子生徒に質問した。
 「1年の時のこと(いじめ)があったから、2年生のクラスは最大限優しい子を集めたんだよ。何がいけなかったの?」
 女子生徒はおそるおそる答えた。
 「先生が……」
 その言葉を聞いた大人たちは驚いた。
 生徒からのいじめとともに教師の接し方で学校での居場所がなくなった。
 「高校でも発達障害がある娘の特性を理解してもらおうと努めましたが、『私たちは素人だから』と言われ続けました。さらにいじめられたと訴えても、相手の生徒はそんなことをするはずがないと、証言はうやむやにされ、受け取り方の違いや空耳であるかのように扱われたときもありました。教師が学校での役割を果たしていなかったのだと思います」。母親はため息をついた。
 高校2年の時から不登校となった女子生徒は、その後「別室登校」などを経てこの春無事に高校を卒業した。今は、自らの特技を伸ばそうと前を向いて生活している。