ソーシャルアクションラボ

2018.09.12

教師の本音・どうする?/いじめの証拠を見つけた時

 言うまでもなく教師はいじめ問題で重要な役割を果たす。忙しすぎていじめを見つけられない? 見つけても隠すのでは? 本当のところはどうなのか。教師の本音を聞いた。【鷲頭彰子】

  • いじめは本当に発見できないのか
  • いじめ対応の遅れを悔やむ教師の告白
  • 教師に子供たちと向き合うゆとりを

(写真はイメージで本文とは全く関係ありません)

◇メモ帳証拠にしばらく観察

 「うざい」。埼玉県の30代女性教師はある時、教室でこう書かれたメモ紙を見つけた。学級会ですぐに問いただせば隠されるのは容易に予測できた。しばらく観察したり、放課後の持ち物検査で同じメモ帳を探したりした。同じメモ帳、同じ筆跡。クラスのパワーバランスの中で〝強い〟一人の女児が浮上した。
 女児を呼び出した。女児は示された証拠にしぶしぶ自分が書いたことを認めたが、「あの子がにらんできたから」と口をとがらせた。親にも連絡した。「こういう時期にはよくあることですよね」「私が子供の時もありました」と親は反発した。
 女児は特定の子をいじめるのではなく、その時その時でターゲットを変えていた。「そういうことをしていると、そのうち自分に返ってくるよ」と何度も話し合ううちに、問題は解決した。

◇教師の助け求めぬ被害者

 それから7年後、異動した別の小学校で深刻ないじめが発覚した。6年生を受け持つ女性教師の隣のクラス。4年目の男性教師が担任のクラスだった。
 「○○菌」と、ある女子を名前の後ろに「菌」を付けて呼んでいた。学校が定期的に行うアンケートで同級生が明らかにした。男性教師は校長や教頭に報告し、6年生の担任3人が休み時間も交代で教室に張り付いた。
 騒ぎになることを嫌がった女児は、いじめられていることは認めたが、教師の問いかけに最低限しか答えなかった。心配した母親が問いただし、女子は3年生の時からいじめが始まったことを告白した。「もう慣れた」との言葉と共に。
 いじめていた男児4人を呼び出し、どういうことをしたのか一つ一つ自分の口で言わせ、相手の気持ちを一緒に考えていった。保護者にも電話で報告。女児は嫌がったが、学年全体でも、あだ名を付けられて嫌な思いをしている生徒がいることなどを話し、考えさせた。「○○菌」と言った児童、見て見ぬふりをしていた児童、クラス全員が一人一人、女子に謝った。いじめは解消し、女児は明るさを取り戻していった。
 女児の保護者は学校に対し、A4用紙2枚に質問と要望を書いてきた。書面の最後には「勇気を出してアンケートに答えてくれた同級生がいじめのターゲットにならないよう、学校は全力でその子たちを守ってほしい」とつづられていた。

◇被害者の心の傷、見誤り

 クラスの全34人中、半数が関わり、全員がいじめを知っていた。担任の男性教師は発見できなかったのか。女性教師は「男性教師は菌タッチごっこをしているのを見たようだ。ただ、言われていると思われる本人がひょうひょうと過ごしていて、悩んでいるように見えなかったことが対応の遅れにつながった。初めての6年生の担任、初めての体育主任で仕事に忙殺されていた。目の前の仕事が多すぎて、それをこなすことを優先し、子供たちの心の問題を後回しにしてしまった」と悔やんだ。

◇児童とのコミュニケーションこそ 

 「いじめは発見できる」ーー教員生活12年目の女性教師は記者の質問に、しばらく考え、はっきりと答えた。「児童とのコミュニケーションを日々はかるようにすればいじめは発見できる。毎日全児童と話します。今日はこの子と話していないな、と思ったら、自分からコミュニケーションを取る。今は忙しくてなかなかできないが、休み時間に子供と一緒に遊ぶのが、素の子供の様子が見られて一番良いです。最近誰と誰と遊んでいないな、鬼ごっこなのに、あの子には誰もタッチしないな、など、子供の中に自分が入っていかないと変化に気づけません」
 教師が子供に向き合うゆとりが不可欠なようだ。

◇【ご意見ください】学校の責任はどこまで?

 【記者より】 取材した感じでは女性教師は、ベテランで教育熱心なのだろう。ただ、いつでもそういう教師が担任になってくれるわけではない。
 東京都のホームページの「教員の年齢構成」の図http://www.kyoinsenko-metro-tokyo.jp/nenrei_kousei)を見てもわかるように、教師の年齢構成は20,30代と50代に偏り、中間層の40代が少ないM字形になっている。これは全国的な傾向だ。ベテラン教師の大量退職に伴い増える若い教師に、身近な先輩として相談に乗ったりノウハウを教えたりする教師が少ないということだ。
 社会に出た当初、慣れない仕事に四苦八苦した経験は誰しもが持っているだろう。もっとも身近なところで子供を見ているのは担任と保護者だ。女性教師は「子供は学校と家とでは違います」と話した。「子供は友達との化学反応で善悪の判断を間違えることがある。友達と一緒になると悪いと分かっていても思わず言ってしまうことはある。『うちの子はいじめなんかしない』と信じる気持ちは私も親なので理解できるが、瞬時に子供をかばうのではなく、子供と向き合ってほしい。子供が判断を間違えたとき、その都度、我が子が相手の子を傷つけた、そのことがどれだけ親として悲しいことかを伝える。親として指導することが子供には一番響くと思います」と話していたのが印象的だった。
 担任一人だけで問題の責任を負うのは酷ではないか、と思いますが、皆さんはどう思われますか?

【学校、教師の対応を考えるアーカイブ】

 いじめに気づいていながら業務を優先してしまった記事は過去にもある。

 大津市の中2自殺問題から5年、その後のいじめ対策を考える記事
●「脱いじめ」の現在:大津中2自殺から5年/ 教員多忙、対策おざなり
https://mainichi.jp/articles/20161008/ddm/012/100/036000c
 また、教員の認識の甘さが悪化させた事案を報じているのが

見えない、いじめ:/ 東京・品川の中1自殺 「教員の認識に甘さ」
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/021000d

だ。併せて全国自治体アンケートの記事も読みたい。

いじめ対策:大津の教訓、手探り 疑い「悪ふざけ」扱いは危険 全国自治体アンケ
https://mainichi.jp/articles/20161006/ddn/041/100/013000c

 学校は子供の発するSOSに気づかないのか、との疑問を考える際に、

大津・中2自殺:いじめ情報、見逃されたシグナル 調査わずか3週間 市教委に批判1800件
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/022000d

見逃されていたSOS 保健室へサイン--中2いじめ自殺
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/023000d

岐阜・瑞浪の中2自殺:クラブで下級生扱い 友人「気づかず…」 学校の保身、批判
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/024000d

佐賀・鳥栖のいじめ:70万円脅し取られた男子中学生、作文で被害示唆 担任は気付かず
https://mainichi.jp/articles/20180410/org/00m/040/025000d

を読んでみてはどうだろうか。

 子供と向き合うべき教員が多忙により、ゆとりを失っていることを問う記事もおすすめだ。

防げなかった悲劇:仙台中学生いじめ自殺/ 教員の多忙化加速 「親と学校が補い合う関係を」
https://mainichi.jp/articles/20170806/ddl/k04/040/104000c