ソーシャルアクションラボ

2018.09.21

「学校のあたりまえを疑え!」 社会学者 内藤朝雄さん

社会学者、明治大学文学部准教授 内藤朝雄さんに聞く

  • いじめが起きやすい環境がある
  • いじめに対処するための道具箱を用意しよう
  • 学校への法の導入 学級制度の廃止

 内藤さんは20年以上にわたり、いじめ問題を心理的、社会的、教育的枠組みから分析し、問題解決のための提言をしている。著書に、「いじめの構造――なぜ人が怪物になるのか」がある。閉鎖的な空間である学校の「あたりまえ」がいじめを蔓延させ増長させていると主張する。学校にも市民社会と同じルールを入れることが大切だという。たとえば暴力をふるう者には法律を適用する。また、閉鎖された空間に閉じ込めて強制的にべたべたさせる学級制度、服装、髪形、給食、学校行事などの強制をやめる。「学校のあたりまえを考え直そう」と話す内藤さんに、「いじめ」への処方箋について聞いた。【聞き手・小川節子】

ないとう・あさお 1962年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程を経て現在、明治大学文学部准教授。初めての著作「いじめの社会理論」でいじめの発生メカニズムを解明し注目を集めた。

◇人の流動性が低い、特殊なルールがある……これらがそろえば起きる

ーーいじめはなぜ起きるのでしょうか。

内藤 いじめはたくさんの要素が混ざり合って起きています。でも、いじめが起きやすくエスカレートしやすい環境として以下のことが考えられます。

①所属する人の流動性が低く、人間関係が入れ替えにくい。逃げることができない。②前もって「仲良く」すべき相手が決められ、強制される。③市民社会とは違った特殊な秩序・ルールがあり、“ノリ”に支配されている。④自分にとって加害者であったり敵であったりする人とも仲良くすることを強制される。⑤一般社会から隔絶された、治外法権の閉鎖空間となっている。

 これらの条件がそろえば学校でなくとも、職場、地域、家庭でもいじめは起きます。ただ現在、学校ほど典型的なところはないと思います。
 心理学者のフィリップ・ジンバルドーは、監獄と同じ生活環境を再現した施設で、健康な若者を囚人役と看守役に分けて共同生活をさせました。すると、看守役の若者たちは、ほんの数日で囚人役を痛めつけて遊ぶ怪物のようになりました。実験はあまりにも危険なため中止されました。
 これと同じことが学校で起きています。同じ年齢のひとたちを閉鎖空間に閉じ込めて強制的にべたべたさせる「距離なしの地獄」で、子どもたちが怪物のように残酷になってしまいます。

ーーいじめの種類としては?

内藤 殴る、蹴る、衣服を脱がせるなどの「暴力系いじめ」と無視する、悪口をいう、嘲笑する、デマを流すなどの「コミュニケーション操作系いじめ」の2種類に分けられます。「暴力系いじめ」の場合は、ほとんど「コミュニケーション系」とまざっています。

◇学校に深入りしないよう子どもとじっくり話し合う

ーーこうしたいじめを見つけるために親はどうしたらいいですか。

内藤 外部から隔絶した場所で、当事者が本気で隠そうとしたら、みつけることは困難です。それは大人でも子どもでも同じです。さらに、一人一人の顔がちがうように、いじめも一回一回ちがいます。発見のためのチェックリストもさまざまありますが、当てはまらないことが多く、信用しすぎないほうがいいです。こうすればいじめを発見できるなどと自信満々にうたっているお茶の間の有名人は、でたらめなことを言っていると考えてください。
 学校という閉鎖空間はいじめが起こりやすく、エスカレートしやすい、しかもいじめを発見しにくい場所だという認識を持っていることが大切です。もちろん親は子どもの様子を注意深く見まもる必要がありますが、それでも発見できたら幸運と考えてください。
 そもそも発見という考え方は、子どもが親に話さない見込みが大きいことを前提にしています。子どもが被害にあったら、それをあたりまえに親に話すのであれば、「いじめをみつけるために親はどうしたらよいか」といったこと自体が問題になりません。
 たとえば、スーパーマーケットや路上や公園で、見知らぬおじさんが突然殴ってきたとします。当然、子どもは親に話します。親は子どもといっしょに警察に行きます。おじさんは逮捕され、裁判にかけられ、処罰されます。また、そのような人物がいつも出没する場所があるとすれば、その場所は危険だから近寄らないようにと親が言うと、子どもは近寄りません。
 子どもが学校を特別あつかいせず、路上や公園や近所のラーメン屋と同じようなものとみなしていれば、いじめを親に隠す見込みは小さくなります。公園で知らないおじさんに殴りかかられたことを親に話すように、学校のいじめを親に話すだろうと考えるのが自然です。
 日ごろから、子どもが学校を近所のラーメン屋や路上や公園のように扱うよう、学校に深入りしすぎないよう、じっくりと話し合っておくことが大切です。完全に説得することはむずかしくても、学校を特別あつかいしないよう話し合っておくと、いざというときに多かれ少なかれよい効果をもたらします。狭いクラスに閉じ込めて強制的にべたべたさせる、集団主義一辺倒の日本の学校制度は悪であり、学校は集団生活のなかでまともな市民としての感覚がおかしくなってしまいかねない危険な空間であるということを、子どもにはっきりとおしえることが有効でしょう。たまたま学校でいっしょにいあわせたというだけでは、赤の他人だとはっきり教えましょう。
 このような、学校を特別あつかいしない親子の共通認識がしっかりしていればいるほど、いざというときに、子どもが被害を親に話す見込みが大きくなります。逆に、子どもが、学校が学校であるというだけの理由で家族のように共に生きる特別な場所であると錯覚していればいるほど、いじめ被害を親に話さない見込みが大きくなります。

◇決まった解決法はないが、自分用の対応策を考える道具箱を

ーーいじめがみつかった場合、親はどうしたらいいでしょうか。

内藤 いじめ被害者にとって学校は、一言で言えば「距離なし地獄」です。閉鎖的な空間に閉じ込めていじめから逃げられなくする学校制度を変える以外に、本当に有効な対処法はありません。つらいと感じた人が簡単に距離を置くことができるように制度を変えれば、大部分のいじめは力を失います。残念ながら、学校制度に対してばらばらの個人は無力であることが多いです。そのなかで、少しでもましな状態になるように努力する必要もでてきます。これはがん治療でいう姑息(こそく)療法のようなものですが、しないよりはした方がよいことはまちがいありません。
 いじめは一つ一つ違うので、これといった対処方を提示するのは難しいです。ある場合にそこそこ有効だった対処は、別の場合には逆効果だったりします。一回一回の個別のいじめは、当事者がその都度作りあげ、変更していく「その人専用」の対応策をたてなければならなくなります。
 「こうすればいじめは解決」などということを自信満々で言う「識者」は、でたらめなことを言っていると考えてください。個別のいじめはケース・バイ・ケースで、決まった解決法などありません。個別の対処は、見通しのつかない手探りと錯誤の連続で、そんなにうまくいくものではありません。結果的にこちらのダメージを最小限にする努力のつみかさねと考えておいた方がよいです。それは、すぱっと割り切れない、苦々しいものです。
 自分用の対応策を考える時、道具箱にさまざまな道具を持っている方が、もっていないよりもよいでしょう。それぞれの道具は、一回一回働き方が違って、うまくいくときもいかないときもあります。そのときそのときの状況をみきわめながら、どのタイミングで、どの道具をどう組み立てて使うかを決断します。以下では、そういった基本的な道具を紹介します。道具は、他人のケースから学ぶことができます。自分なりの道具をどんどん増やしていってください。「どんなときもこうすればうまくいく」対策マニュアルなどと勘違いしないでください。

たとえば、

・「暴力系いじめ」の道具箱

  1. 「暴力をふるわれた時に証拠を残す」 少しでもけがやアザ、痛みが残ったら病院へ行き診断書を書いてもらう。同時にカメラで撮影したり、起こったことを文章で「いつ、どこで、だれが、なにをしたか、その時どう感じたか」を具体的に記録する。
  2. 「警察へ行く」 学校を跳び越え直接、警察へ訴える。このとき①の証拠があると有利になる。
  3. 「弁護士と一緒に」 弁護士と一緒に警察に行くとさらに効果的だ。警察も真剣に取り組まざるをえない状況をつくる。
  4. 「地元の議員、マスコミを活用する」 地元の議員に相談したり、マスコミに連絡することで、警察、学校への圧力になる。サボると自分の立場が危うくなるかもしれないと思うと、警察も学校も、サボりづらくなる。教員が加害者の場合も同じだ。
  5. 録音するとよい。

 「暴力系いじめ」はそれが「暴行罪」「傷害罪」「脅迫罪」などという犯罪に相当しており、すでに「教育」の範囲を超え、「法」の領域の出来事であるということを加害者や学校に受け入れさせることが重要です。学校に警察が入ることに対して「学校に対する信頼を失わせることになる」と反対する人も多いですが、このようなことを言っている時点ですでに信頼は消滅しています。こういう発言をする人は、信頼を殺し文句にして黙らせようとしているのです。信頼は、信頼する側が自由に抱いたり抱かなかったりするもので、信頼される側が要求するものではありません。自分の利益のために他人に信頼を要求した時点で、それは信頼関係が存在しないということをあらわしています。もちろん、学校が学校であるというだけの理由で信頼しなければならない理由はまったくありません。むしろ構造的に「距離なし地獄」になりやすい学校は、まず疑ってかかる必要があります。「表ざたにしないでほしい」といった学校側の要求は無視して、弁護士を雇い、積極的に警察ざた、裁判ざた、マスコミざた、議会ざたにする。それは子どもを守るためにも必要なことです。何をやっても相手は泣き寝入りするという安心感を与えると、暴力行為はどこまでもエスカレートします。学校内で行われている暴力行為を許し、見逃していることがいじめの蔓延につながっています。

◇「無視される」といったいじめには「内容を文章化」「証拠を残す」

ーーコミュニケーション操作系いじめはどうしたらいい?

内藤 無視される、嘲笑されるといったいじめを受けている子どもは、ときに死になくなるほどつらいのに、警察は動いてくれません。暴力系より対処の仕方は難しいです。基本的に、閉鎖的な空間に閉じ込める制度があるかぎり、どうしようもありません。道具箱のなかの道具も、たいした効果はないかもしれないけど、やらないよりやった方が少しはましかもしれないといった程度のものしかありません。

・「コミュニケーション操作系いじめ」の道具箱

  1. 「いじめ内容を文章化する」 いじめられた時の自分の感情を客観的にとらえることもできる。
  2. 「いじめ被害をお金に換算する」 金銭換算によって人間関係をドライなものに変えることができる。
  3. 「証拠を残す」 悪口が書かれたようなメール、手紙などを証拠として残す。
  4. たまたま教師がまともな人間で、かつ有能でやる気がある場合にかぎって、「教師に相談する」 そのような幸運な場合に、相談し加害者に圧力をかけてもらう。
  5. 弁護士を通じて法的措置も視野に入れていると告げて、教委、学校、加害者の保護者に改善を要求する。また、マスコミや議員にも訴えかけ、それを教委、学校、加害者の保護者に告げる。
  6. 「学校を変える」 思い切って転校することで苦しい状況から脱出することも選択肢のひとつ。
  7. 録音するとよい。

◇極端な集団主義を採用する日本の学校制度こそがいじめの温床

ーーいじめをなくすための解決策は。

内藤 私は極端な集団主義を採用する日本の学校制度こそがいじめの温床だと思っています。それまで何の縁もなかった他人がクラスメートとして1カ所に集められ、長時間にわたって集団生活をさせられます。子どもたちはストレスの強い状態に置かれます。流動性が低い閉鎖空間に押し込められて、実質的には個人として集団から距離をとることが禁止されています。そのうえ学校独自の奴隷的ともいうべきルール、校則が細かく厳しく決められています。このような学校制度を改めることが、根本的解決をもたらします。

ーー具体的には?

内藤 生徒の髪の長さ、パーマや染髪しているかどうか、スカートの長さ、靴下、下着の色までがんじがらめに拘束されています。学校は「生徒らしく」「学校らしさ」を保つことに力を注ぎます。持ち物検査、給食の食べ方など細かく強制されていて、自由はありません。市民社会では普通のことが許されず、逆に市民社会で許されない暴行、脅迫、強要などが通用し許されている。

 閉鎖的な空間に閉じ込めたうえで、こうした学校独自の全体主義を強制するしくみがいじめを蔓延させていると思います。これをなくせばいじめは少なくなるはずです。私が考える方法としては「中長期的な解決策」と「短期的な解決策」があります。

ーーそれぞれの解決策について教えてください。

内藤 「中長期的解決策」としては、生徒を一つの学校に縛りつけることがない新たな制度を実施すること。一人一人の学力、地域性、学びたいことなどに応じ、好きな学習支援団体を選ぶことができるようにします。バウチャー制にし自由に学ぶことができるような制度です。ただ、実現までに時間がかかるので、「短期的な解決策」として「学級制度の廃止」「学校への法の導入」をセットで実行することが有効だと思います。

ーー学級制度を廃止するのですか?

内藤 そうです。クラスを廃止し、大学のように授業を単位制・選択制にすることで、人との距離感が取りやすくなります。生徒は授業ごとに教室を移動し、思い思いの席につく。食事も教室や庭、カフェテリアなど好きな場所で好きな相手と食べる。だれかが無視したり、悪口をいってもクラスという閉鎖空間がないので、いじめそのものが力を失います。大学でいじめが激減するのは、そのためです。

 現在、学校は外部からのチェックが働かない治外法権の場所となっています。道や駅で人が殴られたり、金品を強要されたりしたら、犯罪として通行人は警察に通報しますよね。それが、学校では聖域として許され、当たり前のこととされています。これを変えるしかありません。

<質問です>

①内藤さんは、「暴力系いじめ」をされたら学校を飛び越え、直接、警察に訴えることを勧めています。「暴行罪」「傷害罪」といった犯罪に相当しており、「教育」の範囲を超え、「法」の領域であることを加害者や学校に受け入れさせることが重要というのが理由です。あなたはどう考えますか?

投票でみなさんの意見をお寄せ下さい。

投票受付期間:

2018年4月23日5時00分~2018年6月30日23時59分

※投票受付期間を変更しました。

②内藤さんは、何の縁もなかった他人がクラスメートとして1カ所に集められ、長時間にわたって集団生活をさせられるストレスを指摘。いじめの解決策として学級制度をなくすことをあげています。学級、クラスをなくすことについてあなたは賛成ですか、反対ですか。 

投票でみなさんの意見をお寄せ下さい。

投票受付期間:

2018年4月23日5時00分~2018年6月30日23時59分

※投票受付期間を変更しました。