2018.10.18
見えてきた問題の根に横たわるもの 司会・澤論説委員(教育担当)
いじめをいかに早く見つけて対処するか。そして、いじめを未然に防ぐ環境をどう作るか。いじめ対応の要点は大きくこの二つだろう。
文部科学省の調査では、2016年度に小中高校などで認知されたいじめ件数は32万3808件で、15年度から約9万8000件増えた。
けんかやふざけ合いに見えても「一方的なもの」は積極的にいじめと認めるよう文科省が通知した結果という。これまで見過ごされてきたトラブルをすくい、教員らが意識することは意味がある。早く対処する基本といえる。
いじめに対しては多様な対応を重ねていくことが重要だ。学校に限らず、小さな「いじめの芽」を大人が見つけ、子供に寄り添うことが自殺など重大な事案を防ぐことにつながる。
いじめ発生の要因は複合的だ。クラス内での友人関係、教員と児童生徒との距離感、あるいは家庭生活、と原因が絡み合うケースが多い。
だから、起きたいじめの様態を見て対応するとともに、いじめ自体が起きにくい学級作りも欠かせない。家庭との密な連絡も重要だ。
先月下旬、東京都内でいじめ問題の解決に向けた取り組みを話し合うシンポジウムで司会を務めた。問題に関わる有識者からは、子供たちのストレスを解消する必要性や子供の話をまずはよく聞くことなど、幅広い予防のための案が出された。いずれも教員を含め、周囲の大人の目配りや優しさが重要という提言だ。
子どもの発達科学研究所の主席研究員を務める和久田学さんは、学校や学級の「風土」を科学的に分析する有効性を訴える。
教員らの感覚でなく、子供たちへの入念な質問で、学校や学級の状況を明らかにして、いじめの温床になりやすい「空気」を探り出す。学級のルール設定が不十分だったり、先生と子供の関係が良くなかったりすれば、そこに手を打つことでいじめを防ぐこともできるという。
いじめ自殺で一人娘を亡くしたジェントルハートプロジェクトの小森美登里理事は「加害者の子に寄り添う姿勢も大切だ」と説く。虐待の経験など見えない傷がいじめに走らせる要因だという。これも「予防」の要といえるだろう。
子供の気持ちを包み込む大人の愛情の多寡が、問題の根に横たわっているのではないか。
論説委員が交代で執筆する毎日新聞の「一点張り」というコラムで、先日のシンポジウムの内容を上記のように少し紹介した。これだけ社会問題になりながら、一向になくならない「いじめ」について、関わる大人の本気度が試されているようにも感じる。
シンポジウムでは、いじめ解決に向けた多様な視点、提案が出された。原因が複合的であれば、対応も複合的でなければ解決への道は遠くなる。ソーシャルアクションラボが提示した12の解決策を、状況に応じて組み合わせていただきたいと痛切に感じる。それには、学校の先生のみならず、保護者もあるいは周囲の大人も積極的に関わる姿勢が欠かせない。人ごとではない、自らの課題の一つとしてどれだけ受け止められるか。それが「子供の気持ちを包み込む愛情の多寡」なのだと思うのだ。