ソーシャルアクションラボ

2020.02.21

明日への備え 行動予定を作り、減災につなげる

<いのちを守る>

マイ・タイムライン 時系列で整理、情報に応じて避難判断 

 大雨などの災害時に取るべき行動を住民自身が時系列で整理する「マイ・タイムライン」を作る取り組みが全国で広がっている。普段から自宅の水害リスクや避難場所を確認して防災グッズを用意し、大雨予報が出た後には川の水位情報など「逃げ時」の把握に努める。関東・東北豪雨(2015年)で被災した茨城県常総市で始まり、東京都や18年7月の西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市などにも広がっている。【戸田紗友莉、井上元宏】  

 19年6月9日、倉敷市真備町川辺地区のまちづくり協議会が開いた防災の勉強会。地域住民や高齢者・障害者の避難を支援する団体の職員など約60人が、台風発生を想定したタイムライン作りに挑戦した。災害発生の1日前から、発令される警戒レベルごとに「気象情報や報道を見て情報を集める」「カバンに物を詰めて避難の支度を始める」「車に乗って避難を開始する」などとるべき行動を書き込んだ。

 参加した住民は「西日本豪雨では川の水位など具体的な情報がなく、避難を考えなかった」「避難所に災害用の備蓄がなく困った」などと振り返った。パートの槙原聡美さん(40)は「もっと早くから大事なものを2階の高い所に上げるなど準備を始めないといけなかった。これからは警報が出たら移動させるものを確認し、避難準備を始めようと思う」と話した。     

 タイムラインは台風の際、自治体が数日前から避難所準備などを進めて被害を抑える手法として、米国で生まれた。この個人版を作ったのが関東・東北豪雨で氾濫した鬼怒川の大半を管轄していた国土交通省関東地方整備局下館河川事務所(茨城県筑西市)。豪雨翌年の16年に茨城県常総市の根新田町内会(約100世帯)などでモデル事業を始めた。

 根新田町内会は関東・東北豪雨で地区の大半が浸水。当時、町内会はスマートフォンなどのショートメールで川の状況を逐一発信し、避難を呼びかけた。事務局の須賀英雄さん(68)は「それでも、どこに何を持って逃げたらいいのかわからないという声は多かった」と振り返る。その教訓から、下館河川事務所は小中学生がマイ・タイムラインを作るための手引「逃げキッド」を作成。近所の高齢者の状況を確認し避難を呼びかけるタイミングも盛り込み、地域の共助にもつなげた。

 全国で台風や大雨による大規模な被害が相次ぐなか、東京都が19年5月に作成ガイドをまとめるなど、マイ・タイムラインは全国で注目を集めている。筑波大の川島宏一教授(社会工学)は「住民が身の回りの災害リスクを知り、自ら情報収集して準備を進めることで、早期に避難を判断できる力をつけられる。地域全体で取り組むことが実効性を上げる鍵だ」と話している。

※この記事は2019年9月17日付け毎日新聞朝刊に掲載されたものです。