ソーシャルアクションラボ

2020.04.08

第15回水害サミット 命を守る、住民主体で③

 水害などに被災した全国の地方自治体のトップが一堂に会して意見交換をする「第15回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が今年6月に行われ、水害被害にあった全国各地の自治体の首長らが「過去の被災経験を復旧・復興対策に有効に生かすために」をテーマに話し合った。その模様を紹介する。(2019年7月8日付け毎日新聞より再構成)
〈②からつづく〉

【第2部】

行政主導から住民主体の防災対策への転換に向けて  対話重ねて地域一つに  

 元村・論説委員 基調講演に続いて住民が主体となって防災を実践している愛媛県大洲市三善地区の窪田亀一・自治会長にお話を伺いたい。  

 窪田・大洲市三善地区自治会長 三善地区は大洲市街地から6キロほど下流にある山に囲まれた盆地で396世帯がある。1級河川の肱川が流れており、昔から水害に悩まされてきた。06年2月に三善地区の自主防災組織を結成した。内閣府の指導を受けて、16年には三善地区の「災害避難カード作り」を進めた。地域住民全員に呼び掛けて自主防災のマップも作った。それぞれ地区で気に掛ける人、災害のときに声を掛ける人を地図の中にマークして、地域の人が把握できている。その地域、その区の人々が赤裸々に話をして、皆さんの共通意識として持ってもらっている。この災害避難カードには、自分の血液型、病気、かかっている医者など全て網羅している。昨年7月の豪雨では上流の鹿野川ダムが大量に放流するということで避難した。最初の避難所が危なくなり、第2避難所に避難した。命の対話を重ねることによって、その地域が命を守るために一つになると思う。  

 元村・論説委員 お二人の話はコミュニケーション、気遣う人の存在というのがキーワードだったと思う。  

 尾関・関市長 住民自ら意識を持って逃げてもらうということに尽きるというのが、昨年7月豪雨の一番の教訓だ。国に中小河川の新しい制度を作っていただき、市内を流れる津保川も採択された。  

 安田・加東市長 内水の排除対策ということで、水中ポンプなどを整備した。防災意識の高い人をどう確保していくかだ。消防団や水防団を中心に、地域で繰り返し防災訓練を実施してもらう。そこに私自身、足を運んで、あなたの命、大事な家族を守るためにこの訓練に臨んでほしいと話している。  

 坂口・那賀町長 長安口ダムに、治水機能を増強させる世界で初めての工法で、事前に水位を下げることができる工事をしてもらった。洪水とか台風のときは町民に、ダムの放流量や水位量、河川の水位をケーブルテレビで24時間、放送して知らせ、避難の判断材料にしてもらっている。  

 管家・西予市長 昨年の豪雨災害で6人が亡くなった。川の氾濫と山の崩壊が発生、今なお4カ所の地域で避難指示を出している。避難では消防団に一軒一軒回ってもらい、助けてもらった。夜中でも危険ということを市民に知らせる責任は私自身にあると思う。  

 泥谷・土佐清水市長 台風銀座だが、南海トラフの地震・津波対策に意識が行き、水害への備え、避難するという意識が希薄になっていると危惧をしている。総合的な防災対策を進めていきたい。  

インフルエンサー重要  

 久住・見附市長 国の「水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト」に参加した。その中で、人はなぜ逃げないかということを検証した。窪田さんのような「避難インフルエンサー(影響力のある人)」を、地域にどれだけ作ることができるかだ。離れた親族が避難勧告地域にいる親族に電話をかける「逃げなきゃコール」も大事だ。  

 小野・伊豆の国市長 400人の犠牲者が出た「狩野川台風」から60年、昨年は「狩野川台風の記憶をつなぐ会」のシンポジウムを開いた。今年3月に防災教育を受けている中学生から提言書をもらった。ハザードマップを定期的に作製して、地域ごとに確認、人の集まるところに提示するといった提言だった。  

 元村・論説委員 大変、励まされる話だ。  

 二宮・大洲市長 昨年7月に災害を受け、三善地区が取り組まれた「災害避難カード」の作製に全地区、全自治会で取り組んでいる。全市に広げて、地域のコミュニティーの力をもう一度、呼び戻したい。避難指示で「避難せよ」と放送し、効果があった。  

 牧野・鯖江市長 「マイ・タイムライン」を市民に作ってもらっている。また小学4、5年生を対象に「キッズ防災士」を育成している。災害時に地域で看護支援する看護師を「減災ナース」として登録している。  

 原田・日田市長 12年と17年に大きな災害を経験した。防災情報を確実に伝えるために、防災行政無線ラジオを全世帯に配置する計画だ。町内会の力をつけるためには、全て自治会に避難所などの運営を任せることが大事だ。  

 片峯・飯塚市長 5年前に片田教授の話を聞いてから、市内の全学校で防災教育を始めた。昨年の西日本豪雨では、自分でマイクを握り住民に呼びかけた。それで避難してくれた家族もあった。  

 山本・宇治市長 片田先生の話には感銘を受けた。持ち帰っていろいろな場で広めたい。  

 塚原浩一・国交省水管理・国土保全局長 温暖化の影響が激しくなってくる中で、事前の防災対策をしっかり進めたい。これまで、減災協議会やタイムラインなどの取り組みを進めてきており、一定の成果につながっていると考えているが、昨年の災害を踏まえれば、最終的に住民の方に逃げていただくために行政に何ができるのか、しっかり考える必要がある。これまでの「住民目線」のソフト対策ではなく、「住民主体」のソフト対策に変えていこうと取り組みを進めている。また、被災経験のない市町村には知見、ノウハウ、人材が不足している。過去の教訓を生かすことが非常に重要だ。水害サミットの活動は極めて重要で、今後も連携していきたい。  

 国定・三条市長 13年と16年に提言書をまとめ、国に提出してきた。度重なる水害で新たな課題が浮上してきたので、新たに緊急提言書を取りまとめた。国、自治体それぞれの役割と責任において、防災対策に万全を期すよう取り組みを進めていく。  

 中貝・豊岡市長 住民主体の防災への転換という話が、内閣府の報告書にも盛り込まれている。その報告書に行政に命を預けないでくださいというメッセージが掲載されているが、豊岡市からの提案だった。どうすれば主体的な住民が生まれてくるのか。逃げない人にも逃げない正当な理由があることを認めた上で、辛抱強く対応を続けることから住民の主体性は生まれてくると思う。

 ハード・ソフト一体で対策 

 石井啓一国交相・水循環政策担当相  昨年は7月豪雨で西日本を中心に広範囲に浸水被害や土砂災害が発生し、230人を超える尊い命が犠牲となった。国土交通省は、被災河川の早期復旧や災害防止対策を集中的に進め、「大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策のあり方」として有識者より頂いた答申を踏まえ、「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策」を策定した。離れた場所に暮らす家族に直接避難を呼び掛ける「逃げなきゃコール」や、5段階の警戒レベルに合わせた防災気象情報の伝え方の改善など、ハードとソフトが一体となった防災・減災対策を強力に進めている。また、地球温暖化で洪水の発生確率が2倍から4倍に増加すると想定される中で、事前防災対策にしっかりと取り組んでいきたい。災害に強い社会を築くためには、これまでの経験から得た教訓を社会全体で共有する取り組みを継続していくことが重要だ。高い防災意識をお持ちの皆さんに、全国をリードする議論と、全国への発信をお願いしたい。国交省はそれをしっかり受け止め、社会全体で洪水に備える水防災意識社会を再構築していきたいと考えている。  

行政と住民 関係転換を 

 元村有希子・毎日新聞論説委員  ひとごとではない。出席者共通の思いを強く感じた会合だった。15回を迎えた今回は、北海道から大分県まで42自治体の首長が参加した。過去最多だったが、規模の拡大を素直には喜べない。2018年7月の西日本豪雨では、200人を超える犠牲者が出た。気象庁は初めて、相次ぐ豪雨と地球温暖化との関連を指摘した。水害はこれからも発生するだろう。「住民の命を守る」という使命に関して、行政主導でできることには限界がある、という片田氏の講演は考えさせられた。災害のたびに課題を検証し、新たな対策を立てることはもちろんだが、それを繰り返すだけでは、本当の安心は生まれてこない。住民が地域の特徴を知り、防災知識を蓄え、事が起きれば支え合って避難などの適切な行動を取る。こうした住民主体の「自助・共助」を、自治体が財政面、インフラ面から全力で支える――。こうした関係にギアチェンジする時期が来ているように思う。過疎化・高齢化が進んで地域力が失われていく中、そんなことができるのかという声もある。ならば発想を転換してはどうだろう。「命を守る」という課題に共に向き合うことを通して住民同士に絆が生まれ、日ごろから助け合う関係をはぐくむことから地域力が高まっていくという流れを作れないだろうか。「命の対話が生きた」。自主防災組織が避難につながったという窪田氏の報告に、希望を感じる。