ソーシャルアクションラボ

2020.04.08

第15回水害サミット 命を守る、住民主体で②

  水害などに被災した全国の地方自治体のトップが一堂に会して意見交換をする「第15回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が今年6月に行われ、水害被害にあった全国各地の自治体の首長らが「過去の被災経験を復旧・復興対策に有効に生かすために」をテーマに話し合った。その模様を紹介する。(2019年7月8日付け毎日新聞より再構成)

【第1部】

過去の被災経験を復旧・復興対策に有効に生かすために

 国定・三条市長 今年の水害サミットは15回目という節目を迎えた。参加市町村長が倍になり、昨年は全国各地で多くの水害が発生したことの裏返しだ。水害を経験した身として、当該市町村が少しでも迅速な対応ができるよう情報発信に努めてきた。 まずは、福知山市長と倉敷市長に実例の発表をお願いした。また、「行政主導から住民主体の防災対策への転換に向けて」というテーマで片田敏孝・東京大大学院情報学環特任教授に講演してもらい、さらに愛媛県大洲市三善地区の自治会長から、住民主体による防災活動の実践について事例発表をしていただく。

 元村・論説委員 第1部のテーマで話を始めたい。繰り返し被災した自治体の代表として福知山市長と倉敷市長に、教訓を含めてお話をいただきたい。  

 大橋・福知山市長 2013年の台風18号から昨年7月豪雨まで5年間で4回もの災害に見舞われた。13年の台風18号災害では、約10年ぶりの災害だったため、当時、どの部署がどのような業務を行うのかというノウハウが失われた状態で、対応が困難を極めた。災害の発生時、復旧時にしっかり対応するため、毎年度、防災計画に基づく各部、各班の災害対応マニュアルを見直し、整備を行っている。災害時には、きめ細かに必要な支援を考えていくこと、迅速な復旧に向けた道筋を被災者の皆さんに示すことが重要だ。

 伊東・倉敷市長 11年9月の台風災害と昨年7月豪雨の真備の浸水被害について報告する。11年の災害では内水氾濫による1000ヘクタールを超える浸水被害があった。その後の対策により大規模な内水被害はなかったが、昨年の豪雨では、堤防の決壊による洪水被害が発生した。真備町では最大で深さ5メートルまで浸水し、約2500人が自衛隊、警察、消防等のボートで救出された。約5700世帯の家の多くが全壊し、今も仮設住宅に約7000人が住んでいる。現在、河川の合流点を下流に付け替える工事を国に進めていただいている。水害で直接亡くなった51人のうち、高齢者が80%以上、要支援、要介護の人は約3分の1を占めた。住民には自分の命は自分で守ってもらわなければならない。自分自身がいつどのように逃げるべきかの「マイ・タイムライン」を作ってもらうことが重要だ。

 元村・論説委員 福知山市長は、主に行政の初動対応。倉敷市長は、住民主体の逃げる体制作りというところを強調され、大変示唆に富んでいた。  大森・岡山市長 昨年7月の豪雨災害で内水氾濫が発生し、約7000棟を超える建物被害があった。ただ、中心市街地では、旭川の放水路である百間川の整備が進んでいて被害は少なかった。事前の出水対策は重要だ。これまで災害が少なく自主防災組織の結成率が非常に悪かった。今回の災害を契機に結成率を上げていきたい。  

防災教育など各地で  

 白岩・南陽市長 山形県で発生した1967年の「羽越水害」、13、14年に2年連続で発生した南陽市の水害について、市内の小学4年生全員に防災教育をしている。自分のこととして捉えることが、発災時に自分の市の復旧・復興にも生きてくると思う。

 枝広・福山市長 昨年7月豪雨で2000ヘクタールが浸水し、ため池も決壊した。河川の堆積(たいせき)土砂、倒木が水の流れをせき止め浸水被害が拡大した。避難情報をいかに的確に住民に伝えるかが大事だ。地域を細かく限定して避難情報を出したら避難者が増えた。避難場所の開設は、地域の自主防災組織に開設をお願いして迅速にできるようになった。

 新原・呉市長 昨年7月豪雨では渓流で出水し、そこへ土砂が流れて家がつぶされるという被害が出て、災害関連死を含めて28人が亡くなった。70年以上前の枕崎台風で1100人が亡くなっている。その後、たくさんの砂防ダムを造ってもらったが、市内全域で被害が出た。家が流された場所には、モニュメントのような物を作って防災教育を進めていきたい。次の出水期にも備えたい。

 小田川・つくばみらい市長 鬼怒川の下流域にあり、15年9月の関東・東北豪雨で被害を受けた。関東地方整備局などに指導してもらい、逃げ遅れゼロを目指す「みんなでタイムラインプロジェクト」が立ち上がり、作成講座を開いている。これを活用した情報伝達訓練を実施している。この訓練を広めていきたい。

 金子・八百津町長 10年7月の集中豪雨で土石流が発生し、3人が犠牲になった。これを機に地区ごとに住民同士の話し合いの場を設けた。いざという時に大切なのが、地域で助け合う力だと思う。防災リーダーの育成や自主防災組織の充実など、地域の防災力を高めていきたい。

 橋本・境町長 関東・東北豪雨では、三条市長から「災害時にトップがなすべきこと」という文書を送ってもらい活用した。内水氾濫の被害が大きいため、水害避難タワーを全国で初めて作った。三条市と見附市を参考にして「逃げどきマップ」も作っている。

 品川・郡山市長 天気予報はピンポイントで正確な情報が流れている。郡山市内の一部でも集中的に雨が降ったが、水の流れには地形の等高線の情報も必要だと感じた。

 亀井・名張市長 名張市は水源都市で水害が多い。64年の木材輸入の自由化で、山を手入れしなくなり、水害を大きくしている。森林環境税などによる整備が必要だ。

 鈴木・伊勢市長 伊勢神宮もあり、古くから治水は国の直轄事業として行われてきた。2年前の台風21号災害では、勢田川流域で浸水した。倉敷市長に災害発生前と発生後の予算の比較などを教えてもらいたい。

 伊東・倉敷市長 10年間の計画を5年で実施していただき、5年で当初の倍の約500億円になっている。

 福岡・三次市長 昨年の豪雨災害で、土木災害や農地災害など2100カ所の災害が発生した。72年に大きな災害が発生しており、その後、堤防の強靱(きょうじん)化工事が進み、昨年の豪雨災害では堤防の決壊などがなく、被害を抑制できた。自分たちの命は自分たちで守るということを、市民と行政が共有しなければいけない。

 山崎・綾部市長 13年から5年間で4回の水害に遭った。その前は20年前だった。気象状況が変わったということを改めて認識した。昨年7月豪雨災害では3人が亡くなった。避難指示でどう逃げてもらうか、タイムラインを徹底していくことが今後の課題だ。

 近藤・高梁市長 昨年7月の豪雨災害は46年ぶりの災害だったが、前もって避難してもらったため犠牲者はなかった。住民に命だけは絶対守ってほしいと呼び掛けていくことが大事だ。  

 国定・三条市長 高梁市でなぜ逃げる習慣が定着しているのか。  

 近藤・高梁市長 中国電力の利水ダムがあり、ダムの放流で浸水の危険がある地域だったことから、事前に市から住民に知らせる仕組みを作っていた。地域でも高齢の人、子どもを優先して先に避難させるルールができていた。  

 国定・三条市長 避難準備情報を発令するときに、それが発令のきっかけになるということか。  

 近藤・高梁市長 河川の氾濫水位を定めてあり、雨の状況など、中国電力からダムの放流情報が市の方に入ってくるので、逃げてくださいと早く出している。  

 奥塚・中津市長 昨年4月に耶馬渓で起きた山地の崩壊、土砂災害で6人が亡くなった。地下水が断層などの割れ目にたまって崩壊したもので、国交省が無降雨時の崩壊研究を進めている。6人の捜索に12日もかかった。捜索体制のリーダーシップを取る首長の責任は重い。 

 都竹・飛驒市長 昨年の7月豪雨では、発電ダムの放流で緊張した。電力会社と連携ができていて早くから情報が入っていたので、早く避難指示、避難勧告が出せた。  

 玉井・西条市長 04年の台風で5人が亡くなった。それ以降、小学6年生を対象に、夏休みに防災キャンプを開いている。わが町の弱点などを子どもたちが学ぶ活動だ。高校生の防災士資格取得も促進している。  

 福元・宍粟市長 市の9割が山林で、20を超える1000メートル級の山々があり、昨年7月豪雨で非常に甚大な災害が出た。復旧では山林などの地籍調査が重要なポイントになると思う。  

 渡部・戸沢村長 昨年8月、2回洪水に遭い、家屋には土砂が流れ込んだ。内水対策をしっかり進めていきたい。  

 元村・論説委員 北海道の方に発言をお願いしたい。  

 池部・南富良野町長 16年の災害は515ミリの累計雨量があり、人造湖の金山ダムの上流域の堤防が決壊した。北海道にも台風が来るようになった。1級河川も多く、今後はその整備などが北海道の課題だと思う。  

 手島・芽室町長 16年水害では、農地400ヘクタールが水につかって災害復旧の対象が108ヘクタールにもなった。削られた農地を河川の掘削土で補った。復旧には国と道、町の連携が必要だ。  

 大鷹・日高町長 北海道は台風の水害には慣れていない。集会所などに使っている生活館という施設が27館ある。自主防災組織を中心に避難所の開設などをしてもらうことを考えている。  

 横山・安芸市長 昨年の7月豪雨では、2級河川の安芸川や伊尾木川で想定外の雨が降った。集落や農地が浸水し、堤防の決壊もあった。市街地まで氾濫する恐れがあり避難指示を出したが避難者が少なく、今後の課題だ。  

 佐藤・魚沼市長 倉敷市真備町水害、北海道胆振東部地震の時には、家屋の被害調査に「チームにいがた」の一員として職員を派遣した。職員の研修も兼ねている。市民をどう安全に避難させるかは大きな課題だ。

<③につづく>

【水害サミット出席者】北海道=池部彰・南富良野町長(初)、大鷹千秋・日高町長、手島旭・芽室町長▽山形県=白岩孝夫・南陽市長、渡部秀勝・戸沢村長(初)▽福島県=品川万里・郡山市長▽茨城県=小田川浩・つくばみらい市長(初)、橋本正裕・境町長▽新潟県=国定勇人・三条市長、藤田明美・加茂市長(初)、久住時男・見附市長、佐藤雅一・魚沼市長▽福井県=牧野百男・鯖江市長▽岐阜県=尾関健治・関市長(初)、都竹淳也・飛驒市長、金子政則・八百津町長(初)▽静岡県=小野登志子・伊豆の国市長▽三重県=鈴木健一・伊勢市長、亀井利克・名張市長(初)▽京都府=大橋一夫・福知山市長、山崎善也・綾部市長(初)、山本正・宇治市長▽兵庫県=中貝宗治・豊岡市長、福元晶三・宍粟市長(初)、安田正義・加東市長(初)▽岡山県=大森雅夫・岡山市長(初)、伊東香織・倉敷市長(初)、近藤隆則・高梁市長(初)、友実武則・赤磐市長(初)▽広島県=新原芳明・呉市長(初)、平谷祐宏・尾道市長(初)、枝広直幹・福山市長(初)、福岡誠志・三次市長(初)▽徳島県=坂口博文・那賀町長(初)▽愛媛県=玉井敏久・西条市長、二宮隆久・大洲市長、管家一夫・西予市長(初)▽高知県=横山幾夫・安芸市長(初)、泥谷光信・土佐清水市長(初)▽福岡県=片峯誠・飯塚市長▽大分県=奥塚正典・中津市長(初)、原田啓介・日田市長【オブザーバー】松田喬和・毎日新聞客員編集委員