ソーシャルアクションラボ

2020.04.08

第15回水害サミット 命を守る、住民主体で 教訓共有、行政の責務①

※この記事は2019年7月8日毎日新聞朝刊に掲載されたものです。

 水害などに被災した全国の地方自治体のトップが一堂に会して意見交換をする「第15回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が2019年6月11日、東京都千代田区の毎日ホールで開かれた。今年は災害の激甚化と広域化を反映して、参加自治体トップは昨年の17人から18道府県42人に倍増し、初参加も23人いた。今年は「過去の被災経験を復旧・復興対策に有効に生かすために」と、「行政主導から住民主体の防災対策への転換に向けて」をテーマにした。東京大大学院情報学環・片田敏孝特任教授の基調講演、愛媛県大洲市三善地区自治会長・窪田亀一さんの事例発表も行われ、活発な論議が展開された。最後に国に提出する「水害から命を守る緊急提言」を全会一致で採択した。冒頭、石井啓一・国土交通相・水循環政策担当相があいさつした。【コーディネーターは元村有希子・毎日新聞論説委員】

基調講演

大事な人を思う視点を 片田敏孝 東京大大学院特任教授

 これからは広域に降る雨が多くなると思う。倉敷市の真備地区には、5メートルぐらい浸水するというハザードマップが配ってあった。真備地区は1976年に50センチの内水被害に遭っていた。40年間も水害がない中で、市民に現実感を持って見ろというのは無理がある。昨年は、ハザードマップに示されたような状況になって51人が亡くなり、うち42人が1階で亡くなった。

 内閣府中央防災会議で、この7月豪雨を検証する検討会が開かれ参加した。3回の検討会を経て12月に報告書をまとめた。2回目の会議で案が出てきたが、「国民の皆さんにご理解をいただく」「防災意識が上がるように行政として自覚を促す」などと書かれており、主体が行政で、客体が住民になっていて強烈な違和感を覚えた。温暖化に伴う気象状況の激化や、行政職員数が限られていることなど、突発的に発生する激甚災害への行政主導のハード、ソフトの対策には限界がある。最終的な報告書は、住民が自らの命は自らが守るという意識を持って、自らの判断で行動し、行政はそれを全力で支援するとなっていた。防災という行政サービスが、行政によるサポートに転換していた。最後の行動を決めるのはあなたです、ということを明確に述べている点で大きな変化だった。

 九州北部豪雨の被災地を政府調査団として視察した。当時、町で働いていた若者から話を聞いて感動した。ものすごい雨に異常を感じ、「昔かわいがってもらったじいちゃん、ばあちゃんを助ける」と言って車で戻り、避難所に連れて行ったという。家庭の中での親子の思いや地域の中での弱き者に対する思い、大事な人のことを考える防災が、本当に実効性を持つと痛感した。地域みんなで守るという社会を作る方向に、防災は転換していかなければならない。国民がその日、その時に行動を取れる国に変えていかなければならないと思う。

片田敏孝東京大大学院特任教授