ソーシャルアクションラボ

2020.04.08

救助に懸けた人々/上 ただならぬ危機感 止まらぬ110番「徒歩では無理」

※この記事は2019年12月12日付毎日新聞朝刊宮城県版に掲載されたものです。

ただならぬ危機感

 宮城県内外で甚大な被害を出した台風19号で、経験したことのない水害や土砂災害を前に、現場で人命救助を行った人々はどう立ち向かったのか。まずは台風襲来時に救助にあたった消防や県警の職員の体験を紹介する。【滝沢一誠】

 「あまりにも水量が多い。これはやばい」

 2019年10月12日午後8時ごろ、丸森町中心部の角田消防署丸森出張所から外を見た菅野武史消防第2係長(51)はただならぬ危機感を抱いた。雨は激しくなる一方で、周囲は冠水。出張所庁舎の玄関まで浸水した。止水板を設置したが、まもなくあふれ出した。「この勢いだともっと(水量が)増える」

 そのころから、浸水で孤立した世帯からの救助要請が相次いだ。同時に「(阿武隈川支流の)内川の堤防から水があふれ出している」という情報も入ってきた。車で移動できないため、菅野係長は高橋佑輔消防士(25)らとともに徒歩で救助に向かった。

浸水で近づくことができない丸森町役場(左)の周辺=丸森町で2019年10月13日、藤田花撮影

止まらぬ110番 徒歩では無理

 要請のあった出張所から東に600㍍ほど離れた住宅に向かう途中、膝下ほどだった水かさは、歩き始めてから10分ほどで腰のあたりまで増水した。菅野係長は「徒歩では無理だ。ボートで向かわないと行けない」と、一旦出張所に戻ってボートを用意した。

 一方、そのころ、仙台市青葉区の県警機動隊庁舎では、県警の災害救助部隊、広域緊急援助隊特別救助班が丸森方面に向けて出発した。2008年の岩手・宮城内陸地震でも救助活動を行った経験を持つ鈴木重慶(しげのぶ)班長(37)が先行部隊として、同9時ごろに丸森町を管轄する角田署に到着。署の立地する角田市街も「入った時には既にところどころ冠水していた」という。

 「身動きがとれない」「車ごと流された」――。署では110番が鳴り続けた。鈴木班長は司令塔役として、救助要請を隊員に振り分けた。だが、外は暗く、風雨も次第に強くなる。2次災害の危険があるため、救助を求める声の全てに応えることはできなかった。さらに、丸森町役場とも連絡が取れず、情報が交錯した。

 夜が明け、町役場の隣の避難所に移っていた菅野係長は驚いた。「周りが湖になっている」。町役場と避難所が孤立状態になっていた――。