ソーシャルアクションラボ

2020.07.29

複合災害に備えを 防災専門家がメッセージ 避難所 悩ましい「3密」

昨年10月の台風19号で、風雨が強まる中、避難所に集まり不安そうな表情で過ごす住民ら。今後の災害対応では、感染症対策のため、「三密」状態を避ける工夫が求められる=千葉県館山市で

 土木学会や日本建築学会など防災に関わる58学会でつくる「防災学術連携体」はこのほど、新型コロナウイルスの感染が全国に拡大する中で、地震・火山災害や気象災害が発生すれば感染爆発が起きる可能性が高くなるとして、感染症と自然災害の複合災害に備えることを求める緊急メッセージを発表した。

 2018年の西日本豪雨や昨年の台風19号など、近年は夏から秋にかけ水害や土砂災害に相次いで見舞われていることを踏まえ、「現実に複合災害発生の危機が差し迫っている。被害軽減のため、できることから備えを始めてください」と呼びかけた。複合災害の危険性を軽減するために、地震・火山災害、河川の氾濫や土砂災害などの危険性と避難の必要性について、今のうちに確認するよう求めている。

 避難については、感染リスクを考慮した対応が必要だとして、避難所の数を増やす▽消毒液などの備品整備▽感染の疑いがある人がいる場合は隔離――など公的避難所のウイルス対策を自治体関係者に求めた。市民には、多くの人が集まる公的避難所では感染リスクがあるとして、より安全な知人宅への避難や自宅にとどまることなどを検討するよう促した。

 梅雨明け後には、熱中症で基礎体力が衰えるとウイルス感染の重症化リスクも高まるとして、扇風機や空調機器を早い時期から準備しておくことなどを提唱している。

コロナ拡大時、車中泊に利点も

 新型コロナ流行の下での災害避難対策に、専門家や国も動き出した。避難所では、これまでもインフルエンザやノロウイルスといった感染症が問題だった。「大切なことは、手洗いなどの一般的な予防策と積極的な隔離だ」。2011年の東日本大震災や16年の熊本地震で、避難所の感染症対応にあたった神戸赤十字病院の白坂大輔医師(消化器内科)は指摘する。白坂医師によると、東日本大震災の1カ月後に岩手県内の高校の体育館に設置された避難所でインフルエンザが集団発生したが、患者を空き教室などに移動させ、近くにいた人には治療薬を予防投与するなどして、拡大を防いだという。

 しかし新型コロナウイルス感染症にはワクチンや有効薬がなく、「一度陰性になっても再び陽性になる患者がいて、いつまで隔離していいか分からない」のが悩ましい点でもある。このため、健康状態把握の難しさやエコノミークラス症候群が懸念される車中泊も、新型コロナ対策としては、集団感染の拡大を抑えられる可能性があるという。白坂医師は「災害の規模や種類、季節によっても柔軟に対策を検討する必要がある」と話す。

 国は4月、自治体に避難所対策の通知を出し、過密状態を防ぐためできるだけ多くの避難所を開設し、民間のホテルや旅館の活用、知人宅への避難も検討するよう呼び掛けた。また避難者の健康チェックや換気などの基本的な対策とともに、発熱などの症状が出た人に専用スペースを確保することも求め、軽症者への対応も事前に検討するよう要請した。

 避難所運営マニュアルに感染症対策を盛り込もうとしている自治体もある。千葉市は「3密」(密閉、密集、密接)を避ける方法を中心に、マニュアルへの追加を検討中だ。学校を利用した避難所では、体育館だけでなく教室なども活用する。すべての避難所に非接触型の体温計を設置するのは難しいため、あらかじめ避難グッズに体温計を備えるよう市民に呼び掛ける。風水害による避難情報が出る前は、市民にはできるだけ自宅に待機するか、安全な友人・親族宅への避難を要請。浸水に備えて上の階などに移動する「垂直避難」も改めて周知するとしている。

 小山真紀・岐阜大准教授(地域防災学)は、災害現場での看護や防災の専門家の有志と共に、新型コロナ感染拡大の中での防災・災害対策について基本的な考え方をまとめ中だ。小山准教授は「単純に避難所の過密状態を避けるだけでは不十分だ。健康状態によって階段や廊下をゾーン(区分)管理したり、関わるスタッフを限定したりするなど、具体的な行動につながる考え方を示したい」と話した。

*2020年6月4日付け点字毎日活字版より転載