ソーシャルアクションラボ

2020.10.21

コロナ禍での災害対策、NGO「スフィア」の基準活用を 手洗い設備の充実  在宅避難者の支援強化も

 国際赤十字や人道支援団体でつくるNGO「スフィア」(事務局=スイス・ジュネーブ)が、新型コロナウイルス感染拡大に対応する際の指針として、紛争や災害時の人道支援のために策定した「スフィア基準」の活用を呼びかける文書を公表した。新型コロナが流行する中、災害シーズンを迎えることから、基準を日本語訳した原田奈穂子・宮崎大教授(精神看護学)=写真=は指定避難所の3密回避とともにトイレの手洗い設備の充実を提案し、在宅避難者の支援強化も訴える。【井上元宏】

 スフィア基準は1990年代のルワンダ内戦の際にコレラが流行したことなどを機に策定され、2018年の改訂作業の際には世界190団体が経験を持ち寄った。

 「避難所や避難先居住地」「保健医療」など5分野で、尊厳ある生活を営むための最低限となる54の基準とその達成度を測る指標も記載。内閣府の避難所運営ガイドラインでも紹介されている。たとえば避難所の1人当たりの面積指標は3.5平方㍍。一方、3密回避が課題の日本では、東京23区や政令市の多くで避難所の収容可能人数を算定する目安を、1人当たり2平方㍍以下に設定している。

2018年7月の西日本豪雨から1カ月後の広島県坂町の避難所仮設トイレ。10基のトイレに手洗い場(中央)は一つだった=被災地NGO恊働センター提供

 原田さんが新型コロナ対策として、基準の中でも重要だと強調するのは、手洗い設備の充実だ。日本では近年、仮設トイレは国の被災地向け支援物資リストに入っている。だが、熊本地震(16年)では断水の影響で、仮設トイレの数に比べ、手洗い設備が足りない避難所が一部あったことが報告された。原田さんは「他の被災地でも似たケースがある。トイレと手洗いは一連の行為で、公衆衛生の観点からも同時設置を目指してほしい」と指摘する。

 また、災害時の3密対策として、在宅避難を呼びかける自治体が増えている。だが、食事や救援物資は指定避難所で配布されるのが一般的だ。原田さんは「どこにいても困っている人は公的にサポートするというのがスフィアの考え方。在宅で過ごせる人が物資や食料が必要なため、避難所に避難をしなくてはいけない現状を変える必要があるのではないか」と話す。

 今後の災害では、感染防止のため、避難所ではこれまで以上にマスクの着用の徹底や、せきエチケットの順守が求められる。原田さんは「保健医療関係者や行政だけでなく、コミュニティーを巻き込むことが感染防止には大切だ。スフィア基準は目指すべき目標で、重要なのは達成に向けて少しでも前進することだ」と強調した。

スフィアハンドブック

◆ことば スフィア基準

 1990年代のルワンダ内戦で大勢の難民がコレラなどで死んだことなどへの反省から98年に試版が作成され、西アフリカでのエボラ出血熱流行(2014年)などの検証を踏まえて、18年に4回目の改訂が行われた。スフィア基準の新型コロナ対策への活用は原田さんが代表の「こころのかまえ研究会」のホームページ(http://kokoronokamae.umin.jp/)に掲載している。

*2020年5月21日付け毎日新聞兵庫県版より転載