ソーシャルアクションラボ

2022.12.20

第17回水害サミット 官民一体で防災力向上 災害への備え意識共有

防災・減災について意見を交わす参加者ら
防災・減災について意見を交わす参加者ら

 水害を経験した全国の地方自治体のトップが対策などについて意見交換する「第17回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が5月31日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。新型コロナウイルス感染症拡大を受けて中止やオンライン会議が続き、一堂に会しての開催は3年ぶり。第1部は「内水氾濫対策について」、第2部は「被災者支援の事務手続きの簡素化・迅速化について」をテーマに、20道府県の28自治体(うち初参加9自治体)の首長による事例発表や熱心な質疑が交わされた。斉藤鉄夫国土交通相・水循環政策担当相がビデオメッセージであいさつした。【コーディネーターは元村有希子・毎日新聞論説副委員長=肩書はすべて当時】

◇開会のあいさつ

 原田・日田市長 今年のサミットは3年ぶりに皆さん集まっての開催となった。リアルな形で意見交換できるのであれば、大きな課題をテーマに話してはどうかと、第1部では「内水氾濫対策」について6自治体に事例報告をお願いした。第2部は罹災(りさい)証明のデジタル化だ。災害発生後、被災された住民に対して速やかに罹災証明を発行し、次のスタートを切ってもらう手続きも大きな課題を抱えている。災害に備えたDX(デジタル化による変革)の研究を取り上げた。活発な意見を交わし、実のあるサミットにしたい。

 元村・論説副委員長

 災害による被害を最小限にとどめるための問題意識を共有する場として、水害サミットの重要性は増している。まずは「内水氾濫対策」の取り組み事例を各自治体からお話しいただき、意見交換をしたい。

◆第1部・内水氾濫対策について

<事例1・北海道恵庭市>

 原田市長  千歳川流域は度重なる水害を受けてきた。そこで恵庭市が事務局を担い、国と道、流域4市2町で千歳川流域治水対策協議会を設置し、会で策定した整備計画に基づいた総合的な治水対策に取り組んでいる。

 内水対策としては、総排水量が毎秒約400立方㍍に及ぶ約50カ所の排水機場の設置、100以上の幹線排水路や周水路を網の目状に整備し、機動性のある排水ポンプ車を利用した迅速な内水排除に努めている。また、千歳川が1981年8月水害時に記録した戦後最大水位が再び来ても安全に流下できるよう、4市2町に6カ所の遊水地も整備した。市内には北島遊水地があるが、工事期間中の2018年の豪雨では周囲堤の樋門(ひもん)から遊水地に水を流し、約23万㌧を一時的に貯留して内水被害を軽減できた。

 20年度には市中央を流れる漁川沿いに「はなふる」という花の公園をつくった。その駐車場には雨水貯留機能を持たせて内水対策を施し、川と一体となった魅力的な街づくりを進めている。

<事例2・秋田県大仙市>

 ◇ポンプ車導入、排水能力確保

 老松市長 2017年7月から翌年5月までに大雨による3回の水害を経験し市街地で内水氾濫が起きたが、人的被害はなかった。その要因の一つに、高齢者施設などでの避難確保計画の作成と避難訓練がある。浸水想定区域内にある特別養護老人ホームでは、16年に計画をつくり、災害時に避難所となる市立中学校と合同で避難訓練を行っていた結果、全員無事に避難できた。

 これらの水害を受けてハード面では、内水氾濫用の常設排水ポンプを大曲・仙北地域12カ所に計22台、可搬式ポンプを62台整備した。その総排水量は毎分555㌧に及ぶ。21年には市で毎分60㌧の排水能力がある大型排水ポンプ車を導入、これにより国で3台、県で1台、市で1台の計5台の排水ポンプ車で、毎分240㌧の排水能力が確保できた。

 国交省が取り組むマスプロダクツ型排水ポンプの現場実証も行っている。量産品の車両用エンジンと減速機などを活用したポンプで、経済性や操作性に優れているとされ、被害軽減に期待しているところだ。

<事例3・水戸市>

 ◇被害状況に応じて地区分け

 高橋市長 水戸市はすり鉢状の地形や急激な宅地化で陸田が消えたことなどで、集中豪雨による浸水被害が多発している。2015年には水戸市雨水排水施設整備プログラムを策定し、下水道や道路側溝整備に加えて、民間開発業者に宅内浸透施設の設置を促す雨水流出抑制対策を指導している。

 選択と集中の観点から、過去の浸水被害状況や頻度、幹線道路や防災拠点といった地域特性など、雨水対策の「重点地区」とその他の「一般地区」に分けて効果的な対策を講じている。加えて、家庭用の雨水貯留施設設置への助成、市内9カ所に土のうステーションを設けるなど、市民協働による浸水対策を推進しているところだ。

 市のホームページでは、05年度以降の浸水箇所の地図情報を公開、台風や豪雨時には冠水予想と通行止め箇所の情報を発信している。また、公園の外周に人工的な起伏をつくり、公園内に降った雨を一時的に貯留する試みも始め、「流す」と「ためる」のハイブリッドで対策を進めている。

<事例4・三重県伊勢市>

 ◇川や周辺状況、SNSで確認

 鈴木市長 2017年10月の台風21号では48時間に539㍉という過去最大雨量に見舞われ、市街地の大半が内水氾濫で浸水した。これを受け国、県、市が一体となり、勢田川流域等浸水対策協議会を設立、浸水被害の軽減に向けた実行計画を策定。その計画で市が行うハード対策は、雨水幹線の排水整備と勢田川流域内にある黒瀬ポンプ場の増強だ。排水整備では国交省が桧尻川排水機場のポンプ増強、三重県が河川の護岸整備にそれぞれ着手している。

 ソフト対策では、勢田川浸水状況共有システムの構築がある。浸水実績の多い市内33カ所に浸水センサーを設置し、検知した情報は国、県、市の防災関係者と共有している。また、市内46カ所に設置した危機管理型水位計の活用方法を市民と検討している。川の水位情報はスマホで検索でき、市民が地域の実情を踏まえた避難のタイミングを考え防災訓練を実施、検証して改善につなげている。LINEのオープンチャットを利用し、川の水位や周辺状況を匿名でも投稿できるSNS活用も進めている。

<事例5・奈良県川西町>

 ◇ため池管理者と水位を調整

 小沢町長 2017年の台風21号による大規模な田畑の浸水を経験し、内水施設の整備を強化している。町内4カ所のため池管理者と協定を結び、大雨の前に水位を下げてもらい、雨水の一時的な貯留地にしている。また、農業用に取水するための井堰(いせき)は事前に下げて水を流しておき、樋門は閉じて水が入ってこないように管理者と協定を結んでいる。ただし、急なゲリラ豪雨には対応できず、人の力に頼るには限界がある。こうしたところにデジタル技術などが導入できないかと思う。

 21年に特定都市河川浸水被害対策法が改正され、本町を含む大和川流域が改正第1号の特定都市河川に指定された。氾濫を防ぐ遊水地の整備を進める一方で、田畑の貯留機能の保全や浸水被害防止を目的に、市街化を抑制する区域指定の検討も進めている。土地を活用しづらくすることに懸念もあるが、地元の安心安全を守るため、町民との対話を進めていく。

<事例6・広島県三次市>

 ◇雨水流出抑制施設を設置

 福岡市長 2018年7月の豪雨で三つの川が合流する畠敷・願万地地区で内水被害が起きた。これを踏まえて国、県、市と学識経験者で内水対策検討会を設置し、浸水要因を検証して整備目標と対策内容を決定した。国は馬洗川の河道掘削や樹木の伐採、排水ポンプの増強などを、広島県は支川の改良整備を、市は同地区に2カ所、合計3万立方㍍規模の雨水貯留施設を整備することにした。市民ホール「きりり」の近くに現在工事中であり、もう1カ所は設計段階にある。この貯留施設は、取水中はプールのように水をためるが、普段は市民ホールの臨時駐車場や、人気の3×3(スリー・バイ・スリー)のバスケットゴールを設置し、地元プロバスケットチームとも連携した利用を予定している。

 一方、ソフト対策として土地利用規制の条例を21年10月に施行した。対象区域内の建築行為に対して居室の床面の高さを一定以上とすること、1000平方㍍以上の開発行為については雨水流出抑制施設の設置を義務化した。

◇第1部・意見交換

 佐藤・中山町長 最上川に隣接した米どころだが、一昨年/の豪雨で内水氾濫した。農地を遊水地に活用する際の農家への補償について教えていただきたい。

 井上・国交省水管理・国土保全局長 農地を遊水地に整備する場合、二つの方法がある。河川管理者が土地を最大限利用するために用地買収するケースと、災害時に遊水地として利用する地役権を補償するケース。後者は営農が可能で、地役権の補償費は土地価格の3割くらいだ。

 元村・論説副委員長 遊水地などの貯留対策で工夫している自治体はあるか。

 伊東・倉敷市長 市内平地部には延長1500㌔㍍に及ぶ農業用水路があり、高梁川から水を取り入れている。その樋門(ひもん)は倉敷市長が管理している。大雨が予想されるたびに農業者の委員に相談し、2、3日前から取水口を閉じて水路内の水を流し切るようにお願いしている。用水路全体で約300万㌧の水がためられるので、街中の浸水をかなり抑えることができている。

 小松・武雄市長 川西町長に伺いたい。特定都市河川の指定を受けたことで土地開発への影響はないか。

 小沢・川西町長 指定されて数カ月なので具体的な影響は出ていない。土地の開発がしづらくならないか懸念は持っており、国や県とコミュニケーションを取りながら、町民との対話を通じて具体的な区域の検討を進めたい。

 穂積・秋田市長 4年前、当時の菅義偉内閣官房長官に、国の出先機関の職員数が削られている問題を訴えた。災害が起きた時、臨機応変に対応してもらえないので増員してほしいと。この水害サミットでも増員要望ができればと思う。

 白鳥・伊那市長 秋田市長に同感だ。2020年の豪雨で天竜川支流の三峰川が破堤寸前までいった。その時、国交省の出先機関の河川事務所やダム管理事務所が連携してダムの水を止め、川の水位を下げて、地元建設業者が重機を出して災害を食い止めた。地方の最前線に国の出先があることがいかに心強いか。人も予算も増やしてもらいたい。

 元村・論説副委員長 ほかの自治体の内水氾濫対策も聞きたい。

 稲田・見附市長 田んぼダムに力を入れている。新潟大学によるシミュレーションでも内水対策に効果があると確認された。今後も進めていく考えだ。

 河井・木津川市長 想定される最大の浸水位置と過去の内水浸水位置を示すブルーのシールを電柱に貼り、生活空間の中で、浸水想定深の見える化を図っている。ハザードマップ上で4㍍と書かれていても実感できないが、電柱の横を歩いてはるかに上であるのがわかると、逃げないと危ないと気付く。災害時はとにかく逃げることが第一だと思っている。

 野坂・川本町長 直近4年間で3度の水害に見舞われた。川の流域全体での取り組みの必要性を各地の事例を聞きながら感じた。

 石飛・雲南市長 昨年度水害を経験し、被害状況の把握などで非常に手間取る中、国交省からTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)を動員いただいて、現地調査などで大変助けられた。有事の際に職員を派遣してもらえる体制の維持・強化をぜひお願いしたい。

 上野・さつま町長 樋門の管理についてだが、大雨で川が増水する危険な状況の中、現場に行って樋門を閉じる操作を管理者にお願いしている。デジタル化や遠隔操作ができる体制を国の河川では進めていただきたい。

 元村・論説副委員長 人力頼みには限界があるという話だが、井上局長からコメントがあれば。

 井上・国交省水管理・国土保全局長 これは本当に大きな問題だ。操作員は市町村から委託を受けた地域の人が主にやっている。危険なうえ、操作も夜間や数日に及ぶことがあるハードワークで、若い担い手が見つからず高齢化している。言われる通り、遠隔操作できる仕組みに変えていかなければいけないと思う。

 松谷・球磨村長 ハード面は国と協力しながら整備していきたいと思うが、私が一番大切に思うのは発災前に逃げることだ。高齢者施設では避難計画や避難訓練もしているが、在宅の高齢者の避難支援の取り組みがあれば伺いたい。

 高橋・水戸市長 在宅の要支援者に名簿の登録をお願いしている。自治会や民生委員などを通じ現在約4000人が登録している。その登録者を、障害者、独居高齢者、住まいが河川地域か土砂災害危険地域かなどに振り分け管理している。19年の水害時は、河川地域に住む要支援者約600人に対し、約100人の対策チームで朝から電話をかけた。1人暮らしなどの約180人が支援を求め、市及び災害協定先との協力により、車で送迎し、夕方までに全員避難所へ誘導できた。課題は名簿への登録だ。要支援者は市内に数多くいると思うが、個人情報を知られたくないと申請をちゅうちょすることがある。理解を促すことで災害死ゼロを今後も目指したい。

球磨川の氾濫で甚大な被害を受けた集落=熊本県球磨村で2020年7月7日、幾島健太郎撮影
球磨川の氾濫で甚大な被害を受けた集落=熊本県球磨村で2020年7月7日、幾島健太郎撮影

◆第2部・被災者支援の事務手続きの簡素化・迅速化について

◇業務管理をデジタル化 大分県日田市

 原田市長 

 罹災(りさい)証明書の必要性は大きく三つある。生活再建支援金や各種税・使用料の減免などの「経済的支援」、住宅の修理補助や仮設住宅入居など「生活基盤支援」、金融機関対応や見舞金など「民間支援」。この三つを受ける根拠となるため、交付の迅速化は生活再建において重要だ。

 日田市では豪雨災害が12年(住家被害711棟)、17年(同1298棟)、20年(同462棟)と続いた。12年は発災から罹災証明の交付開始まで22日間かかった。数十年ぶりの大災害で調査マニュアルは未整備で経験者も不在、すべての情報を手入力して時間を要した。17年は16日間で交付できたが、職員の長時間労働という課題が出た。限られた職員への負担が大きかった。20年は調査のマニュアル化が進み、14日間で発行できたが、コロナ禍の対応に手間取った。

 現在、迅速な交付に向け取り組んでいるのは、梅雨入り前までに調査マニュアルの点検作業を行うことと、罹災証明交付業務に関する職員間の自主的な学習会だ。さらに、独自にエクセルで業務管理システムを構築し、受け付け、進捗(しんちょく)管理、証明書作成作業を連携。固定資産課税台帳のデータベースを活用して入力作業も自動化。この取り組みで12年の災害では1棟あたりの整理に1・85時間の時間外労働をしていたのが、20年は0・75時間に短縮できた。準備・経験不足解消と、システム化、自動入力による効率化で、職員の負担軽減を図りながら災害に備えている。

 この後、日田市も共同研究事業として参加している、富士フイルムシステムサービスの取り組みを発表してもらいます。

◇レジリエンス向上の一助に 富士フイルムシステムサービス

 長谷川道裕・富士フイルムシステムサービスデジタル戦略推進部統括マネージャー

 災害レジリエンス(回復力)は予測力、予防力、対応力の三つがそろって向上すると言われる。対応力の中には生活再建の支援策があり、その中で最も基本的な業務が罹災証明の発行だ。この迅速化が図れない要因に、住家被害認定調査の複雑さがある。その解決には、人や時間を投入してのアナログ対応を見直し、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を活用して業務プロセスを再構築する必要がある。

 具体的には、情報収集ではドローンや衛星を使い、撮影した画像をスクリーニングシステムにかけ、AIで家屋の被害状況を推定。調査にかかる必要人数や期間をシステムが自動計算し、進捗管理をする。調査員は必要な情報が入ったタブレットを手に現地入りし、何をすべきか指示を得ながら、被害家屋の写真や調査報告を本部にデータ送信する。これで経験のない職員も戦力化できる。

 こうして得た住家被害認定調査結果を既存の罹災証明の仕組みとデータ連携し、いち早く罹災証明が交付できるようになる。システム化で迅速化、効率化だけでなく、業務の平準化も図れる。6月から当社システムを日田市、武雄市、(熊本県)八代市にモニターとして運用していただく。災害レジリエンスの向上に役立てればと思う。

◇第2部・意見交換

 前田・滝川市長 損保会社が調べた被災家屋データを自治体が罹災証明に活用する動きがあり、内閣府も連携を進めている。富士フイルムはこの動きをどう考えるか。

 富士フイルム担当者 損保会社の被害判定基準と内閣府が示す判定基準にはかなりの差がある。判定結果をそのまま交換するまでには至らないと考えている。ただし、有効な手段ではあるので、内閣府、損保会社ともコミュニケーションを取ってきたい。

 大鷹・日高町長 18年の北海道胆振東部地震で自分の家も被災した。損保の社員がタブレットで何枚か写真を撮り、その場で保険金額を査定するシステムに驚き、罹災証明に使えないかと思った。富士フイルムのシステムも共通する点はあるのか。

 富士フイルム担当者 損保会社と同様に、誰が使っても迅速に判定できるものを開発中だ。課題は被害の判定基準が、内閣府のガイダンスをもとに被災経験によって自治体に違いがみられる。3市のモニタリング事業を通じてどこを工夫すれば、より使い勝手が良くなるのか情報を集めて完成度を上げたい。

 滝沢・三条市長 ドローンによる被害家屋の撮影は天候に左右される面がないか。

 富士フイルム担当者 水害時に雨が降っている時の撮影は難しい。また、人家の密集地域や人の頭上を飛ばしづらいといった法規制にからむ課題もある。国とも協議し、有効なデータ入手に努めたい。

 原井・吉野川市長 やはり気になるのは罹災証明システムの費用面だ。この場では答えづらいと思うので個別に聞いていきたい。

 元村・論説副委員長 会議全体を通しての質疑や、情報共有したい内容など自由に発言してほしい。

 戸梶・日高村長 水害に長年悩まされ、再度の災害を防ぐ目的で「水害に強いまちづくり条例」を制定した。浸水予想区域などを設け、土地の開発規制もあり、今後の住民説明会では厳しい意見も出るだろう。水と共生する町づくりに悩みは尽きない。

 小松・武雄市長 日田市、八代市とともに、富士フイルムの実証実験に参加する。昨年8月に約1700棟が浸水した水害では、罹災証明の発行まで2週間半かかった。国は1カ月以内に全て発行しろと言うが、皆さんおわかりのように明らかに無理だ。それをなんとか達成するためにDXで省力化する試みに加わった。ただし、別の課題もある。内水氾濫の被害調査が非常に複雑だということ。家の中に入って細かく調査しなければならず、職員は1日8棟ほどしかできないという。制度を少し簡略化しないと迅速化にはつながらない。

 中川・上越市長 内水被害もそうだが、地震による津波や隣の柏崎市に柏崎刈羽原発もある。複合災害を想定した準備を考えると、DX化を前提に考えなければいけないと感じた。

 稲田・見附市長 日田市長から災害への備えで、調査マニュアルの点検や職員間の自発的な学習会の話があった。そのほかの災害準備や、こういうことを住民に伝えているという話があれば知りたい。

 白岩・南陽市長 住民の皆さんに「自分の命は自分で守らなければいけない」と伝えている。この水害サミットで、言いづらくても伝え続けているという首長の話を聞いて学んだことだ。言わないことで災害への危機意識が薄れてしまえば、結果的に住民を不幸にしてしまうことになる。

 関貫・豊岡市長 内水を外に出す立派な排水機を国に設置いただいたが、排水機までの用水路が整備できず、うまく内水処理ができない状態にある。財政的に厳しいので国に相談すると、そこは県と市が対応する内容と言われた。内水処理が国と県と市一体の取り組みであるならば支援を検討してほしい。

 石飛・雲南市長 自分の身は自分で守る自助とともに、身近なところでの助け合いの共助を進めている。自治会単位で要支援者の名簿を作成し、災害時に避難所を開設して隣近所の誰が避難所まで誘導するかといった計画作りまでしている。先日の災害ではこの共助が機能した。身近な助け合いの視点も大切だと思う。

 井上・国交省水管理・国土保全局長 第1部の内水氾濫対策は生活に密着した問題であり、ポンプ場や遊水地の整備、土地利用など、それぞれの事情の違いと複雑さを実感した。多様な条件に合わせて多様な方法をうまくマッチングさせること、そのノウハウが大事だと思った。私たちも良い組み合わせや考え方を示せるようにしたい。

 第2部の罹災証明では、防災とDXには親和性があり、防災行政に関わる人も住民にとっても助かる側面が多いと感じた。一方で、市町村ごとのニーズに応じたカスタムメードのシステム化が進むと、災害応援にきた職員が使えないという事態も考えられる。一定の共有化、標準化は必要だろう。これは防災DX導入にとって課題であり、議論を続けてほしい。今回の濃密な議論を政策展開に生かしていきたいと思う。

 白岩・南陽市長 対面だとこれだけの英知が集まるのだと実感できたサミットだった。国と市町村が連携を図り、住民が安心して生活できる環境の構築につなげていきたい。

◇ハード・ソフト一体で協力 斉藤鉄夫 国土交通相・水循環政策担当相

 国土交通省では「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための5カ年加速化対策」のもと、河川整備やダムの事前放流などのハード、ソフト一体となった事前防災対策により、できる限り地域が被災しないよう取り組んでいる。一方で、近年の気候変動の影響を踏まえると、被害が発生することを前提に、いかにしてその被害を最小限に食い止めるかという減災を意識した対策や対応も非常に重要だ。

 緊急時に住民を避難誘導することや、防災拠点としての機能・効果を発揮することも視野に入れた街づくり、住まいづくりから、発災後の被災者対応、復旧・復興に至るまで、地域と住民を一番近くで守る市町村長を、国交省としてもあらゆる場面でサポートしていく。それが安心安全な社会につながると考えている。

 今回のサミットでの市町村長の声は、実際に大きな水害を経験された地域の声でもある。今後の国土交通行政にしっかりと反映していきたい。17回目を数えた水害サミットの取り組みは、各地域の防災力の向上と意識づけに大きく貢献している。日ごろから水防災意識の普及に努められている市町村長に改めて敬意を表したい。

◇知恵と技術活用し命を守る 元村有希子・毎日新聞論説副委員長

 「数分で背を越す海水」「もろかった自慢の堤防」「浜辺は破片の山」――。1959(昭和34)年9月27日の毎日新聞夕刊と翌28日朝刊は、東海地方を襲った伊勢湾台風の甚大な被害を生々しく伝える。

 被害を広げたのは、台風そのものより、それに伴う高潮だった。予想を超える威力で堤防が決壊し、「ゼロメートル地帯」が水没した。死者・行方不明者は5000人超。明治以来最悪の台風災害として記録される。

 地球温暖化により、「スーパー台風」が日本に接近・上陸しやすくなるという専門家の予測がある。気象観測技術の向上やインフラの強靱化を踏まえても、安心はできない。

 今年17回を迎えた「水害サミット」は、第1部で内水氾濫、第2部で被災者支援の迅速化について議論した。参加自治体からは、地域特有のさまざまな課題が提示された。一方で、人員と予算の限界、住民の高齢化、危機感や成功体験の継承といった共通の問題も浮かび上がった。

 印象的だったのは、困難な状況のなか、安全・安心のために粉骨砕身取り組む首長や職員の皆さんの思いである。

 自然は常に、人間の想定を超える被害をもたらす。そうした謙虚さを忘れず、知恵と技術を活用して一人でも多くの命を水害から守る。サミットは、そうした覚悟をも共有する場となった。

 ◇サミット出席者

 鈴木健一・三重県伊勢市長

 仁科喜世志・静岡県函南町長

 白鳥孝・長野県伊那市長

 稲田亮・新潟県見附市長

 滝沢亮・新潟県三条市長

 中川幹太・新潟県上越市長

 高橋靖・水戸市長

 佐藤俊晴・山形県中山町長

 白岩孝夫・山形県南陽市長

 老松博行・秋田県大仙市長

 穂積志・秋田市長

 原田裕・北海道恵庭市長

 大鷹千秋・北海道日高町長

 前田康吉・北海道滝川市長

 上野俊市・鹿児島県さつま町長

 原田啓介・大分県日田市長

 松谷浩一・熊本県球磨村長

 小松政・佐賀県武雄市長

 戸梶真幸・高知県日高村長

 原井敬・徳島県吉野川市長

 藤田元治・徳島県美馬市長

 福岡誠志・広島県三次市長

 伊東香織・岡山県倉敷市長

 野坂一弥・島根県川本町長

 石飛厚志・島根県雲南市長

 小沢晃広・奈良県川西町長

 関貫久仁郎・兵庫県豊岡市長

 河井規子・京都府木津川市長

 【自治体以外の参加者】

国土交通省=斉藤鉄夫国交相・水循環政策担当相、井上智夫水管理・国土保全局長(肩書はサミット当日)

富士フイルムシステムサービス=竹中稔経営統括本部デジタル戦略推進部長他

毎日新聞社=元村有希子論説副委員長、松田喬和客員編集委員

 ※水害サミットは、公益財団法人河川財団の河川基金の助成を受けて開催された。