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2023.03.01

「海のバランス」水温上昇で崩れ 養殖ノリの食害、深刻化

 日本の食卓に欠かせないノリが、ある魚に食い荒らされる被害が全国の産地で確認されている。事態を重く見た水産庁は2022年度、対策事業に乗り出したが、被害は年々深刻化している。背景には、地球温暖化による海水温の上昇が関係している可能性がある。

 養殖ノリは、海面に張った網に「種」を付着させて育てる。収穫期は主に冬場。伸びては刈るを繰り返す。国内では、有明海に面した佐賀県や福岡県、瀬戸内の兵庫県や香川県などが主要な産地だ。

 その香川県では約10年前から、被害が目立つようになった。県によると、収穫目前のノリを食い荒らす「犯人」はクロダイ(チヌ)。岸寄りの岩場や消波ブロックなどに生息し、釣り人に人気の魚だ。雑食性で、体長は40センチ以上になる。

 県の担当者は「どんどん食害がひどくなっている」と嘆息する。対策として、ノリ網の周りを別の網で囲い、クロダイの侵入を防ぐことにした。しかし、ノリを刈り取る度に囲い網を外す手間がかかる上に、数百万円規模で費用がかさむ。さらに、囲い網をする資金力がない養殖業者のノリ網に、クロダイが集中する悲劇も起きたという。

 源平合戦ゆかりの地・須磨(神戸市)のノリ養殖場でも、数年前からクロダイによる食害が問題化している。クロダイは警戒心が強く、さおでも網でも捕まえるのは容易ではない。この地で養殖に取り組む森本明さん(59)は「どうやってノリを食べられないようにするか、頭の痛い話だ」と語る。

 水産庁は21年8月、ノリ養殖場がある全国19府県の担当者を集めて、初の意見交換会を開いた。22年8月にも実施したが、効果的な対策は見つかっていない。水産庁の担当者は「食害が収束する傾向はなく、被害エリアは拡大している」と説明する。水産庁は22年度、国立研究開発法人「水産研究・教育機構」(本部・横浜市)に委託して、クロダイによるノリの食害を防ぐための研究を始めた。

 そんな中、兵庫県水産技術センターは20年以降、クロダイの生態調査に取り組んでいる。クロダイを捕獲して発信器を取り付け、行動パターンを解析。その結果、冬場に海水温が下がるとあまり餌を食べなくなることが分かった。だが、近年は冬の海水温が以前よりも下がらず、ノリの収穫期になってもクロダイの食欲が低下しないことが食害につながっている可能性が浮上した。加えて、フジツボなど、クロダイ本来の餌の減少も背景にあると考えられている。

 クロダイを研究する海野徹也・広島大教授(水産増殖学)は「クロダイによる養殖ノリの食害は、海のバランスが崩れた一つの例。地球温暖化などの問題を考えさせてくれる材料だ」と指摘する。【柳楽未来】

 (毎日新聞のニュースサイトで、クロダイの食害などを詳しく報じた「サカナ新時代」を連載しています)

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