ソーシャルアクションラボ

2023.03.06

性的少数者を取り巻く変化は 「講演1000回超え」NPO代表が語る

 超党派で議論されてきた議員立法「LGBT理解増進法案」が通常国会の重要課題に浮上するなど性的少数者(LGBTQなど)への理解を深める動きが高まっている。横浜市神奈川区のNPO法人「SHIP」は、偏見や差別にさらされながら性的少数者への支援活動を長年続ける。学校などでの講演は1000回を超え、相談者の悩みに寄り添う代表の星野慎二さんに、変化や課題を聞いた。【聞き手・岡正勝】

 --活動は長いですが、性的少数者への環境に変化はありましたか。

 ◆県教育委員会と2009年に作った啓発ポスターを、ある県立学校で保健室前に張ったら、校長から「はがせ」と命じられた。ポスターを室内に移さざるを得なかった。校内での講演、教員研修も取材を受けることは許されたが「校内に当事者がいるのでは」との偏見を恐れ、校名などは伏せられた。

 流れが変わったのは11年の県立七里ガ浜高の講演だ。校長は「(校名を)出してもいい」と言い、校名や教諭の声が新聞で載り、雰囲気が一変した。講演依頼は翌年倍増。23年1月末には1000回を超えた。15年は変化を加速させた年だと思う。全国で初めて東京都渋谷区が性的少数者らのカップルを公的に自治体が認定するパートナーシップ制度を導入し、横浜市が交流スペース提供や関連イベント開催などを始めた。前年には五輪憲章の差別禁止条項に「性的指向」が追加された。

 活動を始めた02年に比べ、今は夢のような時代だが、新たな問題も発生している。増えた当事者のカミングアウトを親が受け入れられず、拒絶するケースもある。

 --活動のきっかけや支援内容は?

 ◆東京・新木場の公園で00年に高校生らに男性が殺害された事件が契機だった。「ホモ狩り」と報道された。ゲイ同士が出会える場所として私のホームページで紹介していた。「行く人が悪い」「掲載者が悪い」と批判を受け違和感を感じた。性的少数者の人権を考えるようになった。

 02年にはSHIPの前身となるHIV感染予防啓発などを行う団体「横浜Cruiseネットワーク」を立ち上げた。07年に県と協働で「かながわレインボーセンターSHIP」に移行した後、12年にNPO法人化した。居場所づくりに精神面のフォロー、HIV感染の無料検査、相談やネットワークづくりなどに取り組んでいる。年間1000人が利用している。リピーターが6割近いが、新しい人も1日1、2人来る。環境の変化で言いやすくなったのか、中学生や小学生も保護者と訪れることもある。

 相談者で多いのが就職や進学を控え、将来と真剣に向き合う20代前半と高校2、3年生。ここで友達やパートナーができ、表情が明るくなることもある。その成長過程が見られることが何よりの喜び。子育てしているようなものだ。

 --「パートナーシップ制度」は県内33市町村のうち28市町村が導入しています。

 ◆市町村数では多いが県はなく、みんなが活用できるわけでもない。カミングアウトしなければならず、申請をためらう人もいる。制度自体は良いが導入だけで終わらず、制度を利用しやすく改善してほしい。

 制度を民間に広げることも大事だ。携帯電話会社で実施している性的少数者のカップルも家族とみなして割引が受けられるサービスがある。ただカミングアウトがここでもネックになっている。福利厚生の支援制度がある大企業で、生まれつきの性別と性自認が異なるトランスジェンダーが性別を変えたことを担当部署に手続きしたら、上司に知られていたこともある。これは他人が知らしめる「アウティング」。周囲の理解、学びがもっと必要だろう。

 --首相秘書官が「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言したばかり。同性婚と夫婦別姓は法的に認められておらず、性的少数者の差別禁止法も制定されていません。

 ◆今までで一番ひどい言葉だ。社会的影響を持つ人が言っちゃいけない。当事者は孤立し自己否定が強くなり、うつ病を発症したり、自殺を考えたりする人もいる。同じ年代の親を持つ人はカミングアウトできなくなる恐れもある。

 議員立法「理解増進法案」が国会で議論されている。男女雇用機会均等法や障害者雇用促進法のように、条文に「差別禁止」を入れてほしい。就職で拒否されないよう、法律で位置付けてほしい。先進国で同様の法律がないのは日本だけで、恥ずかしい。=毎週月曜日掲載

 ■人物略歴

星野慎二(ほしの・しんじ)さん

 1960年、栃木県生まれ。性的少数者を支援するNPO法人「SHIP」代表で、前身団体を2002年に発足させた。自身もカミングアウトをしており、啓発講演は1月末で1000回を超えた。

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