ソーシャルアクションラボ

2023.03.13

復興へ知恵絞る 中学生たちの活動、校外へ広がる 愛媛・西予

 死者・行方不明者が2万人超に上った東日本大震災の発生から11日で12年。9月1日には関東大震災から100年を迎える。四国でも南海トラフ巨大地震の発生が懸念され、台風や記録的な大雨などによる災害の激甚化も著しい。2018年7月の西日本豪雨で肱川が氾濫し、5人が死亡した愛媛県西予市野村町地区では子どもたちが命やまちを守る大事さを日々、学び続けている。復興の道を力強く歩く小中学生らの姿から防災について見つめ直した。

 「豪雨災害を忘れないように」。西日本豪雨で被災した愛媛県西予市野村町地区にある市立野村中学校で2月21日、復興に向けての活動案を披露する報告会が開かれた。「(すごろくのような)ボードゲームで楽しみながら、被災していない人にも災害や野村について知ってもらおう」との案の他、新たな名物スイーツや野村を代表するキャラクターの考案、グルメグランプリの開催など、復興に向けて工夫を凝らした計八つの取り組みが紹介された。

 ボードゲームでは、マップに野村に関するクイズのマスや特産品がもらえるマスなどを配置。「ゲームをしながら、まちについて知ってほしい」との願いを込めた。プレーヤーの駒は力士の姿に。同地区では相撲が盛んで、例年11月には乙亥(おとい)大相撲という有名な大会が開かれることにちなんだ。一方、「大きな災害があったことも知ってもらいたい」と「突然の災害発生! だが、地域の人との協力で特産品2個ゲット!」などのイベントも組み入れた。

 野村中は22年度から、復興について考える教育を全校を挙げて本格的に始めた。「当初は(校内だけの)ささやかな取り組みだったが、地域の方など仲間がたくさん増えて大きな力になった」と岩本数明校長は振り返る。

 プロジェクトの計画作成などを担ったのは市の地域おこし協力隊員で地域教育プロデューサーでもある染田麻弓子さん(37)だ。狙いは「社会の役に立てるという自己肯定感を醸成するとともに、中学生の活動を通じて地域住民にも活力を与える」こと。「楽しい」という要素を加えながらも、「どう復興に役立つのか」という視点をとことん重視した。被災地のため「復興に強い関心を持つ生徒は元々いた」が、取り組みを通じて「周囲の生徒も巻き込み、全体として復興・地域への思いが強まった」と語る。

地元で進学「恩返しを」

 生徒の学びは新たな道を開きつつある。被災後に復興を学んだ経験から地元の県立野村高校への進学を決めた生徒もいる。

 その一人、3年の越智夢望(ゆめの)さん(15)は西日本豪雨で、自宅が2階の屋根付近まで水没した。避難所の体育館に連れて行けなかった愛犬が死ぬ悲しい経験も。慣れない避難所生活で、家も愛犬も失って落ち込む中、地域の人たちが手助けし励ましてくれた。「私を助けて笑顔にしてくれた多くの人たちに恩返ししたい」との思いは募る。「中学での学びを生かして、野村高に進学して復興の活動を続けたい。地域の方と協力し、行事などを一緒に作り上げていきたい」と話す。将来の夢は「声優」。「声優の活動を通して、野村のことも伝えていけたら」とはにかんだ。

地域継承が鍵   

 7月で西日本豪雨から5年を迎える中、被災の経験を生きた教訓として伝え続けられるか。染田さんは「語り部活動をしたり、被災した事実を示す『サイン』を残したりして後世に伝えようとする人もいる。それらのすべては学びにつながる」としつつも、「それを地域全体で“継承”していけるかが鍵になる」と指摘する。「いつまでも災害にとらわれるという意味ではなく、未来に向けて皆で知り、学び、伝え、備えられるかが防災教育の要だ」。野村の子どもたちの学びから地域内外の全世代に。関係者はもう一段の広がりを目指している。【山中宏之】

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