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2023.03.14

水没した校舎、泥やカビ… 九州豪雨で被災、解体待つ小学校の今

熊本県南部を中心に大きな被害が出た2020年7月の九州豪雨で、河川が氾濫して水没した同県球磨村立渡小学校の解体工事が16日から始まる。学校は来春、近隣の小中学校と統合され、約150年の歴史に幕を閉じる。子供たちの思い出とともに、被災したあの日の記憶が刻まれた学び舎(や)を記録しようと、現地を訪れた。【栗栖由喜】 熊本市中心部から車で走ること約1時間半。村に横たわるように流れる1級河川・球磨川とその支流の合流地点付近に学校はある。2月下旬、冬晴れの川の流れは穏やかで、校庭では地元の高齢者がゲートボールを楽しんでいた。 七夕飾り「一夜にして変わった」 渡小は1874(明治7)年に創立。現校舎は1981年に建てられた。許可を得て校内に入ると、地上から約4メートルの高さにある校舎外壁に掲げられた大時計が止まっていた。「7時51分」。2年半前の7月4日朝、被災した時刻だろうか。 鉄筋コンクリート造り一部2階建ての校舎内を歩くと、廊下では乾いた泥が割れ、土ぼこりが舞った。窓や壁の多くは泥がこびり付いたまま。天井がはがれ、水でふやけた床板がゆがんでいる。あちこちに黒カビが目立ち、その臭いが鼻をついた。 豪雨が襲った7月4日は授業がない土曜日で、当時の児童78人と教職員20人は全員無事だった。しかし、学校に隣接する特別養護老人ホーム「千寿園」では入所者14人が帰らぬ人となった。 当時は新型コロナウイルス感染拡大の影響で3~5月までの休校措置が明けたばかり。取り戻した子供たちの笑い声が聞こえるかのように、教室には7月3日の板書や七夕飾り、似顔絵がそのまま置かれていた。「一夜にして変わり果ててしまった」。取材に同行してくれた森佳寛教育長(63)が嘆いた。 森教育長は豪雨前の3月まで校長を務めていた。入学式や卒業式など子供たちとの思い出が詰まった体育館に立つと、ひときわ表情を曇らせた。床板は泥水の力で浮き上がり、ステージに向かって大きく反り上がる。「絶望感しかなかった」と振り返る。 「清流学園」新たな船出 村は当初、校舎を遺構として保存することも検討したが、維持管理の難しさなどから断念。校舎内は全て360度カメラを使って映像化し、災害の記憶と教訓を伝える資料として活用する考えだ。解体後は地域の交流場所として公園化する計画もある。 今年度末の児童59人は、村内の中学校に設けられた仮設校舎に通う。豪雨後の転出などによる児童数の減少で、24年4月からは近隣の小中学校と統合され、義務教育学校「球磨清流学園」に生まれ変わることが決まった。 森教育長は「学校は卒業生や在校生の数だけ校舎と共に思い出と歴史が刻まれている」と名残を惜しみつつ、「脈々と続いてきた球磨川本来の清らかな流れのように、子供たちも未来に向かって成長してほしい」と願った。取材を終えると、春を待つ柔らかな陽光が校舎を照らしていた。

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