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2023.03.21

桜が咲かなくなる日 開花時期の早まりは地球規模のシグナル

 「入学式に満開だった桜(ソメイヨシノ)、最近は卒業式の頃には既に満開……。あれ、開花の時期が年々早まっていない?」。こう感じる人、東京などでは多いのではないでしょうか。原因は地球温暖化。このままいくと、一部の地域では桜が咲かなくなる可能性もあるようです。【國枝すみれ】

開花時期早まる データから明らか

 「開花時期が早まっているのは明らかです」。気象情報サイト「ウェザーニュース」で広報担当を務める中村好江さんは言う。

 東京では1960年代の開花時期は「3月30日ごろ」だったが、90年代から顕著に早くなり、2000年代は「3月22日ごろ」という。今年は20、21年と並び観測史上最も早い3月14日で、開花時期は確実に早まっている。

 なぜ、温暖化が進むと開花時期が早まるのか。まずは、桜が咲くサイクルを簡単に整理したい。

 ①夏、桜の花芽(成長すると花になる芽)が作られる

 ②晩秋~初冬、寒い冬を越すために花芽は休眠に入る

 ③真冬、0~10度前後の低温に一定期間さらされると、休眠から目覚める=休眠打破

 ④春にかけ、気温の上昇に伴い花芽が成長する

 ⑤開花

 こうして見ると、④以降の過程において、気温が高い日が続くほど、成長や開花の時期が早まることが分かる。

目覚めに低温が必要

 気温との関係においてはもう一つ重要なポイントがある。「休眠打破」(③)だ。暖かい地域で暖冬になると休眠打破が遅れ、かえって成長が遅れる事態が起きるのだ。

 九州大学名誉教授で、元福岡市科学館館長の伊藤久徳さん(74)は懸念する。「温暖化が進むと、場所によっては、寒さにさらされる期間が足りず、桜が咲かなくなったり、8割以上のつぼみが開く満開状態にならず、『だらだら咲き』で終わったりする地域が出てきます」

「東北で早まり、九州で遅くなる」分析

 伊藤さんは、1981~2000年に比べて日本周辺の気温が平均2~3度高くなる想定で、ソメイヨシノの平均開花日が2100年までにどうなるかをコンピューターでシミュレーションした。

 東北地方や山岳地では開花が2~3週間早まる一方、九州などの温暖な地方では逆に1~2週間遅くなり、国内の広い地域でほぼ同時に咲くという結果が示された。また、種子島、屋久島、鹿児島西部などでは咲かず、満開にならない地域が九州南部、四国南西部などに拡大するという結果となった。

 実際、記録的な暖冬となった20年には、仙台や福島で鹿児島よりも早く咲くという逆転現象が起き、八丈島では満開に至らず散った。

 伊藤さんは「以前にはなかった現象が既に現れています。温暖化は決して遠い将来のことではなく、身近に現れているのです」と警鐘を鳴らす。

「温室効果ガス排出ゼロ」が不可欠

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会が21年8月に公表した第6次評価報告書によると、世界の気温上昇は、対策の程度にかかわらず今世紀半ばごろまで続く。81~2100年は、対策を導入し温室効果ガスの排出が中程度と想定した場合、産業革命前と比べて2・1~3・5度上昇する可能性が非常に高いとされる。

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