2023.03.22
廃棄せず育てて商品化 磯焼け減らす好循環目指す「ウニノミクス」
海藻などが食い荒らされる「磯焼け」の原因となる商品価値の低いウニをどう扱えばいいのか。その解決に向け、ウニの養殖を手がけるスタートアップ企業「ウニノミクス」(本社・東京)が注目を集めている。ウニは「世界的に取り合い」状態で、引く手あまたという。同社の事業開発・渉外責任者の山本雄万(ゆうま)さん(33)に事業の展望を聞いた。【聞き手・町野幸】
第2章 招かれざるウニ(番外編)
――事業内容を教えてください。
◆海の中で海藻が群生している場所のことを藻場といいます。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を吸収し、海の生き物のすみかや産卵場としての役割を果たすなど、生物多様性の面でも非常に重要な役割を果たしています。この藻場の海藻が、海水温の上昇などによって異常繁殖したウニに食べ尽くされ、海底が砂漠化してしまう磯焼けが日本中の海で問題となっています。
これらのウニは食べられる中身がほとんど入っていないため売り物にならず、多くの地域では磯焼け対策の補助金を使って、藻場がなくなってしまった海底から除去した後に廃棄されています。こうした「厄介者」のウニを廃棄するのではなく、地元の漁師さんから適正価格で買い取り、陸上の専用施設で一定期間育てることにより身を太らせ、商品化するのが我々の事業です。
磯焼け対策を目的として陸上でのウニ蓄養を商業規模で行う世界初の企業として、2017年に設立しました。日本で蓄養するウニの種類は、ムラサキウニとキタムラサキウニです。
――どのような方法で蓄養するのですか。
◆商品にするなら当然、味が非常に重要です。ウニの味は餌が大きく左右し、主産地である北海道や東北の天然ものは、上質な昆布を食べて育っています。そこで、水産加工場などで出る昆布の端材を主な原料にした配合飼料を独自開発しました。効率的に成長させられるよう栄養を凝縮し、水中で溶け出すことのないように数十回テストを繰り返しました。この餌を用いて、最適な水温や水質に調整した陸上の閉鎖循環式の蓄養施設で2~3カ月育てると、空っぽだったウニが、身のぎっしり詰まったおいしいウニになります。
市場に出回っているウニはほぼ天然ですが、その旬は短く、例えばムラサキウニだと春先から夏くらいまでの間しか食べることができません。陸上で蓄養することで、通年で殻付きの新鮮な状態でも提供できるというメリットもあります。
――どの地域で育てていますか。
◆国内では、大分県国東市の地元漁業者と設立した蓄養会社と、山口県長門市の水産加工会社と共同運営している拠点の2カ所があります。山口の拠点は世界最大規模となる年間34トンの生産能力があり、22年11月に稼働しました。我々の事業モデルは、磯焼けに悩む地域の漁業者らと協力し、その地域に会社を設立して共同で蓄養に取り組むというのが基本です。「うちの地域でもやりたい」との声は多く、全国各地の自治体や漁業者、企業などから数十件の問い合わせをいただいています。今後も順次、拠点を広げていきたいと考えています。
世界で伸びるウニ需要
――商品となったウニの出荷先はどこでしょうか。
◆取引先は地元の飲食店や鮮魚店が中心で、東京や大阪などの大都市向けにも出荷しています。産直ECサイト「食べチョク」でも販売しています。2月からは関東を中心に展開する回転ずしチェーン「がってん寿司」の一部店舗での提供も始まりました。ただ、同チェーンの運営会社を含め、いくつもの取引先から「もっともっと欲しい」と言われており、本当にウニが足りないのだと実感しています。
――日本人はウニが大好きですよね。
◆はい。日本は世界のウニの7~8割を消費しているとされ、世界最大の消費国です。一方で、日本の消費量に占める国産の割合は2割ほどとされており、多くを輸入に頼っています。しかし、ウニの引き合いは今や日本市場に限った話ではなく、世界規模で「ウニの取り合い」が起きています。日本食ブームやすしブームにより、これまでウニを食べる食文化がなかった地域でもウニのおいしさに気づき始め、中国、香港、台湾やシンガポールなど東南アジア、さらに米国や欧州でも消費が伸びています。
東京・豊洲(築地)市場の生鮮ウニの平均単価(1キロあたり)は国産、輸入ともに上昇しています。また、これまで輸入ウニは鮮度は落ちるけれども国産より安く、一定の価格差もあったのですが、今や国産とほぼ変わらなくなりました。データを見ると、国産ウニの取扱量は減っています。これは磯焼けで餌となる昆布が減り、商品にできるウニが少なくなったことなどで漁獲量自体が減少基調にあることが影響しています。当社は磯焼け問題の解決を図りながら、鮮度が良いおいしいウニを消費者の方々に食べていただきたいと思っています。
(この項おわり)
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