2023.03.23
「僕も私も君もみんな一緒に」性別を強調しない保育イラスト集
男の子でも女の子でも、どっちでもよくない?――。保育士たちが現場で感じた、そんな疑問が始まりだった。保育園で使われるイラストは、赤いリボンをつけた女の子や半ズボンの男の子など、ひと目で性別が分かるものばかり。3人の保育士に、幼いころの苦い思い出がよみがえった。
りぃなさん、まーさん、ケイタさんは、いずれも保育士で、LGBTQなど性的マイノリティーの当事者だ。教育現場で多様な性のあり方への理解を広げようと活動するNPO法人「ASTA」(名古屋市)のメンバーでもある。
保育園など幼児教育の場では子どもたちが理解しやすいよう、1日の活動内容や部屋の場所、トイレの使い方といった情報をイラストで示し、教材や掲示物にしている。「視覚支援」と呼ばれ、障害のある児童の施設でも使われる。
イラストはインターネット上のフリー素材などを使うことが多いが、子どもはたいてい男の子がズボンで足を開き、女の子はスカートで内股だったりする。着ている服も、赤やピンクが多い女の子に対し、男の子は青や緑で、性別を強調したものが少なくない。
岡山大病院ジェンダークリニックが性同一性障害で受診した1167人に行った調査によると、性別に違和感を覚え始めた時期は「小学校入学前」が56・6%と過半数を占めた。ケイタさんも幼稚園のころ、クラスに同じ名前の男の子がいたため「あなたは女の子だからこっちね」と先生に言われ、性自認とは合わない赤色の物を持たされたのが、とても嫌だった記憶がある。
「保育士として、子どもに同じような思いをさせたくない」という3人の思いは一致した。ちょうどそのころ、園児が自分の持ち物に貼る「個人マークシール」で、性別にとらわれないデザインを開発する取り組みを知り共感。自分たちはイラストで性別に違和感を持つ子どもたちの心の痛みを和らげようと、「ジェンダーニュートラル」なイラスト作りを始めた。
例えば給食の時間を示すイラストに、必ずしも性別を表す必要はない。それより、誰もが「あれは自分だよね」と言いたくなる、魅力的なキャラクターにしたい。さまざまな場面で使いやすいよう、保育や医療の現場で働く人たちからもアドバイスをもらった。
イラストは2月末に、220種類がそろい完成。保育園や幼稚園などでの利用を想定し、遊び、季節の行事、健康管理、防犯といったカテゴリーに分けた。
登場する子どもたちは表情豊かで、車イスの子、補聴器やヘルプマークをつけた子もいる。性別が分からなくても違和感はない。まーさんは「障害のある子も肌の色が違う子も普通に登場させたかった。誰もが『自分もこの中にいる』と思ってほしい」と話す。
保育園は子どもが初めて親元を離れて社会と接する場所。そして保育園に通うころは、保護者や保育者から学んで、自分らしさを獲得する年齢だという。
「保育の現場は多忙で、なかなかジェンダー教育に手が回らない。このイラストを選択肢の一つにしてもらい、現場で考えるきっかけになればうれしい」とりぃなさんは期待する。
予算上、カラーコピーを使えない保育園が多いことから、白黒のイラストも用意した。「ジェンダーニュートラルなフリーイラスト集」は、教育現場向けのフリー素材を集めたサイト「性教育いらすと」(https://seikyouiku-illust.com/gender-neutral/)で公開されている。【太田敦子】
関連記事