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2023.03.25

奄美に息づく「幻の鳥」に会いたい 一斉調査に同行し知ったこと

 世界自然遺産の鹿児島県・奄美大島だけに生息し、国の天然記念物の野鳥「オオトラツグミ」をご存じだろうか。かつては「幻の鳥」と言われるほど生息数が減少したが、近年の保護活動もあって生息域は広がりつつある。現地での一斉調査にボランティアで参加すると、そこには自然の神秘と地道な作業があった。

 夜明け前の暗闇に包まれた19日午前4時すぎ。奄美市南西部にある名瀬運動公園に、9班に分かれた島内外の調査員118人のうち二つの班の約30人が集まった。車で30分ほど南に移動して調査地点の林道に向かった。

 「出た」。道すがら、思わず声を上げてしまった。あいさつ代わりに国の特別天然記念物アマミノクロウサギ5匹が森から姿を現し、早くも足元に広がる豊かな自然を感じさせてくれた。

 一斉調査はオオトラツグミの生息数を確認するため、NPO法人「奄美野鳥の会」(奄美市)が1994年から毎年欠かさず続け、今年で30回を数える。会員やボランティアらが早朝に2人1組で島を縦断する林道を往復約4キロ歩き、さえずりの方向やその遠近を細かく記録していく。

 この日はベテラン調査員の茂野潤さん(46)に同行した。「聞こえましたね」。午前5時半の調査開始前、いきなり茂野さんに声を掛けられた。耳を澄ましても聞き取れない。「事前にさえずりは予習してきたはずなのに……」。大自然と大ベテランの洗礼に、不安と焦りが募った。

 未舗装の林道はあちこちに石が転がっていた。何度も悪路に足を取られ、早々に息が上がった。歩くと自分の足音が気になり、アカヒゲなどの他の鳥や、アマミイシガエルの鳴き声も多く耳にする。早朝の森は想像以上ににぎやかだった。

 「キョロリン、キョロリン」。開始から約5分、500メートルほど歩くと、茂野さんと同時に足を止めた。暗闇に響き渡る澄んださえずり。「これだ」。慌てて地図にその地点を書き込むと、感動するいとまもなく再び歩みを続けた。遠くでかすかに聞こえる場合は、2人で「聞こえましたよね」と確認し合う。

 オオトラツグミは体長約30センチ。褐色の体に虎のような黒い模様があるのが特徴だ。詳しい生態は不明だが、山奥の照葉樹林に生息。50~80年代の森林伐採の影響で減少し、環境省のレッドリストで絶滅の危険が増大している「絶滅危惧Ⅱ類」に分類される。

 空が白みがかるまで約1時間の調査で10回ほどのさえずりを聞いた。64歳の記者にとって体力的にはきつかったが、耳に残るすがすがしいさえずりの余韻が疲れを吹き飛ばしてくれた。謎多き希少種の生態解明に欠かせない調査の一端に携われた喜びも味わった。

 奄美野鳥の会によると、この日は86羽の生息を確認。過去最多だった2022年の108羽には届かなかったが、永井弓子会長は「増減はあるが、近年の生息数は高い水準で推移している」と話す。奄美に眠る多様で魅力あふれる自然は、こうした地道な努力が支えていると、額ににじんだ汗が教えてくれた気がした。【神田和明】

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