2023.03.29
富士山が噴火したら? 電気、水道…「首都機能まひ」 今できる備え
富士山で大規模な噴火が起きると、火山灰で首都機能がまひする――。3年前、政府の中央防災会議の作業部会が公表した推計だ。噴火から3時間で東京都や神奈川県など首都圏の広範囲に火山灰が積もり、交通機関やライフラインにも影響が及ぶとされていた。
富士山が噴火すると、大きな噴石や火砕流、溶岩流といった人命を奪う現象が起きる可能性がある。こうした影響が及ぶ範囲は山梨、静岡、神奈川の3県とされており、3県や国でつくる「富士山火山防災対策協議会」は29日、噴火に備えて2014年に策定した避難計画を全面的に改定した。
この中では、首都圏に降り積もる火山灰の影響や対策については、直接的には言及されていない。降灰により即座に死者が出る可能性は低いとされる。だが、考えられる影響は決して小さくない。
噴火から3時間で首都圏に降灰か
20年3月に中央防災会議作業部会が公表した試算の内容はどうだったか。1707年の「宝永噴火」と同規模の大噴火が富士山で発生し、降灰が15日間続いたと仮定すると、風向きによっては、噴火から3時間で都心に火山灰が降り積もるとしていた。東京23区の一部では1日で3センチ、2日で10センチ超の降灰となるとした。
試算によると、0・5ミリ程度のわずかな降灰でも神奈川から東京、千葉にかけて列車が停止する。道路は降雨時で10センチ以上、雨が降っていなくても30センチ以上の降灰で四輪車が動けなくなり、通行止めが発生する可能性がある。視界不良などのためだ。
影響は電気、水道にも
ライフラインへの影響も見込まれる。電力は降雨時に3ミリ以上降灰した場合、停電する恐れがあり、水道は、水質の悪化により地域によっては断水することも想定される。木造家屋は降雨時に30センチ以上の灰が積もると倒壊する可能性がある。
国内で他の火山が噴火した際は、道路の火山灰については道路管理者が、宅地では住民が処理してきた。
富士山で大規模噴火が起きた場合、除去する必要がある火山灰は東日本大震災で発生した災害廃棄物の約10倍に相当する約4・9億立方メートルと推計されている。
国などの対策は
膨大な火山灰を処理する必要があるため、中央防災会議作業部会は、一時的に保管する仮置き場や最終処分場所を事前に選定することを国などに対して求めた。
20年に明らかになった試算を受けて、国などは火山灰をどのように収集・処理するかなどについて関係省庁で検討会を開いている。だが、具体策は決まっておらず、そのめども立っていない。
一方、東京都は「TOKYO強靱(きょうじん)化プロジェクト」を22年12月に策定し、「国や他県などと連携し仮置き場を確保する」などの目標を定めた。都の担当者は「都だけで処理することは無理で、他県などと広域処理をしなければ対応できない」と話す。
日常生活への影響、対策は
家庭での備えはどうすべきか。火山灰で目や鼻、喉、気管支などに異常が生じ、呼吸器疾患や心疾患がある人は症状が悪化する可能性がある。防災科学技術研究所(茨城県つくば市)のパンフレット「降灰への備え」などによると、事前に防じんマスクやゴーグル、電化製品に火山灰が入らないようにするためのラップなどを自宅に備えておくことが推奨されている。
火山灰で角膜を傷つける可能性があるため、コンタクトレンズの着用は控えることも有効な対策とされている。ライフラインや物流にも影響が出る恐れがあるため、各家庭では1週間分の飲料水や食料などの備蓄が欠かせないという。【安藤いく子】
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