2023.04.26
火山調査研究の司令塔組織設置へ 文科省に推進本部
日本は111の活火山がある火山大国なのに、調査や研究をする機関を取りまとめる組織がない。調査や研究を一元的に進めて防災など政策に反映させようと、自民党は司令塔役を担う組織を文部科学省内に置くことを目指している。開会中の国会に、組織の設置などを盛り込んだ活動火山対策特別措置法の改正案を提出する方針だ。
2018年に1人が死亡、11人が負傷した草津白根山の本白根山(群馬県、2171メートル)の噴火。噴火口は、気象庁が監視していた火口とは別の所だった。これを受け、気象庁は火山性地震を測るための地震計を増設するなど観測態勢を改めた。
草津白根山には東京工業大の観測所があり、研究者が常駐している。観測所の寺田暁彦准教授(火山学)は「防災などのために火山研究を深めつつ、監視として24時間態勢で観測するには、大学と気象庁の役割分担を明確化にして連携を深めていくことが理想」と話す。
気象庁には、長官の私的諮問機関で研究者らで構成する「火山噴火予知連絡会」(噴火予知連)がある。1974年に発足した当時、火山を担当する気象庁の職員は10人程度しかおらず、各火山がどんな状況なのか、噴火予知連が評価や判断をしてきた。
現在の職員数は約280人に増えた。今年4月からは、活火山の活動状況の評価や噴火警戒レベルの判断など噴火予知連の役割も担っている。
だが、調査や研究は産業技術総合研究所など別の機関でも実施している。このため、各機関の調査や研究の成果を集約して政策に役立てる司令塔の必要性が指摘されていた。
一方、国内の活火山には研究者の目が十分届いていない火山もある。
気象庁が常時観測している東北地方の活火山は12カ所。いずれの火山も東北大地震・噴火予知研究観測センター長の三浦哲教授(固体地球物理学)が調査・研究の成果と防災の橋渡し役を果たしている。三浦さんは「自分のような人材が足りていない」と嘆く。
噴火に携わる研究者の数はかつて、国内で40人程度だったため「40人学級」と言われてきた。14年に御嶽山(長野・岐阜県境、3067メートル)の噴火で戦後最悪の人的被害が出たことから、文科省は16年度に大学院生を対象にした人材育成プログラムを始めた。
17~21年度に人材育成プログラムを修了して就職した70人のうち、43人が火山の研究や防災に関係する職に就いた。ただ、三浦さんは「成果が出ているがプログラムには期限があるので、永続的な取り組みにしないと研究者は増えていかない」と訴える。
こうした状況を踏まえ、自民党の議員連盟は火山の調査や研究を一元的に進める「火山調査研究推進本部」を文科省に設置することを盛り込んだ活火山法の改正案を今国会で成立させ、24年度に始動させることを目指している。さらに、研究者の育成強化も狙う。
噴火予知連で会長を務めた藤井敏嗣(としつぐ)東京大名誉教授は「政府が一元的に取り組むことが重要だ。人材育成はもちろん、国だからこそできる全国的な調査や、火山に異変があった時に機動的に観測できる仕組みの整備など、これまでできていなかったことを機能的に進めてほしい」と述べた。【土谷純一】
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