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2023.04.30

帰り道で警察官が制止、パニックに 知的障害の青年の死、映画に

 知的障害のある佐賀市の安永健太さん(当時25歳)が2007年9月、警察官に路上で取り押さえられた後、死亡した事件を受け、支援者らがドキュメンタリー映画「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」(今井友樹監督)を製作した。動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開し、再発防止と障害への理解を呼びかけている。【野倉恵】

 安永さんは作業所から自転車で帰宅途中、パトカーの警察官に停止を求められ、バイクに追突し転倒。警察官5人に取り押さえられ、その後意識を失い急死した。刑事裁判でも民事裁判でも最終的に警察の責任は認められなかった。

 事件後、知的障害者の家族らから「状況が分からないまま触られたり押さえられたりすれば、パニックになることはある」「うちの子に起きたことかもしれない」といった声が上がり、裁判終結後の17年、弁護士や福祉関係者らが事件を考える会を設立。風化させないため映画を作った。

 映画は30分間で、父孝行さんや弟浩太さん、弁護士らが事件と裁判の経緯や思いを語る内容。孝行さんは「裁判の中で障害者は外に出すな、付き添っていなかった親が健太を殺したみたいに言われたと思った」と声を振り絞り、「障害者の親が最後に頼るのは警察。無知、無理解じゃできん」と語っている。

 民事裁判は判決で、停止要請に応じなかった安永さんは精神錯乱状態だったとし、取り押さえは適法と結論づけた。事件の教訓として、同会は精神錯乱や泥酔のため自傷他害の恐れのある人の保護などを定めた警察官職務執行法について、「精神錯乱」という文言の削除や、障害者の障害特性に応じた注意義務を警察官に負わせる改正を求めており、映画でも触れた。国連障害者権利委員会は昨年9月、日本の法律の「精神錯乱」や「心神喪失」などの文言を軽侮的とし、「軽侮的な表現の廃止」を勧告した。

 会の事務局長の辻川圭乃弁護士は「安永さんは、現場の警察官が一人でも障害に気づいていれば亡くなることはなかった。あってはならないが、亡くならなくてもトラウマの残るケースも多い。安永さんの死を今後につなげたい」と話している。

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