ソーシャルアクションラボ

2023.05.10

入学式に入れない|せんさいなぼくは、小学生になれないの?①

①2022年4月8日

小学校の体育館。今日は、むすこの入学式だ。ぼくは父母席にひとり座り、むすこが入場してくるのをカメラを片手に待ち構えていた。となりの席は妻のためにとってある。だが、教室までむすこを送りに行ったまま、なかなか戻ってこない。

式の開始時刻となり、担任を先頭に、新1年生が入り口から入場してくる。スーツやドレスで着飾り、胸には新しい名札とコサージュつけている。緊張している子もいれば、うれしそうに父母席に笑顔を向ける子もいる。かわいらしく、晴れ晴れしい入学式の一コマだ。

1組、2組と入場するが、列のなかにむすこの姿が見当たらない。「おかしいな。まさか」と思って、体育館の入り口のほうを見ると、付き添っていた妻とともに立ち往生している。妻は、むすこに何やら諭している。先生も何人か寄ってきて、入場を促している。だが、むすこは緊張し過ぎて体育館に入れないようだ。

入場が終わると、父母や先生たちの視線が入り口で立ち往生する母子に集まる。それでも、むすこは動かない(注:実際は恐怖と不安で動けなかったのだが)。機転を効かせた男の先生がパイプ椅子を持ってきて、その場でふたりは着席することになった。

何事もなかったかのように、式は粛々とはじまっていく。

国歌斉唱、校歌斉唱。校長のあいさつがはじまる。

「みなさん、ご入学おめでとうございます。この小学校では、まず、あいさつができることを目指します」と、校長は話をはじめた。

「朝、会ったときは——」と校長が言うと、子どもたちは元気な声で「おはようございます!」と応じる。

「昼は?」

「こんにちは!」

子どもたちから自然と大きな声があがる。むすこは、妻と一緒に入り口付近で椅子に座って不安そうに式を見つめている。

あいさつ推進校か——。

小学校としては当たり前のスローガンを前にし、ぼくはイヤな予感を抱いていた。うちのむすこは、幼稚園の年中のときに朝のあいさつを繰り返し求められたのがよほどイヤだったのか、「あいさつをしないこと」にかけては徹底した意思の強さを持っている(どうしても声をだせない、場面緘黙症の可能性もある)。幼稚園時代の2年間、「おはよう」のあいさつを積極的にしたことは一度もない(小声で先生にだけ言うことはあったが)。

各クラスの担任などの紹介が終わると、子どもたちは体育館から一度退場する。しばらくして、集合写真を撮影するために子どもたちは体育館に戻ってきた。

1年生なので整列はただでさえうまくいかず、時間がかかる。むすこは壇上で終始くねくねしていて、妻の膝に座ろうとしている(注:極度の不安で母から離れられなくなっていた)。なんとか、妻が二人羽織のように背後に隠れながらむすこを支えて撮影に臨んでいた。

そんな様子をやきもきしながらぼくはずっと見つめていた。さて、ここがスタートとして、6年間でどれくらい成長できるかな——。このときは、まだ気楽に考えていた。

***

この連載では、昨年春、小学1年生になったむすこの「行きしぶり」について、読者のみなさんと体験をシェアしたいと思う。

むすこは「HSC(Highly Sensitive Child、ひといちばい敏感な子ども)」と呼ばれる性格特性を持っている

(注:現時点では診断は受けておらず、医師と相談中)。最近、話題になることが増えた「繊細さん」=「HSP(Highly Sensitive Person、ひといちばい敏感な人)」の子ども版だ。

思いつくままにあげても以下のような特徴がある。

・大人の心をよく察する ・においや音に敏感 ・シャツの首元についているタグがチクチクするのを嫌う ・新しいことをはじめる前に、とても時間をかけて観察する ・人前で話すのがとても苦手……

HSCというのは、病気や障害ではなく、あくまで性格の特徴。程度の問題なので、誰しも多少なりとも重なる部分はあるかもしれない。ただ、この自分の意思ではどうにもならない性格上のでこぼこは、集団生活を行ううえでは不利に働くことが多い。

規律の少ない幼稚園ではこの性格特性が「問題」化することはなかったのだが、ルールの多い公立小学校に入るやいなや、この性格にともなうむすこの行動が「問題」として立ち上がった。

入学早々に行きしぶりをはじめ、一月を待たずに学校に通うことができなくなってしまったのだ。

「共働きで忙しいのに、むすこが学校に行かない」

わたしたち夫婦は、赤ちゃん返りをして親から離れられなくなってしまったむすこを前に途方に暮れ、正直うろたえた。HSCって、そもそも何? いちばん身近な子どものことがよくわからない。自分たちとは性格が全然違い、まるで言葉の通じない、異邦人のようにも感じられた。彼と意思疎通するための言語やツールを持たなければ、と思った。一刻も早く。しかし、いったいぜんたいどういう形であればこの子は学校に通えるのか、あるいは、学校以外の選択はどう可能なのか——。

わたしたち夫婦と、むすこの模索の日々ははじまった。

【書き手】沢木ラクダ(さわき・らくだ) 異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、編集者、絵本作家。出版社勤務を経て独立。小さな出版社を仲間と営む。ラクダ似の本好き&酒呑み。
【我が家の家族構成】むすこの父である筆者(執筆当時40歳)は、本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻(40歳)は教育関係者。9時~17時に近い働き方で、職場に出勤することが多い。寡黙で優しい小1の長男(6歳)と、おしゃべりで陽気な保育園児の次男(3歳)の4人家族。