ソーシャルアクションラボ

2023.05.26

振り返りもしないで、むすこは|せんさいなぼくは、小学生になれないの?⑥

⑥5日目(2022年4月15日)

7時35分。 「今日は勝つんだ」

朝の準備を済ますと、 隣りの家のピンポンを鳴らしに、 玄関を出るむすこ。

ちょうど、隣りの子も出てきたところで、隣りの玄関前でもみあいになり、通せんぼをしあっている。

多少けんか気味になってきて、隣りの子がむすこを振り切って抜けると、今度はうちの玄関前でもみあいになり、服をひっぱりあっている。

と、むすこがやぶれかぶれになり、自分の家のインターホンを押した。

隣りの子は、あきれた顔で 「○○くん、それ、 サッカーなら、オフサイドだよ」 と言った。

それを言うなら、「オウンゴール」だ。

というわけで、ちょっとした朝のバトルは2敗。けんかになるのも意味がないので、ほどほどがよいのかもしれない。

今日は朝から、子どもたちがお母さんにくっついて甘えていた。朝ごはんは自分が作ることに。だが、食材がない。朝のあわただしい時間のなか、少しイライラして、気分がどんより。

子どもが少しずつ登校に慣れてきたおかげで、今日は通学路の途中にある陸橋の上でバイバイすることを約束。来週月曜は、その先の細い道のところでバイバイすることも約束できた。

今日は、午後に雨が降る予定で、空もどんより。

子どもたちはみんな傘を持って、集合場所に歩いていく。

面倒見のいい6年生の子が、「ここにかけると、楽だよ」と、ランドセルの首のところにある大きな持ち手に傘をかけるテクニックを1年生たちに教える。むすこのランドセルは、その持ち手が付いていないので、肩ベルトにかけて運ぶ。おととい捕まえたニホンアマガエルをきのう逃してあげた話をしたりして、登校の列は平和に進む。

我が家で、ニホンアマガエルを1日だけ飼育した。虫かごに葉っぱを入れておくと、保護色が茶色から、緑色に変わっておもしろかった。むすこは名前をケロちゃんと付けた。ずっと飼いたいようだったが、エサが確保できないからと、翌朝には近所の畑にリリースすることに。それが悲しかったようで、「絵を描くと忘れないから」と、おとといの夕方はカエルの絵を描いていた(なぜか輪郭はいつも親に描かせる)。

今日も車通りのある道をしばらく進み、狭い公道へ。雑木林の谷を下る坂道は、道の左右に急な階段があり、まんなかが滑り台のようなスロープ状になっている。

道が狭いので、むすこと手をつないで歩くときにスロープを歩き、むすこには階段を歩かせていた。

ふと気配がして、うしろを振り返ると、カルガモの親子のごとく子どもたちが3人くらいうしろを付いてきている。転ぶと危ないので、スロープから降り、狭い階段を歩きなおす。

谷底まで坂を下ると、今度は急な階段を上る。

きょうは、ランドセルが重い。

国語と算数、生活の教科書、それから学童のための弁当に水筒も入っている。そのうえマスクもしているので、子どもたちは坂を上るのが少し大変そうだった。

気分も空もどんよりしていたが、 陸橋にたどり着くと、予定通り橋の上で別れることができた。

そのあとは、振り返りもしないで、むすこは学校へと吸い込まれていった。

我が家の家族構成: むすこの父である筆者は執筆開始時、41歳。本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻も40歳。教育関係者。基本的には9時~17時に近い働き方をしていて、職場に出勤することが多い。小1のむすこのほかに、保育園に通うむすこもいる。
【書き手】末沢寧史。異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、絵本作家。出版社勤務を経て独立。絵本作品に『海峡のまちのハリル』(小林豊・絵、三輪舎)。出版社どく社を仲間と実験中。妻は教育関係者。本連載では、むすこの小学校入学直後に直面した行きしぶりと不登校をきっかけに、子どもという「異文化」について記します。