ソーシャルアクションラボ

2023.05.31

また乗れない…車椅子、ベビーカー専用エレベーター導入進まぬ理由

 また乗れない――。大型施設などでエレベーターが混雑し、車椅子やベビーカーの利用者などが、乗れないまま長時間待たされる不便を強いられている実態がある。一部施設で車椅子やベビーカー利用者、妊婦など向けに「専用」エレベーターの導入が進むが、調べると、こうした動きが広がっているとはいいがたい。現状と課題を探った。

 「2階から1階に降りたいだけなのに」「何基も見送って15分くらい待ってた。トイレにも行きたくて、障害があって我慢できないから『漏れ』との闘い」

 下半身不随で車椅子を利用する山形県鶴岡市の渋谷真子さん(31)はJR博多駅(福岡市)を訪れた際に、駅ビル「JR博多シティ」での出来事を2022年10月にツイッターで投稿すると、7万件超の「いいね」が寄せられた。

 JR博多シティは百貨店などが入る地下1階、地上10階の商業施設で、11基のエレベーターを1日平均約3万7000人が利用する。渋谷さんは同年9月の休日の夜に施設北側のエレベーターを利用したが、満員でなかなか乗れなかった。

 北側エレベーターは3基あり、当時、1基は車椅子やベビーカー利用者など「専用」、2基は「優先」だった。だが「専用」にも多くの一般客が乗り込み、「優先」でも譲ってくれる人はいなかったという。

 ツイッターを見た人からは「今後、見かけたら譲る」などの好意的な声が多数を占める一方、「自分から声をかけてみたら?」という意見もあった。渋谷さんは「目も合わないのにいきなり『譲って』とは言いづらい」と実情を語る。

 実はこの頃、JR博多シティは「専用」エレベーターを存続させるかで揺れていた。「専用」は16年から始めたが、一般客から「誰も乗っていない時がある」「車椅子、ベビーカーの付き添い客まで乗っている」などと不満が出た。一般客の利用も散見され、思うような成果を上げていなかった。そこで、22年11月に「専用」を「優先」に戻した。

 ところが、今度は「エレベーターに乗れない」との声が相次いだ。JR博多シティは「譲り合いを求めるのは現状は難しい」と判断。23年3月、利用が最も多い中央エレベーター5基のうち1基を「専用」とし、外観も大きな「専用」の表示を付け扉をピンク色にした。

 1歳の次女をベビーカーに乗せた福岡市博多区の主婦、土井富美香さん(36)は「エレベーターに乗れても中での移動が大変で降りたい階を諦めたこともある。『専用』だと遠慮しなくてもすむ」と歓迎する。

 JR博多シティは今後インバウンドなどで人出増が見込まれることから、4月からは施設北側の1基も再び「専用」にした。田中充徳・お客さま相談室長は「設置をきっかけに、他のエレベーターでも譲り合いが広がっていけば」と期待する。【田崎春菜】

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