ソーシャルアクションラボ

2023.06.14

HSCって、知っていますか?|せんさいなぼくは、小学生になれないの?⑪

 ⑪9日目 2022年4月21日

「仕事が終わったらすぐ迎えに来くると言ったのに、来なかった。お父さんはうそをついた」

前日、放課後に学校まで迎えに行くと、むすこに怒られ、冷や冷やする一幕があった。   むすこと別れる前に確かに「仕事が終わったらすぐ迎えに来る」と言ったのだが、一度離れてしまえば大丈夫だろうとたかをくくり、学校が終わる時間めいっぱいまで仕事をしてから迎えに行ってしまったのだ。   むすこは、僕が迎えに来るのをずっと待っていたようで、授業が終わった直後に、担任からむすこが「待っている」と電話が来て、慌てて家を飛び出した。   言行の不一致は信頼関係を崩しかねず、むすこも約束は破っていいものと考えることにつながりかねない。むすこには率直にごめんと謝った。   この日は、むすこが疲れを翌日に持ち越さないよう、寝る時間を夜8時すぎに早めた。それが功を奏してむすこはコロンと寝た。 そのあと、2時間ほど夫婦で話し合った。 テーマは「HSC」について。数日前、妻が「むすこはこれなのかもしれない」と言って、ネットの記事をいくつか見せてくれた。仕事やむすこの対応に追われて読めずにいたが、この晩、記事をきちんと読んで、むすこの特性との一致に驚いた。 HSCとは、Highly Sensitive Childの略で、精神科医の明橋大二さんの著書によると、「過敏」というよりは、「ひといちばい敏感な子ども」と訳すのが適切だという。病気や障害ではなくて、あくまで性格の特質であり、人より強く不安を感じたり、周辺環境に敏感に反応したりすることがあるそうだ。

HSCには、4つの性質があるとされる。 ① 深く考える ② 過剰に刺激を受けやすい ③ 共感力が高く、感情の反応が強い ④ 些細な刺激を察知する

エレイン・N・アーロン「ひといちばい敏感な子」(明橋大二訳、青春出版社)参照

誰にでも当てはまる気質や、繊細さというよりは、あきらかに性格的な傾向がある。子どもに対して、特定のラベルをつけることにはメリットもデメリットもあるだろうが、教室内で配慮が必要な性格なのであれば、早めに対処したほうがいいように感じた。

HSCの概念を提唱したエレイン・N・アーロン博士は簡易チェック項目を作っている。

・すぐにびっくりする ・服の布地がチクチクしたり、靴下の縫い目や服のラベルが肌に当たったりするのを嫌がる ・驚かされるのが苦手である ・しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある ・親の心を読む など

エレイン・N・アーロン『ひといちばい敏感な子』(明橋大二訳、青春出版社)より引用

 チェック項目は全部で23あり、13以上当てはまるか、あるいは、項目は少なくても強く傾向が出ていればHSCの可能性が高いという。むすこが当てはまるのは13ほど。「おそらく、これだろうね」と夫婦で話す。

この概念と出会うことで、むすこの個性への理解が深まった気がした。 心当たりがいくつもあったのだ。 まず、整っていることが好き。2、3歳のころに、保育園に置いておくオムツの並べ方がそろっていないのがいやで、自分で直していた。 きれい好きで、古い公衆トイレに入るのが嫌い。誰かが口をつけた食べ物や飲み物には手をつけない。 完璧主義なところもある。休みが重なり運動会のダンスを覚えきれなかったとき、そのまま披露する気分になれなかったようで、一人だけ着席したまま過ごした。 あいさつをしない話は以前書いたが、幼稚園での劇でもセリフはしゃべらず、友だちと一緒にセリフを言うことにしてもらっていた。保育園の誕生祝いの会でインタビューを受けたとき、しゃべらないどころか、緊張のあまり腰を抜かしたかのように動けなくなってしまった。 肌着のタグが肌に当たるのを嫌がるので全部切り取っていたし、親の感情の変化にも敏感だった。 これらは「性格」で、しつけの問題ではないことは明らかだった。よく勘違いされるが、親が叱ればなんとかなることではなく、甘やかしたからこうなるわけでもない。どちらかというと、言えば言うほどやらないし、無理矢理何かをやらせようとすると癇癪が止まらなくなるだけだった。 ただ、そういう性格の子としてこの世に生まれてきただけなのだが、集団生活には合いにくい部分が少なからずあり、子どもによっては生きづらさにつながってしまうこともままあるようだ。 ちなみに、両親の子どものころにはこういう特質はさほどない。妻はむすことやや同じように学校の集団教育に対して違和感を持っていたそうだが、どちらかというと優等生で、学校に疑問を感じながらも適応してきている。私にいたっては、教室では常に手をあげて発言の機会を狙う積極的なタイプで、子どものときに簡易項目に当てはまる要素はない。 アーロン博士の著書によると、HSCは人種を問わず15〜20%はいるという。明橋氏は、臨床経験から日本の「不登校の8、9割はHSCではないか」と指摘している。 いくつか本が出ているようなので、もう少し調べたり、早めにスクールカウンセラーなどに相談しようと夫婦で話した。

 注:担任には4月時点で相談したが、校内にスクールカウンセラーが常駐しておらず、ようやく面談できることになったのが5月26日。子どもの異変を感じる場合は、学校側と交渉し、早めに特別支援コーディネーターの先生につないでもらったほうがよいと思う。 アーロン博士の著書も、HSCの特性への理解が深まるので、早めに手に取ることをおすすめします。

昨日は、むりやり引き離すのもやむを得ないと書いたが、HSCについて調べてみると、むりやり引き離したところで根本的な不安に対処できるわけではないようだ。

この日記には心の内を率直に書いており、自分の心も不安定で揺れている。 頭を冷やし、まずは、むすこが「学童はいやだ」と言ううちは行かせないことにした。休みたいという日は思い切って休ませる。 いまの学童はむすこには合わないのかもしれない。だが、近所で別の選択肢がうまくみつかっておらず、さあ、どうしたものかと考えている。 「毎日自分は学童なんだー」と、他の子にむすこがこぼしていた日もあったので、もう少ししたら行くようになるのかもしれないし、嫌いなまま終わるのかもしれない。うすうす後者な気がしている。頻度を減らせばいいのかもしれないし、まだ、よくわからない。 宿題も大変なようだ。 うちのむすこは、ひらがなや数字など、小学校の学習内容を先取りして学んでいない。あとで学べる記号や概念より、体験自体を重視してきたからだ。幼稚園も似たような方針で、むすこ自身も文字にさほど関心を示さなかったことから、小学校の学習内容はほぼゼロからのスタートとなった。

 注:むすこが通う学校は、先取り学習する幼稚園に通う子も目立ち、学習進度もゆっくりではないようだ。このギャップも準備をひといちばい必要とするHSCには不利に働いたのは否めない。

むすこは線を引くのも、塗り絵をするのも、丁寧にやろうとする。宿題も時間がかかるので、1日で終わらせるには親が1時間はつきっきりになって、追い立てなければいけない。

それにしても、いまの小1は宿題が多くないだろうか(住んでいる地域によるようではあるが)? むすこの学校では、授業が開始した初日から、ひらがなプリントの宿題が課され、以降も家庭での学習習慣をつくるためと、毎日プリントが配られている。親が家で教師の役割も果たすことになる。 学習の目的は、自分でひらがなを書けるようになる、というシンプルなことだ。だが、課題に追われ、学ぶ楽しさが置き去りにされていく感覚がどうしてもぬぐえない。これ、6年ずっとつづくの? 誰のためになっているんだろう? と、もやもやする。 自分のころを振り返ると、小学生の放課後は楽しかった記憶しかない。自分もかつてそう過ごしたように、ひたすら外で遊んでいたらいいと思っていたのだが、親も子も、(もしかしたら、教師自体も)宿題の渦にいやがおうにも巻き込まれていく——。 むすこと話していると、学校の楽しみは、おいしい給食だけだという。 おおいにそれはよいことではあるのだが。

我が家の家族構成: むすこの父である筆者は執筆開始当時、41歳。本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻は40歳。教育関係者。基本的には9時~17時に近い働き方をしていて、職場に出勤することが多い。小1のむすこのほかに、保育園に通うむすこもいる。

【書き手】末沢寧史。異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、絵本作家。出版社勤務を経て独立。絵本作品に『海峡のまちのハリル』(小林豊・絵、三輪舎)。出版社どく社を仲間と実験中。妻は教育関係者。本連載では、むすこの小学校入学直後に直面した行きしぶりと不登校をきっかけに、子どもという「異文化」について記します。