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2023.06.16

経産省トイレ訴訟、7月最高裁判決 人事院判定に原告、国が意見

 戸籍上は男性で、女性として生きる50代の性同一性障害の経済産業省職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた訴訟の上告審弁論が16日、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)で開かれた。争点は、経産省のトイレ利用制限を妥当とした人事院判定の是非で、原告側、国側の双方が意見を述べて結審した。判決は7月11日に指定された。

 最高裁が結論を変更する際に必要な弁論を開いたため、人事院の判定を適法とした2審・東京高裁判決(2021年5月)を見直す可能性がある。

 原告は男性として入省後、性同一性障害と診断された。ホルモン治療を受けて女性として生活しているが、健康上の理由で性別適合手術は受けられず、戸籍は男性のままだ。09年に女性として勤務したいと上司に伝え、化粧や服装、更衣室の利用は認められたものの、女性トイレは執務室から2階以上離れたフロアのものを使うよう制限された。原告は人事院に制限の撤廃を求めたが、人事院は15年に認めない判定を出した。

 1審・東京地裁判決(19年12月)は「性自認に即した社会生活を送るという重要な法的利益を制約している」として、経産省の制限と人事院判定をいずれも違法と判断し、人事院判定を取り消した。一方、2審判決は、経産省は同僚の女性職員の意見を踏まえるなど関係者と調整したとして、制限と人事院判定をいずれも適法と認めて原告側の逆転敗訴とした。

 原告側は上告審弁論で、人事院判定に反論。判定は、同僚の女性職員2人が原告の女性トイレ利用に「抵抗感がある」と認定していたが、他の女性職員が抵抗感を述べた事実はなく、誤った前提で判定を出したと訴えた。その上で、2審判決は性自認に即した社会生活を送るという法的利益を不当に軽視しているとした。

 これに対して国側は、人事院の判定時には、性自認に沿ったトイレ利用を認めるべきだという社会的な広い理解はなかったとし、人事院には広範な裁量が認められ、判定に違法性はないとして上告棄却を求めた。【遠藤浩二】

人事院の判定取り消せば初のケース

 原告の経済産業省職員は、国家公務員法に規定された「行政措置要求」の制度を使って人事院にトイレ利用制限の撤廃を求めた。人事院によると、行政措置要求の判定を覆した司法判断が確定した例はないといい、最高裁が今回の判定を違法と認めて取り消せば初のケースとなる。

 公務員は憲法で国民全体の奉仕者と定められ、団体交渉権や争議権の制約を受けている。代替措置として、給与や職場環境など自らの勤務条件に不服がある場合、人事院への行政措置要求で勤務条件の改善を求めることができる。人事院は、各省庁の対応の妥当性を審査した上で判定を下しているため、最高裁が判決で判定を取り消せば、経産省はトイレ利用制限の見直しを迫られる。

 人事院によると、2013~22年度の10年間で行政措置要求を受け付けたのは計119件。取り下げに至るケースも多く、判定に進んだのは計28件で、うち公務員側の要求が認められたのは8件だった。性同一性障害に関する措置要求は今回の1件のみという。

 毎日新聞が中央省庁の1府13省庁に取材したところ、経産省以外にも、文部科学省と防衛省の2省で、出生時の戸籍の性と性自認が一致しないトランスジェンダーの職員から、トイレ利用について相談があったという。民間企業でもトランスジェンダーのトイレ利用に関して取り決めをしているのは少数とみられ、最高裁が示す判決内容によっては、官民の職場の整備環境に影響を与える可能性もある。【遠藤浩二】

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