ソーシャルアクションラボ

2023.06.28

登校「付き添い」は続く。親がすり減らないために考えたこと|せんさいなぼくは、小学生になれないの?⑮

⑮13日目 2022年4月26日

昨日(4月25日)のむすこは、学校から帰ってきたあとの表情が違った。

自宅の2階で仕事をしていたら、「ただいまー」と元気な声がする。階段を降りて、玄関をのぞいてみたら、ランドセルだけが床に転がっている。あれ? 外にいるのかな?と、ドアを開けると、見覚えのあるオレンジと緑のスカーフを首にまいて立っている。

「お母さんにマフラーもらったんだー」

そう語る、むすこの表情は清々しい。それは、登校に付き添った妻が、学校を離れる際、むすこに「お守り」として渡したスカーフだった。むすこはそのスカーフをにぎりしめ、ニコニコしている。

「それで勇気が出たんだねー」

なんだか胸の奥がじわっとする。大好きな絵本で、勇気がテーマの「ラチとライオン」にちなんで、ライオンのキーホルダーをランドセルに入れる、ということも妻とやっていたようだが、妻の身につけていたもののほうが効き目があったのかもしれない。

なんとなくだが、むすこの様子を見ていると、以前、弟が生まれて妻の注目をうまく引けずに荒れていた時期と重なるところがある。

暑かったので、「水風船でも買いに行こうか」と、ぼくとむすこは駄菓子屋に自転車で行った。レジ横にくじ引きつきの10円ガムが売っていたから、「お父さんの分と2個買っていいよ」と言った。1回ははずれたが、2回目に当たりの赤いガムが出た。

お菓子が100円分もらえることになり、むすこはうれしそうに「どれがいいかなー」と、迷いながら、ゼリーと、ラムネを選んだ。

そんな感じで、帰ってきたあとは楽しく過ごし、快活によくしゃべっていた。昨夜寝たのは、少しだけ遅くなってしまい、夜8時半。

今朝(4月26日)は、寝起きは少し機嫌が悪いくらい。さほど疲れてはいない。昨夜も妻とむすこについていろいろと話し合った。学校での不安軽減策として、妻が一緒に行ける日を増やしつつ、その日の送りと迎えを誰が担当するかを時間割表にシールで示すことにしてみた

お父さん(ぼく)はサメシール、お母さん(妻)はラッコシールで、月曜は母が送り迎え、火曜は父が送り迎えなどと示す。言葉で言うだけでなく、分かりやすく視覚化してみることにした。意味があるかはわからない。

起きてからは、比較的、機嫌よくすごす。今日は体育があり、朝から体操着を着るのを少しいやがっていたが、最終的には着た。短パンがスースーしていやだったようで、長ズボンも上に履いていた。

というところまでは調子がよかったが、今日も家を出る段になって、やはり「行きたくない」となる。解決策はわからないが、この壁をどう乗り越えるかが一番のポイントかもしれない。

むすこは家の前でずっと立ち往生しているので、集団登校班のところに行って、当番で登校に付き添う別のお母さんに先に行ってもらうように伝えた。

「うちもそうでしたー、お気持ちわかります」と、小学2年生の子を持つそのお母さんは心配そうな顔で言う。その子は、2年生になってひとりで登校できるようになったという。

2018年度、ぼくが住む市では30日以上休む不登校は、小学1年生だと全市で12人。全学年では、239人いて0.87%。5年で4倍に増えている。

そこからさらに数年経っているし、行きしぶりを含めると、きっと可視化されていない子どもたちが相当数いる気がする。

学校にいると、そこにはクラスの子と、同じことを、同じペースでやれない子どもが必ずいることが分かる。通常学級には、そうした「異質な子ども」がはじきだされてしまいがちな構造があるように感じられてくる。市の同じ調査によると、不登校の理由のうち、「入学時の不適応」は約2%とかなり少ないようで、あまり親が最初から心配しすぎるのもよくないのかもしれない。

ゆったりとした気持ちで、親もすり減らないようやっていくしかない。でも、どういう塩梅で構えていればいいのかがよくわからないのが、親にとっては不安だ。

今日は、妻も朝の出勤が早いため、自分がよいしょとむすこを抱っこして登校することにする。1年生なので、本当に重い。むすこは少しジタバタする。

嫌がりはするが、暴れはしないので、そのまま約20キロの体を抱えて、細い小道を抜け、谷を降り、また丘をのぼる。

途中、むすこの気を逸らすために、ときどき足を止めて、「工作した鳥の巣に鳥は来たかなー」とか、「植えたどんぐりの芽は出てこないねー」とか、学校とは全然関係のない話をする。気持ちだけでも急がないようにする。

一部の話にむすこはのってきたが、少しすると、すぐ「帰る、学校に行きたくない」と言いはじめる。

「給食は楽しみだよね」と言っても、「行きたくない」を繰り返す。前日の夜は楽しそうに給食の話をしていたのに、いざ、朝になると不安のほうが勝るようだ。今日は仕事の打ち合わせに間に合う9時までは、ぼくも教室にいることにした。

*****

教室に着くと、むすこはなかなか椅子に座ろうとしなかった。

今日はいつもと逆の展開だった。家に帰ろうとするむすこを、ぼくが座席のところでおさえたりした。むすこは、教室を出て行っても、ぼくが教室内で動かないでいると、玄関まで行くことはない。教室の外で待っている。

そんな攻防の末、なんとかむすこは自分の椅子に座る。

朝の会が終わり、1時間目がはじまる。昨日は、宿題を少しやらなかった。やっていなかった箇所を先生に「やって持ってきてください」と指摘され、持って帰って再提出することに……。

宿題については、やるもやらないも子ども次第。子ども自身が怒られながら、自主的にやればいいとも思っていたが、けっこうなスピードで進むので、再提出が溜まっていくのも子どもの心にはよくない気もした。宿題は、手伝ってでもすぐに終わらせてしまえばいいのだろうが、それでは本末転倒だろう。悩ましい。

時間が、学校を出る予定の9時になる。先生の手があいたところで、むすこを引き離してもらう。

叫び声をあげて、泣くむすこ。しかし、なんとなく、先週と泣き方のトーンが変わった、弱まった気がする。泣きはするが、親と離れる必要があることはわかっているのだろう。ぼくがいなくなってさえしまえば、数分後には泣き止んでいるような気がした。

注:この「印象」は、親の期待に過ぎなかった。繰り返しの反省になるが、「まずは教室での安心感が重要」とこの頃はわかっていなかった。本人の意思に反するむりな引き離しは、うつや不登校などの二次障害を引き起こしかねないので注意が必要だという。

ついつい、むすこと離れるために、あの手、この手で、嘘をつきそうになる。「すぐに迎えに来るよ」とか、「長くいてあげられる日はいてあげられるよ」とか。

その場しのぎで言ってしまうこともあったと思うが、嘘になってしまうほうが、むすこの不安が増幅することに気づいてきた。都合が悪くても嘘は言わず、できないことはできない、と言う。

そのあたりも注意してみたい。

  • 先生によると、ぼくが学校からいなくなったあと、むすこはすぐ泣き止んでいるとのこと(ただ、一抹の不安は感じている)。

  • 本来は、子ども自身が楽しくて行きたくなるような「しかけ」があると一番いいのだが、親だけではいかんともしがたい。黙食も推奨され、子どものコミュニケーションが減っている。仲良くなるためのレクリエーションなどの機会もあまりないようだ。

  • 念のため、ほかに通える学校の選択肢も探っておくことにする。

  • 公立の学童ではなく、ほかの選択肢を検討中。

  • 週末に家庭訪問があるので、スクールカウンセラーと早めにつながり、連携を強めることにする。

あたりが、当面の方向性。おそらく、登校への付き添いは長く続くのだろう。どこかで一人で学校に行けるようになるか、はたまた、行けなくなるか、予想がまったくつかない。

我が家の家族構成: むすこの父である筆者は執筆開始当時、41歳。本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻は40歳。教育関係者。基本的には9時~17時に近い働き方をしていて、職場に出勤することが多い。小1のむすこのほかに、保育園に通うむすこもいる。

【書き手】末沢寧史。異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、絵本作家。出版社勤務を経て独立。絵本作品に『海峡のまちのハリル』(小林豊・絵、三輪舎)。出版社どく社を仲間と実験中。妻は教育関係者。本連載では、むすこの小学校入学直後に直面した行きしぶりと不登校をきっかけに、子どもという「異文化」について記します。