ソーシャルアクションラボ

2023.07.07

子どもとの信頼関係、どうつくる?|せんさいなぼくは、小学生になれないの?⑱

⑱16日目 2022年5月2日

前夜の5月1日(日)の段階では、「学校に行くつもり」と言っていたが、朝起きると気分が変わり、行きたくなくなるようだ。月曜の今朝も、小1のむすこは、学校に行きしぶりしている。

週末はいろいろと情報収集をし、夫婦で当面の方針を話し合った。 ・本人の意思を尊重すること 学校に行きたくなければ、行かなくてよい。当初は学校は行くのが当たり前と考えていた。だが、それが当たり前の時代ではなくなっていることが、本を読んだり、不登校の子を持つ親や、学校の先生の話を聞いてたりしてわかってきた。小学生の学習内容は意欲を取り戻せばすぐに身につけられるように思う。追い立てられ、心がくじけ、学習することを嫌ってしまうことのほうが影響が大きそうだった。

学校に行かなくても人生なんとでもなる例なんて無数にあるし、学校以外の居場所や、学習ツールなども増えてきている。思い切って考えを改め、なるべく本人の意思を尊重できるように、と考えるようにする。

・子どもときちんと話し合うこと 子どもを子ども扱いせず、きちんと話を聞いて、主体的に選んだことは、親が先回りして止めず、なるべくそのとおりにしてあげること。そうすることで、子どもとの信頼関係を取り戻し、話し合いや約束が成立する状態に持っていく必要がありそうだった。いつの間にか、何を言ってもいやだと拒絶されることが増えてきていた。 ・付き添いはフルで行うつもりでいること まずは安心が大事なのであれば、中途半端に突き放すようなことはしないほうがいい。付き添いをするなら、安心するまで一緒にいてあげることを前提とする。 ・情報収集を続けること 上記を行いつつ、我が子に合う支援制度などは引き続き調べる。当面は、スクールカウンセラーとの連携を進める予定。

注:スクールカウンセラーは学校に常駐していないケースも多く、我が家の場合も依頼から対応までに約1か月かかった。対応は早ければ早いほどよいので、担任に遠慮せず、行きしぶりの兆候が見えた段階で、なるべく早く特別支援コーディネーターの先生につないでもらうなど対処したほうがよいと思う。

むすこのHSC(ひといちばい敏感な子)という性格特性は変わらないのだから、それを受け容れてもらえる態勢をいかに整えるか、だ。どういう学校を選んでも、周囲の理解と協力は必要になってくる。

むすこの性格特性をふまえたうえで、どんな教育環境がより合うのかは、考えておく必要がありそうだ。だから、今ある環境を整えることと同時に、学校探しもつづけていく――。 ***** というわけで、今日は作戦を実行に移す。ゴールデンウィークの谷間のはんぱな平日でもある。無理して学校に行かせることなく、促しもせず過ごせるようにする。 といっても「学校に行くのか? 行かないのか?」とは聞いてしまうし、心穏やかではないので、はしばしで、学校に行きなさいオーラは出てしまっているだろう。 午前は、妻がむすこの勉強を見ることになり、家で前週の宿題をやっておこうという話になる。 下の子を保育園に送るためにぼくは外に出る。

快晴。数週間前に子どもたちと埋めたどんぐりが、黒々とした殻をやぶり、赤紫色の新芽を出していた。家にいる子どもたちを呼ぶと、「ほんとに出てきたねー」と子どもたちは口々によろこぶ。いちごも色づきはじめ、トマトも実をつけはじめている。

庭には、初夏のエネルギーが満ちてきている。 保育園から戻ると、「『ち』、書いてたんだー。何回も直してぐちゃぐちゃになっちゃったんだけどー」と言って、長男のむすこは、ひらがなの書き方の練習をしていた。 学校に行かないことを当人が一番気にしているのであろう。「も」と「ち」の字の書き方の練習を集中してがんばっていた。 算数は、妻と豆を使って楽しげに学んでいた。 11時45分。むすこが「給食を食べに行く。送り迎えしてほしい」と言う。お昼以降は、ぼくが付き添うことになっていたので、一足早く家を出て準備をする。むすこはなかなか外に出てこない。玄関に戻ると、妻とむすこが話していた。 「……やっぱり行けないって」と妻は言う。「給食だけでも食べにいったら?」とむすこに聞くが、むごん。がっかりはするが、あまり気にしないと決めるとあまり気にならなくなる。 妻は予約していた病院に出かけていった。「いってらっしゃい」と大きな声でむすこは言う。学校に行く不安がなくなったからか、親に気を遣っているのか、むすこはよくしゃべる。 とりとめのない話を聞きながら、親が自宅で学習を見守り続けるのも限界があるだろうなあと感じる。子どもが家にいることが長くつづくようであれば、やはりだれかに見てもらうなり、どこかフリースクールに連れて行くなりを考えないと精神的にもたなくなるだろうなあ。 午後は買い物に出かける。その帰り道に、公園でむすこの友達と偶然出会う。 その子は、1学年下だが、同じマンションに住んでいた幼馴染。久しぶりだったが、入学前はよく遊んでいた。その子が同じ幼稚園の子と遊んでいたので、むすこは遊びの輪に入らず、遠巻きに見ていた。30分くらい経って、ようやく、むすこはその子たちと一緒に遊びはじめる。何事もこういうペース感で進んでいくだろうなあ、となんとなく思う。 その後は、家でだらだらとテレビを見ながら過ごしていた。 欠席時は、同じ学校に通う近所の子ども同士が、手紙などを預かって帰ってくることになっている。その子たちが手紙を持ってこなかったので、先生が今日も持ってきてくれるのかなと思っていたら、17時ごろにやはり電話があって、30分後に来ることになる。 17時半ごろ。先生が車で来る。むすこは、近所の子どもたちと一緒に外で遊んでいた。その子たちのお母さんたちもいて、おおいに注目される。子どもたちは少し興奮気味だ。 家の外で、妻と一緒に先生とむすこの1日の様子を立ち話しする。むすこは、周囲に人が大勢いたこともあり、先生が話しかけてもむごん。 恥ずかしそうに、家の陰に隠れたりしていたが、先生が「自転車に乗るところを見せてほしいなー」と言うと、自転車を走らせるところを得意げに見せたりしていて、先生が来たことはよろこんでいるようだった。 近所の子たちも学校の先生がきたことが珍しくて、「Aくん、なにしてるのー?」とむすこに声をかけたり、走り寄ってきたりと、もうそろそろ帰宅する時間なのに、わいわいがやがやしはじめた。ぼくは「先生に週末につくったおもちゃを見てもらえば?」と言って、なかに入ってもらうことをうながす。 先生は、「お邪魔してすみません」とそこにいたほかの子の親に声をかけながら家に入っていく。 週末に、友達の家で、むすこが自分で釘打ちして作ったパチンコ台を見せると、「すごいねー、どうやってつくったの?」と先生が質問をする。 最初は、言葉少なだったが、先生が質問して話しを引き出していくと、少しずつ話すようになっていく。 保育園から帰ってきた、次男が積極的に、「Jくんの家でつくったんだよー」とか、「ここは自分がつくった」とか解説をはじめると、長男のむすこも負けずに、より話すようになっていく。 というような感じで、先生はむすことの距離を縮めていこうとしていた。 30分ほど遊ぶと、「うまくいかなくても、がっかりしないように。こういう感じでつづけてみましょう」と言って、先生は去っていった。 サンテグジュペリの「星の王子さま」でキツネが語るように、信頼関係をつくるには、物理的にともにすごす時間が必要なのだろう。そこに希望を見出したくなるが、うまくいくかはわからない。うまくいかなくてもいいやと、今は思っておくことにする。 以下、妻の日記――。

連休の間の平日。昨日までは、「明日学校だし」と言っていたが、朝起きたら案の定、「行かない…ずっと行かない…」と言ってる。

今日は連休の間だったこともあり、早々に諦め、「行きたくなったら行けばいい。お父さんもお母さんも無理には連れて行かないからね、給食だけでもいいんだよ」と伝える。「行かない」と言うので、「よしわかった、いいよ、お母さんと宿題して過ごすことね」と伝える。 午前は少し余裕があったので、試しにホームスクーリング(学校に行かず、家庭を拠点に学ぶこと)の真似事をしてみる。学年便りを見て、今月の単元を確認。ひらがな、数。 途中、大豆がたくさんあることを思い出し、「数えてみる?」ときくと、「うん!!」と。台所からボウルとザルを持ってくる。10個ひとマス、全部埋まったら100になる箱を作り、いざスタート。(1000数えたら楽しいなーと思ったんだけど、887個だった!!) どんどん吸収してくれるし、工夫しがいあるというか、なんか楽しい時間。まあ、毎日続いたらこりゃ大変だ!けど。 昼前、「給食行くの?」と聞くと、「行く」、と。 付き添う夫が準備を始める。「おーい、行くぞー」となると、むすこはソファにうつ伏せになって、眠い…、行かない…。 「不安だね、大丈夫だよ、帰るまでお父さんいるよ、給食だけ行ってすぐ帰ってくるのもいいよ?」と聞いてみるも、「行かない…。行きたくなくなっちゃった…」。「そうかそうか、行きたいと言っただけよくやった。いいよ」と伝える。というわけで欠席2回目。 ***** 夕方、先生が会いに来てくれた。先生が来てくれるとしゃべりはしないものの自転車にカッコよく乗って見せたりして、ほめてもらいたそうにしている。 自宅に入ってもらうと、次男がやたらと先生に話しかけて、息子の代わりにさまざま説明&応答する。その様子につくづく兄弟違うなあーと笑ってしまう。少しすると耐えられなくなったのか、むすこもしゃべりだす。結局30分ほどいてくれた。 帰り際、私と先生が外でスクールカウンセラーの予約について話していたらむすこが出てきて、先生を見送る。「バイバーイ!」と元気よく車の窓を開けて言う先生にむかって、「バイバーイ」と大声で叫び、車が見えなくなるまで見ている。 むすこは先生のことを好きになりたいと思っている。今は自分を受け止めてくれる存在かどうかを確認しているのだろう。 先生にそれを伝えると頷いて、「試されてますね」、と。そして、「うまくいくかわかりませんがしばらくこうやって来ますね」、と。 何も前には進んでいないし、この先も行かないと言い続けるかもしれない。でも、こうやって先生が手をかけてくれたこと自体が将来のむすこの心の支えになるだろう。先生もそのことを知っているのだろう。これだけでなんだか希望はあるなと思う。ありがたい。

我が家の家族構成: むすこの父である筆者は、本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。教育関係者。基本的には9時~17時に近い働き方をしていて、職場に出勤することが多い。小1のむすこのほかに、保育園に通うむすこもいる。

【書き手】末沢寧史。異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、絵本作家。出版社勤務を経て独立。絵本作品に「海峡のまちのハリル」(小林豊・絵、三輪舎)。出版社どく社を仲間と実験中。妻は教育関係者。本連載では、むすこの小学校入学直後に直面した行きしぶりと不登校をきっかけに、子どもという「異文化」について記します。