2023.07.07
タイで高まる同性婚法制化の期待 首相選出向け第1党党首が公約
タイで7月13日にも新首相が選出されるのを前に、同性婚の法制化への期待が高まっている。5月の下院選で第1党に躍進した革新系野党「前進党」のピター党首(42)が公約に掲げたためだ。上院はプラユット政権を支持する議員が多数を占めるためピター氏が首相に選出されるのは容易ではないとの見方もあるが、LGBTなど性的少数者や支援者は期待を込めて政局を見守っている。
「政権樹立後100日以内に(同性婚の)法案を通す」。ピター氏は下院選後、SNS(ネット交流サービス)にこう投稿し、法制化を急ぐと約束した。タイは性的少数者に寛容な国と表現されることが多いが、同性婚は法律で認められておらず、現行法は婚姻関係を「男性と女性の間」でのものと規定する。前進党は性別を分けず「人」や「配偶者」と総称し、性別や性自認にかかわらず平等に婚姻する権利を享受できるようにすると訴えてきた。
前進党は野党8党による連立政権の樹立を目指しており、実現を目指す政策に関する23項目の覚書を他の7党と取り交わした。性的少数者の人権擁護団体「FOR―SOGI」の法律顧問、ナイヤナ・スパプエン氏は、その2番目に「婚姻の平等」の実現が明記された点を評価する。「前進党には(性的少数者の)当事者である議員もおり、我々との意見交換や勉強会での内容が法案にも反映されている」と支持する。
前進党は2020年、同性婚を認める内容の法案を国会に提出した。一方、同性婚を認めない立場の与党側は、同性カップルに異性同士の夫婦と同等の権利を与える「パートナーシップ制度」の関連法案を提出した。両案は下院で審議入りしたが、いずれも23年3月の下院解散で廃案となった。
選挙戦で前進党は、王室を中傷・侮辱した場合に禁錮刑を科す不敬罪の改正を訴えた。王室改革は国の根本を揺るがすタブーと言え、争点として注目されたため、同性婚の議論はかすんでしまった。ナイヤナ氏は「同性婚の法制化は、世論の後押しもあり、不敬罪よりも他党の理解を得やすい。前進党にとっては実現することで政権担当能力があると証明する機会になる」と述べ、ピター氏が優先的に取り組むことに期待する。
ただ、ピター氏が首相の座につけるかは不透明だ。8党の議席数は下院(定数500)で計312議席。首相に指名されるためには、上院(定数250)と合わせた計750議席の過半数に当たる376票が必要になる。だが19年に当時の軍政が事実上任命した上院議員はプラユット首相らの意向を強く受けているとされる。上院を切り崩すのは容易ではないうえ、8党の間でも下院議長のポストを巡る対立など足並みの乱れが出ている。
13日に予定される首相指名選挙で誰も過半数に達しない場合、再投票を後日、実施する見通し。【バンコク武内彩】
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