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2023.07.10

九州北部で大雨 土砂崩れ、土石流、広範囲で浸水…言葉失う住民

 住宅を突き破る泥まみれの流木や岩――。10日未明に線状降水帯が複数発生した九州北部は記録的な大雨となり、福岡・大分両県に大雨特別警報が出された。福岡県久留米市では土石流が、同県添田町と佐賀県唐津市では土砂崩れが住宅を襲い、巻き込まれた住民らの捜索や救出活動が続いた。久留米市では広範囲の浸水も発生。住民らは大量の土砂や泥水に言葉を失った。

福岡・久留米市

 久留米市田主丸(たぬしまる)町竹野。広く山肌をえぐるように土砂が泥水と共に流れ出した跡が見えた。岩や流木が直撃するなどして付近の複数の住宅が巻き込まれ、消防などが流木などの障害物を撤去しながら、住民らの安否確認や救出作業をした。

 東司(とうじ)幾信(いくのぶ)さん(69)は土石流の発生時、自宅2階にいて、家が回転するような感覚を覚えた。そのまま10メートル近く自宅2階部分と共に流され、救急隊員に救出された。自宅1階は見当たらなかったという。

 東司さんは3年ほど前、この場所に母親と引っ越してきたといい「まさかこんなことになるとは思いもしなかった。母と二人、助かっただけよしとしなければ」と語った。

 竹野にあった実家が被災した男性(38)は、親戚からの無料通信アプリ「LINE」で、祖父が土砂の流入した住宅内に取り残されたことを知らされ、駆けつけた。幸い祖父は助け出され、当時一緒に家にいた祖母と父の無事も確認。男性は「祖父は3時間ほど埋まっていたが顔の部分は空いていたことで助かった」と振り返った。

 自営業の古賀浩幸さん(63)は、午前8時前、雨と雷がひどく、自宅前の道路を、川のように水が流れるのを見た。「ガラガラと音がして『石が流れてきよるな』と思った。玄関に出てみると、上の方は倒木や石でいっぱいで玄関前まで泥水だらけ。倒木があって車も出せず、人の手ではどうしようもない」と話した。

 久留米市内は2018~21年に4年連続で浸水被害があり、今回も同市田主丸町一帯などが広範囲で道路や農地が冠水するなどした。同市田主丸町八幡の印刷工場経営、柳瀬慎一さん(48)は午前9時ごろ、自宅近くの公民館に避難。避難時にはすでに筑後川に注ぐ古川があふれ始め、後に冠水して自宅に戻れない状態に。筑後川に近い工場の様子は確認できない中「工場には製版機や裁断機が置いてあり、水につかったら使えなくなってしまう」と心配そうな表情を浮かべた。

福岡・添田町

 添田町庄では10日未明、木造平屋の住宅脇の斜面が崩れて土砂が流入。この家に住む70代夫婦が巻き込まれ、夫は救出されたが、妻が死亡した。近くに住む70代男性は「発生した時間帯(午前3時過ぎ)はとにかく雨がすごかった。夫婦は毎日のように朝2人で散歩している様子を見ていたので心が痛む。現場の家では5~6年ほど前にも倉庫に土砂が流れ込む被害があった。またこのようなことが起こるとは……」と話した。

佐賀・唐津市

 唐津市浜玉町平原では10日朝、土砂崩れで住宅2棟が倒壊。3人が行方不明に。10日午後に70代の女性1人が見つかり死亡が確認され、残る70代と50代の男性2人の捜索が続いた。親族の男性(75)によると、2人は50代男性の妻と一緒に川の様子を見に行き、妻が用事で家の中に戻った間に、外で土砂に巻き込まれたという。親族男性は「少しの間で命にかかわることになった」と声を絞り出した。

交通機関に影響

 NEXCO西日本によると、大分道、東九州道、九州道の福岡、大分、佐賀県内の一部区間で、10日早朝から通行止めが続いた。JRは山陽新幹線と九州新幹線の一部区間が早朝から一時運転を見合わせた。鹿児島線は、門司港(北九州市門司区)―大牟田(福岡県大牟田市)間で早朝から午後3時過ぎにかけて長時間運転を見合わせた。

 JR九州によると、同社が日田彦山線などに8月末の開業予定で準備を進めるバス高速輸送システム(BRT)のうち、福岡県東峰村の専用道路の一部に被害が出ているとの情報を県から受けたといい、確認を進めている。【山口響、吉田航太、栗栖由喜、林大樹、五十嵐隆浩、下原知広】

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