2023.07.11
九州北部大雨 なぜ河川上流域も被害? 例年の浸水と違いは
九州北部で土砂崩れや河川の氾濫など甚大な被害をもたらした10日の記録的な大雨では、九州最大の1級河川、筑後川の四つの支流で氾濫が発生し、浸水被害が広範囲に及んだ。国土交通省によると、10日未明から朝の短時間に各支流の水位が一気に上昇。専門家は、東西に延びる筑後川の流域全体に線状降水帯がかかったことで水の逃げ場がなくなり、これまでは被害があまり多くなかった上流域も含め同時多発的に氾濫が起きたとみている。
3時間の間に次々と氾濫
「患者さんが待っているから早く再開しないと」。福岡県久留米市田主丸町の調剤薬局「新生堂薬局」では11日午前、従業員らが流れ込んだ泥のかき出し作業に汗を流した。大雨では約500メートル離れた筑後川の支流、巨瀬(こせ)川が氾濫。店舗に濁流が押し寄せ、床上15センチほどの浸水被害が出た。「ここまでの浸水は初めて」。薬局のエリアマネジャー、井上裕也さん(33)は肩を落とす。
巨瀬川沿いに住む会社員、石崎邦洋さん(42)は「短時間で水位が上がった」と振り返る。10日午前6時過ぎに水があふれ、30分もしないうちに空き地と道路の境目がなくなった。自宅も床上浸水。「あっという間に海のようになった」
筑後川流域で何が起きていたのか。国交省の水位計によると、巨瀬川が氾濫注意水位になったのは午前4時。20分後に高齢者等避難の目安となる避難判断水位、さらにその20分後に避難指示の目安となる氾濫危険水位に達した。濁流が堤防を越えて氾濫したのは午前7時20分。氾濫注意水位になってから3時間あまり後だった。
国交省によると、同じく筑後川支流の花月川や小石原川、城原川でも午前6~9時の間に次々と氾濫が発生。気象庁によると、この時間帯、流域上空には約5時間にわたり断続的に線状降水帯がかかり続けた。久留米市の午前9時15分までの1時間雨量は91・5ミリで、観測史上最高となった。
下流域の排水機能強化も、浸水防げず
九州大の矢野真一郎教授(河川工学)は「東西に広がる筑後川の流域全体に線状降水帯が重なって大量の雨を降らせ続けたため、本流の水位が上がった。その結果、水が本流に流れ込みにくくなり、支流が次々にあふれた」とみて、「バックウオーター現象」が起きた可能性を指摘する。
矢野教授によると、筑後川流域では毎年のように浸水が起きているが、流量が多い下流での発生が多かった。特に、本流と支流の合流地点に水門が設置されているところで、支流の水を本流に排水するポンプが能力の限界を超えて水があふれる「内水氾濫」がたびたび起きていた。
筑後川では下流域を中心に、度重なる浸水被害を受けて排水ポンプを増設するなど排水機能を強化してきた。今回の大雨では、これまで被害が相次いでいた下流域だけでなく、上流域の水位も急激に上がり、巨瀬川などで大規模な浸水が発生したとみられる。
矢野教授は「気候変動の影響で線状降水帯が発生する可能性が高まっている以上、河川だけで降ってきた水をすべて流下させるのはどうしても難しい」と強調。「避難情報を早く出せるよう線状降水帯の予測精度をさらに高めていく必要がある」と指摘する。【城島勇人、田崎春菜、平川昌範】
文化財の橋の一部が流出
大分県中津市では10日午前の大雨で、山国川に架かる国の重要文化財「耶馬渓橋」の欄干の一部が流失した。1923年に造られた全長約116メートルの石造アーチ橋。国内に現存する同種の橋で最も長く、景観に調和していることが評価され、昨年、重要文化財に指定された。
市などによると、普段は高さ約9メートルの橋脚がすべて見える状態だったが、10日に山国川が増水した際には欄干近くまで濁流が押し寄せた。水の勢いか、流れてきたものが当たって壊れたとみられる。水位が下がった11日には、橋の上に流木などが打ち上げられていた。【神山恵、高橋慶浩】
関連記事