ソーシャルアクションラボ

2023.07.11

「誰もが働きやすい職場実現を」 性的少数者の訴え、司法動かす

 他の女性と同じように扱ってほしい――。経済産業省のトイレ利用制限を認めなかった11日の最高裁判決は、8年に及ぶ法廷闘争を続けてきた性同一性障害の原告職員の切実な訴えに応えた。誰もが働きやすい職場環境の整備には、多数者の思いやりと理解が欠かせない。当事者たちからは、判決が社会全体に浸透することを願う声が上がった。

 「原判決を破棄する」。午後3時、最高裁第3小法廷。原告の50代の職員は法廷で、今崎幸彦裁判長の判決言い渡しを聞き取った。逆転勝訴の判決を「踏み込んだ指摘で、満足できる」と受け止めた。

 幼い頃から男性として扱われることに違和感があった。2009年に経産省に女性として働きたいと申し入れ、職場説明会では自身の言葉で理解を求めた。だが、人事担当者は他の職員が不安に感じているとして、女性トイレについては執務室から2階以上離れたフロアのものを使うよう利用を制限した。人事院に救済を求めたが事態は変わらず、15年に提訴した。

 1審は原告勝訴、2審は逆転敗訴と曲折もあったが、最高裁は利用制限を追認した人事院の判定が具体的な事情を踏まえずに他の職員に対する配慮を過度に重視したと判断した。原告は判決後の記者会見で「性的少数者の働く環境づくりについて、感覚的にぼんやりと考えるのではなく、具体的な事情に基づいて踏み込んだ対応をするように迫った」と評価した。

 ただ、性の多様性に対する社会の理解は深まっているとは言えない。今年6月に成立した議員立法の「LGBT理解増進法」を巡っても議論が紛糾した。

 原告には、女性としての権利を認めてもらうため、時間をかけて性別を移行してきた自負がある。1998年ごろからホルモン投与を始め、08年ごろから私的な時間は女性として過ごしてきた。今では容姿や仕草、声も女性として周囲から認識されている。「『今だけ女性』ではなく、一貫して女性として社会生活を送ってきた。その訴えを受け止めてもらえた」と語った。

 性的少数者の全国組織「LGBT法連合会」の代表を務める30代の時枝穂(みのり)さん=東京都=も判決を歓迎した。

 時枝さんは戸籍上は男性として生まれ、性自認は女性のトランスジェンダー。かつて派遣社員として働いていた企業では、女性トイレを利用したいと会社に言い出せず、多目的トイレや、執務する場所から離れたフロアの女性トイレを使ってトラブルにならないよう気を遣ってきた。

 自認する性に近い通称名の利用が認められない、性自認と異なる制服の着用を求められる――。性的少数者は職場環境を巡ってさまざまな悩みを抱える。

 時枝さんは「最高裁は性別適合手術の有無にとらわれず、トランスジェンダーの生活実態をきちんと踏まえた判断をしてくれた。トイレに限らず、雇用する側は当事者の受けている不利益を認識した上で、対応を見直してほしい」と願った。【遠山和宏】

関連記事