ソーシャルアクションラボ

2023.07.12

放課後の居場所を求めてさまよう。|せんさいなぼくは、小学生になれないの?⑲

⑲番外編 2022年5月4日

学童にしばらくは通えなさそうなので(やめることになる予感はしているが)、近場で放課後に通えそうな子どもの習いごとを探すことになった。

きょうは、連休中ではあったけれど、近所の公民館でやっているアートスクールの体験講座を受けてみることにした。家族4人で参加した。 先生は70代くらいの女性。子ども向けの講座歴40年。画家で、本の挿絵も描いている。ただ、しゃべらないむすことは好対照で、むすこの反応を待たず、マシンガンのようにしゃべりつづける方だった。先生は、しゃべらないむすこの反応が見えにくく、不安になったようだ。 おりがみ、いろんな形状に紙が切れるハサミ、ステンシル、虹色の色鉛筆――。いろいろと教材を持ってきてくれた。ただ、むすこが目を輝かせて、やり出そうとしているのに、むすこがしゃべらないゆえ、焦っている。 「あれ、興味ないのかな?」と、つぎの教材をすぐに出したり、ハサミを使おうとしているのに幼児のように「危ないよ」などと注意をしたり、「あれをつくって、これを描いて」などと、命じはじめたり。 他の子だと、声を出して喜ぶのかもしれないが、むすこは、そういった反応がない。先生が不安になっていくようだ。「ごめんねー、なにが好きかわからなくて」と反省したりする。かたわらで夫婦で様子を見ながら、むすこは、むしろやろうとしてますけど……と思っていた。 「いまやろうとしてますのでー……」などと、妻も何度かフォローに入ろうとしたりもしていたが、先生は話し続け、落ち着かない。 1時間をすぎたころには、むすこは「もう帰るー」と言いだしてしまった。 とりわけ、マグネットシートを切らせてもらったのは本人としては楽しかったようなのだが、「チューリップをつくって」「鉢植えをつくって」などと次から次に指示を変えられたり、「この切り方じゃ危ない」とハサミをとられたりして、だんだんつまらなくなってしまったようだ。 放っておいてほしいな・・・。 小学校のお受験の面倒もよく見ていると先生は語り、教室で子どもたちがつくった制作物の写真を見せてもらった。どの作品も、大人がみてうまいなあと思う出来栄え。年齢に応じて、こういう絵が描けるようになるといい、というノウハウがあるそうで、それが受験対策にもなると教えてくれた。 アート系の活動は、自由に伸び伸びやるものと思っていたのだが、〝習いごと〟となると、その分野ならではの「競争」の要素が入り込んでくることもあるようで、少し驚く。我が家が求めている「居場所」とは、方向性が違うようだった。 体験授業を終えて、帰る道すがら、「つまらなかったよねー」という話をしていたら、むすこも我が意を得たりという表情をして、「バカバカー」と言っていた(最近はストレスが溜まるとこう言う)。 むすこが、ストレスを溜めただけだったかもしれない――。と、夫婦で落胆した。だが、むすこは家に帰ったあと、もらってきた体験授業の材料を床に広げ、黙々と、制作物をつくってあそんでいた。 「これがユラユラ椅子、山、チューリップ、イルカ、魚、おばけ」などと、つくったものを教えてくれた。 やはり、やりたかったんだよね。

我が家の家族構成: むすこの父である筆者は、本づくりや取材執筆活動を行っている。取材や打ち合わせがなければ自宅で働き、料理以外の家事を主に担当。妻は、教育関係者。基本的には9時~17時に近い働き方をしていて、職場に出勤することが多い。小1のむすこのほかに、保育園に通うむすこもいる。

【書き手】末沢寧史。異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、絵本作家。出版社勤務を経て独立。絵本作品に「海峡のまちのハリル」(小林豊・絵、三輪舎)。出版社どく社を仲間と実験中。妻は教育関係者。本連載では、むすこの小学校入学直後に直面した行きしぶりと不登校をきっかけに、子どもという「異文化」について記します。