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2023.07.12

世界自然遺産後も絶えぬ損傷・盗掘 巡視員が見た白神山地の保護

 白神山地世界自然遺産地域での違法行為を監視し、マナーの啓発指導にあたる秋田県側の今季初の合同パトロールが8日、いずれも藤里町の小岳(こだけ)(標高1042メートル)、大滝(粕毛川)両コースであった。同町在住のベテラン巡視員、大森豊さん(71)は小岳コースに加わり、登山道周辺を中心に見て回った。遺産登録から今年で30年となる白神。大森さんが見た保護・保全の現場は――。

 合同パトロールは、遺産地域連絡会議の構成機関、漁協関係者、警察など関係機関が登山シーズンに合わせて実施。違法行為の取り締まりも兼ねているため、パトロールは事前に公表されていない。

 小岳コースは、大森さんをリーダー役に小岳登山口から山頂部までを見回るコースで、遺産地域巡視員、東北地方環境事務所西目屋自然保護官事務所、藤里町、東北森林管理局の各機関担当者ら20人余りが参加した。

 藤里町の素波里(すばり)湖周辺から粕毛(かすげ)川上流部に通じる林道を、車で約1時間半かけて登山口まで移動。そこから山頂部まで往復3時間近く歩いてパトロールした。

 途中出会った登山客は50~60代の男性2人。マナーを呼びかけるパンフレットを配って協力を要請した他、登山道周辺に異常がないか目を光らせた。

 大森さんは、同町の中小比内(なかこびない)集落に生まれ育った。山育ちということもあり、「見回り活動に貢献したい」と、ボランティアの巡視員になったのは2003年。その2年前にはガイドとなり、現在は秋田白神ガイド協会副会長を務める。

 脱サラで始めた本業の清掃業を営むかたわら、主に遺産地域との境界に位置する小岳には年5~6回、遺産地域外の藤里駒ケ岳には6回入山するという。

 目が離せないのは樹木の損傷や高山植物の盗掘、釣り人らによる粕毛川上流部でのたき火などだ。遺産登録された初期に比べてマナー違反は減少傾向にあるといわれるが、例えば植物の盗掘の現場で心ない登山客に注意することも少なくない。

 その場で「元に戻すように」と促すと、「何の権限があってそう言うのか」と逆切れされ、困惑することもある。丁寧に説明しているつもりでも相手に受け入れられず、歯がゆさを感じることも。そんな時は「巡視員にもう少し権限があれば」と思う。「今回のパトロールではマナー違反は確認されなかった」としながらも、気を緩めることはできない。

 環境省東北地方環境事務所によると、22年度の秋田県側の遺産地域と周辺地域の入山数は、年により増減はあるものの、二ツ森536人(前年度比187人減)、岳岱(だけだい)2408人(同94人減)だった。

 大森さんは「白神山地の魅力は、古代から受け継がれるブナ林を中心とした生態系。巡視員やガイドを通じてふるさとの自然を次世代に受け継ぐ役割を少しでも果たせたら」と話している。【田村彦志】

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