ソーシャルアクションラボ

2023.07.13

「子どもを信じて、待つ保育」幼児教育家・中島久美子先生の連載がコマロンではじまります*「まなざしの種」を育む場に

昨年の夏。私は、東京・国分寺の「カフェ・スロー」で開かれた映画「Life ライフ~ピッコロと森の神様」の上映会に参加しました。

コマロンを応援してくれているママが書いてくれた上映会の紹介記事を読んで、どうしても行きたくなったからです。そこで、映画の舞台となった森のピッコロようちえん」(山梨県北杜市)を2007年に立ち上げた幼児教育家、中島久美子先生ともお会いすることができました。中島先生の、子どもが自分で考え、自分で決める保育スタイルは注目を集めています。

森のピッコロようちえんでは、保育士や保護者、関わる大人が全員で、子どもたちがよりよく育つ場を創ることが原則です。通常の幼稚園、保育園とは違った形の幼児教育施設で、子どもの創造性、自主性を育む保育を行っています。

保育では「見守り」「待つ」ことを大切にしています

ピッコロでは1日のほとんどを野外で過ごします。

津金の山・森に囲まれ、小川もあり、畑もあり、園庭にはたくさんの野草や花が咲きます。眩しい自然の中で、様々な命に触れ、息吹を感じ、冬の厳しい寒さが子どもたちの身体と心を大きく成長させてくれます。

時間に追われず、真の自由があり、ありのままを受け入れてもらうことによって、子どもたちは輝きます。保育者は子どもの感性、想像力、考える力を信じて、口をはさまず見守ります。見守るということはそこに願いがあるということです。こんな子になってほしいという願いのもとに、その場を保育者の手の平に乗せます。その上で、子どもたちを信じ、待っているのです。

泣く、笑う、ケンカ。大人の規制のないこの森で、子どもたちは喜怒哀楽、4つの感情を平等に出し、心を大きく揺らし、存分に自分の気持ちを感じます。それは心を強く深くしてゆく源になると考えています。

                             森のピッコロようちえんのHPより

中島先生のお話を伺い、ああ、こういう言葉の連なりと行間を、コマロンでも伝えていきたい、と強く思いました。どうすれば「ピッコロ」の世界を、小さなコマロンでも持続的に伝えられるのだろう?――そう思ったとき、私の目の前に置かれたかごの中にある、雑誌が目に入りました。山梨県で発行されているフリーペーパー「ちびっこぷれす」でした。

開いてみると・・・

「ちびっこぷれす」と「子どもを信じて待つ保育」

中島先生の連載コラム「森のピッコロようちえんの冒険 こたえは森のなか」が掲載されていました。加々美吉憲編集長が撮影した写真がちりばめられた、すてきな紙面。連載は2013年にはじまり、100回以上積み重ねられていたのでした。

待つ保育は短期間ではできない。「見守ろうか」「入ろうか」「あ、やっぱり待とう」「まてよ」・・・・と5時間の保育中、頭の中はかなり忙しく、場はどんどん進むので脳の瞬発力もいる。帰宅後、夕食の用意のときや風呂でもその日の保育がよかったのかを考え続けている。また子どもに任せるからといって手放してはいない。口は出さないが、見ているし心は寄せている。毎日の積み重ねが今の保育を作り、これからも私の保育を作っていくのだろう。

                          【第83回 見守ることのむずかしさ】より
 

こんなふうに、保育現場で繰り広げられる営みが、丁寧に描かれていました。私が生きてきた新聞報道では「保育の質」、という一つの言葉でまとめられてしまいがちな世界です。

私は目に見えにくい「保育の質」や「(大人と子どもの)関わりや営み」を伝える、具体的な、説得力のある言葉を探し続けていました。だから、中島先生のコラムを見つけたときに、コマロンでも届けたい、と心から思いました。

そして――。中島先生のご紹介で、2005年から「ちびっこぷれす」の編集長をつとめる加々美さんにもご相談することができ、コマロンでも「こたえは森のなか」をご紹介できることになりました。ありがとうございます。

次回から、山内や、コマロンメンバーが、「コマロンでもご紹介したい!」「広げたい!」と思った記事を随時お伝えします。併せて、コマロンを立ち上げた山内が「我が子と向き合うときにふと思い出す、中島先生の言葉」も記します。初回は、あす公開します

ピッコロは、山の中にあります。すばらしい環境です。ピッコロへの入園を考えている方に向けて、1日保育の見学・体験を受け入れている日もあります。(詳細はピッコロのHP)「ピッコロで子どもを育みたい」と、家族で移住したり、親御さんが車で時間をかけて送迎したりして、通っている子どもたちもいるようです。すてきだなと思います。

ただ、今の私にとって、「移住」や、長距離の送迎は、現実的ではありませんでした。(以前の私だったら、ここで思考停止して諦めるか、がっかりしていたかもしれません)

だけど、近くに雄大な自然がなくても、大人の見守り方、関わり方、心持ち次第で、子どもの育つ環境は、少しずつ、それぞれが生きている場所なりに、あたたかく変わっていくと思うのです。効率や「タイパ」が持てはやされる時代や環境であっても、「待つ」ことで「育まれる」という視点を持つことで、踏みとどまることができると思うのです。どこの世界で生きていても。

だからこそ、中島先生の視点を通じて、一人一人の心の中にある「まなざしの種」を育みませんか。

上映会で。中島先生と、ピッコロのみなさん

コマロンを続ける過程で出会ったみなさんに、厚かましくも「仲間になっていただけませんか?」と呼びかける時に、こんな言葉をお伝えしてきました。

みなさんから反応をいただきながら、より豊かな言葉の世界に育てていきます。

 

森のようちえんとは――――。1950年代中ごろ、デンマークのひとりの母親が「子どもたちに幼い頃から自然と触れ合う機会を与え、自然の中でのびのびと遊ばせたい」と願い、毎日子供をつれて森に出かけたのがきっかけではじまりました。ドイツでは1990年代になって急速に増え、現在では幼稚園として認可されています。

ドイツの森のようちえんは園舎を持たず、毎日森へ出かけていくスタイルです。日本では自然環境の中で行う幼児教育や保育を「森のようちえん」と呼び、そのスタイルはさまざまです。園舎を持つようちえんも持たないようちえんもあります。共通しているのは自然環境の中での幼児教育と保育です。

多くの森のようちえんは、意図的に大人の考えを強要せず、子どもが持っている感覚や感性を信じそれを引き出すようなかかわり方をしています。

                              森のピッコロようちえんのHPより

【書き手】山内真弓。子ふたり。元転勤族で、茨城、仙台、千葉、東京で子育て。コマロンをはじめた毎日新聞記者です。

【次回からの書き手】中島久美子。幼児教育家。「森のピッコロようちえん」代表。東京・横浜・山梨県内の幼稚園・保育園に勤務後「時間に追われることなく、子どもと向き合う保育をしたい」と、「ピッコロ」をお母さんたちと立ち上げる。

小学館雑誌「3、4、5歳児の保育」(2010年2月号の第45回「わたしの保育」)において、保育での出来事を綴った「動物の死」が大賞受賞。地球元気村特別講師。2021年にドキュメンタリー映画「Life ライフ~ピッコロと森の神様」が公開された。保育のモットーは「一人一人を丁寧に。流さない保育」。9月から、オンライン連続講座「ピッコロと『10の姿』〜しあわせをつくる子どもたち」を開催予定。