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2023.07.16

駅では手旗で歓迎、運転士は少し緊張 再開の南阿蘇鉄道に乗ってみた

 「こっちの方が感激してしまった」――。15日、全線で運行を再開させた南阿蘇鉄道(南鉄、熊本県高森町)。その始発を担った名物運転士、寺本顕博さん(68)は定刻通りに終点の立野駅(同県南阿蘇村)に到着後、涙ぐんだ。沿線の家々や水田のあぜ道で多くの人が運転再開を祝し、列車に手を振る姿に感極まった。

 南阿蘇鉄道は熊本地震で大きな被害を受け、これまで高森(高森町)―中松(南阿蘇村)間、7・1キロの運行だった。この日、不通だった中松―立野(南阿蘇村)の10・6キロの間も運転が再開し、JR豊肥線の乗り入れも開始、熊本市中心部にもアクセスできるようになった。

 始発列車は午前6時、2両編成で高森駅から出発した。軽快なトークで沿線の観光案内をすることで知られる寺本さんだが、この日は「まずは安全に気をつけた」と口数は少なめ。緊張は隠せなかった。

 高森を出て見晴台、南阿蘇白川水源、阿蘇白川、中松――とこれまで運行していた区間を通り、南阿蘇水の生まれる里白水高原、阿蘇下田城、加勢、長陽、と不通だった区間に入る。どの駅でも、多くの人が手旗を振り「おかえり」と声をかける。横断幕も掲げられ、寺本さんに花束が贈られた駅もあった。

 遠くから足を運ぶ人も。京都市から来た男子大学生(20)は「南鉄の不通区間が全国で唯一乗れていなかった区間なので、再開の日に乗れてうれしい」と興奮気味に話した。

 無事に運行を終えた寺本さんは「あっという間でした。特別な1日になった」と話した。

 午前11時からは高森駅で記念式典もあった。南阿蘇鉄道社長の草村大成・高森町長は地震発生当時を振り返り、「廃線を考えなければならないほど被害は甚大だった」と打ち明けた。一方、利用できる制度を駆使して全線運行再開までこぎ着け、「国、地方公共団体、民間の大きな力が発揮されたお手本のような復旧だったと感じている」と胸を張った。

 午後0時20分には、式典列車が出発。かけ声は地元の高森高3年の男女が担った。2人はこれまで、減便運行となっていた南鉄では時間が合わず通学に使えなかった。週明けからは念願の列車通学だ。普通科の田所夢華さん(17)は「南鉄は景色が良いので来週からが楽しみ。とてもワクワクしている」と目を輝かせていた。

 再び動き出した南阿蘇鉄道は、地域の足、観光列車として、これからの地域の核となることが期待される。【野呂賢治】

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